第50話 狩って食って寝る

「さて、臨時拠点もド派手に爆破したことだし、今日も1日封印されし大厄災の獣探し、頑張ろうね〜」

「なんで爆破を……?」

「建物を壊すのは楽しいじゃん? 人間もアタシ達以外にはいないし、瓦礫はこっちに来ないように調整したし」

「…………」


 爆風とかはこっちに来てだいぶ驚いたけど、それは良かったのだろうか……?

 無傷ではあったから、いいの?








◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 封印の気配を追い続け、1時間もかからずに封印されし大厄災の獣を無傷で狩ることができてしまった…………。

 自分でもびっくり。

 ロトスの町の大厄災の獣との戦いで私が倒れた原因は、本当に位置取りが悪かったせいで魔力の消費が多かったことだと思い知らされる。

 ……でも最初から戦っていた騎士団の人達に邪魔だから退いて欲しいなんて言える程の勇気なんてない。

 必死で戦っているところに水を差すなんてことはできないし、そもそも退くべき理由がなんなのかを知らない人に説明する時間も……。

 ルプアが言うには騎士団の人の攻撃の意味がなかったとかって言っていたけど……、どうしてだろう?


「いてっ……、…………今回の大厄災の獣の記念硬貨が私に飛んできたけど、ルプア、触れる?」

「…………あれ? 嘘っ、触れない? 昨日のはまだアタシ、持っているけど一体どうして? …………まさか!」

「まさか?」

「フユミヤちゃんの魔力が抜けているからだよ! アタシがこの記念硬貨に触れない原因!」

「……どういうこと?」

「一晩経ってフユミヤちゃんの魔力がアタシから抜けたの! 今回の大厄災の獣はフユミヤちゃんが主にダメージを与えられていたからそれが条件で、記念硬貨が飛んできたんだと思う! 多分!」

「……MVPを取った記念ってこと? い、いらない……」


 使い所の一切ない硬貨、別にいらないんだけどな……。

 なんでこんなものがあるんだろう?

 1つ1つ絵柄も違うのがちょっとイライラさせてくる。

 人に押し付けようにも押し付けられないし、これから先、大厄災の獣を狩るのならこの小さくできるけどデカい硬貨が毎回私に飛んでくることになってしまうけど……。


「いらないなら魔力分けて欲しいな〜。多分だけど、誰かに魔力をいっぱい分けてくれればフユミヤちゃんに記念硬貨は飛ばなくなると思うよ」

「……じゃあ魔力、分ける」

「おけ、光属性でもいいから魔力分けて分けて〜。アタシはあの記念硬貨欲しいし!」

「……なにかに使えるの?」

「いや〜、記念で欲しいかなって〜」

「…………」


 誤魔化すような声色だけど、今のところ使い道は思い浮かばないし、このまま魔力を渡してもいいのかもしれない。

 今すぐに抱きしめろと言わんばかりに両腕を広げるルプアを軽く抱きしめて光の魔力を送る。


「うんうん、来てるね〜。魔力。5分くらいこのままでよろしく!」

「……そのくらいこうしている時間が必要なの?」

「いや、大体で適当。まあ5分だし、カップ麺待つようなものだと思っていいんじゃない?」

「カップ麺、か〜。比較的短いかもだけど……」

「闇属性よりかは流れてくる魔力の量は多いんじゃない? この世界に来てからはこっちを使っているんでしょ?」

「……そうだけど、電気の魔力の方がほとんどのような?」

「うーん、電気の魔力と光の魔力って同じような気配がするんだけどね。光の魔力を圧縮したのが電気の魔力だと思うよ?」

「……光がどう圧縮したら電気に?」

「雷もすごい光るでしょ? それでもって当たったら死んじゃうし」

「……でも光を圧縮したらレーザーみたいなものになるんじゃ?」

「エネルギーの塊って共通点は似てない?」

「……そうかな?」

「まっ、気になるならレーザーも再現してみれば? 似たような結果になったらアタシの推測は合っていたことで!」

「…………」


 たしかに、再現してレーザーと電気の比較をしてみてもいいのかもしれない。

 次の大厄災の獣との戦いで試してみよう。


「……それにしても光の魔力って大厄災の獣に効きやすくなっているわけ? 特殊なのはわかるけど、それにしたって効きすぎじゃない?」

「……使っている私でもわからないかな。そういえばルプア、騎士団の人やコルドリウスさんの攻撃が大厄災の獣に効いていなかったみたいなこと言ってたけど、あれはどうして?」

「雑兵共とコルドリウス君は魔力で攻撃する武器を使っていないからね。単純な物理攻撃では魔力壁膜を貫通できないの」

「……魔力で攻撃する武器? 騎士団の人とコルドリウスさんは普通の金属製の武器を使っているの?」

「そういうこと。純粋な前衛は基本的には魔力を筋力に変換する魔術、と言っても身体強化なんだけど、それを使って戦っているわけ。ただ、魔力壁膜って物理的な衝撃を抑えるために張り巡らせるものだから無意味ってこと」

「物理攻撃は魔力の攻撃より無意味ってこと?」

「そういうこと。まあ前衛の魔力なんてたかが知れてるから魔力で攻撃する武器にしたところで大したダメージ源にならないけど。精々肉壁ね」

「肉壁……」


 だいぶ酷い言い様だ。

 でも、どうして身体強化で戦う方法が前衛の人にも多いんだろう?

 魔力壁膜がそういう性質だとわかっていれば魔力で攻撃する武器を扱いそうだけど……。


「といっても大抵の人は封印されし大厄災の獣と戦おうとしないから大厄災の獣に魔力壁膜があるなんて知らないんだけどね」

「…………だから身体強化で戦う方法を?」

「純粋な前衛って魔力を感じ取る感覚が鈍いからねぇ……、身体強化が強いって錯覚しちゃうわけ。現実は魔力攻撃が1番効くというのにね!」

「……魔術士と騎士、どっちが多いんだろう?」

「残念ながらこの国だと騎士。大して役に立たない対人戦の大会でえるせいでなりたがる人間が多いわけ。魔術士の扱いが割と雑っていうのもあるしね」

「…………厄災の獣ってこの国ではどういうポジションなの? 倒さないと大変なことになるんじゃ……?」

「そのはずなんだけどね〜。対人戦で勝った方がかっこいいからなんて履き違えているやつらが多いわけ。……この国もうどうしようもないんじゃないかとは思ってるよ」

「えぇ……」


 …………思ったよりこの国ってヤバい?

 厄災の獣という明らかに倒すべき化け物がいるのに、それと戦うことなく対人戦を頑張るっておかしいんじゃ……?

 この国がどうやって今まで成り立ってたのか不思議なくらいおかしな状況になっているよね?

 ……いや、モルコズム領みたいに領主一族が殺し合っているような場所がすでにあった。

 フェルグランディス王国の落陽の日も近いということなのかな……。


「まあでも厄災狩りが結構な人数いるからまだまだこの国なんとかなっているんだけどね。セルクシア公爵領やチェルコル伯爵領辺りは厄災狩りと上手くやっているんだけどね」

「公爵ってことはルプアの?」

「まあ元私、アキュルロッテちゃんがそこの2番目の子どもとして生きていたよね。前王の孫、現在の王と3歳の時に婚約させられたのはびっくりしたけど」

「3歳で婚約……」

「地球換算でも4歳越えたくらいの年なんだけどね。初対面でいきなり現在の王もとい、ウォルスロムが何も言わずに近づいてきてそれを見たウォルスロムの父が元私の父に婚約取り付けたわけ。嫌になるよね〜」

「……いきなり近づいてきただけで婚約って、なんでそうなるの?」

「わからない。王家の答えがなんだとか言ってたけど一体なんだろうね」

「王家の答え……?」


 王家にある特殊な体質、なのだろうか?

 よくわからないけど、それで婚約を取り付けられてしまうのは恐ろしいような……。


「……とまあ、よくわからない話はここまでにしておいてもう5分過ぎたと思うよ。もういいんじゃない?」

「そうだね」


 ルプアから体を離す。

 ……つくづく思うけどこの魔力の分け方、同性ならまだしもたった1人とはいえ異性にもやったサクラが信じられない。

 勇者王レイヴァンはなにを考えてサクラにこの魔力の分け方を教えたのだろうか?


「よし、それじゃあまたまた封印されし大厄災の獣をぶっ倒してアタシが記念硬貨手に入れられるかの検証だね! 行くぞー!」

「うん」


 魔力の気配を探りながらルプアに着いていく。

 ……今日2回目の封印されし大厄災の獣なんて見つかるのだろうか?








◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「大厄災の獣はもう少しってところだけど、そろそろ野宿しないと危なくなってきたね」

「もうそんな時間? ……早い」

「臨時拠点作るからちょっと待っててね!」

「うん」


 ボケーっと立ちながら臨時拠点が作られる様子を見る。

 ……結局あの後、厄災の獣ばかり出くわしてひたすらそれらを闇の魔力で攻撃して、倒したあとに落とした闇の魔力が籠もった魔石をひたすらルプアが集めていたくらいしか特になかったな。

 なんでルプアが闇の魔力の魔石をあんなに求めているのかは知らないけれど、食料となる肉は稼がなくて大丈夫なのだろうか?

 多分肉の在庫があるんだろう。

 おそらく、きっと…………。

 あるよね?








◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 で、でかい、でかすぎる……。

 今、私の眼前にあるのは、平べったい皿の上にこんもりと山のごとく積まれた山盛りミートソースパスタだ。

 パスタの所々にサイコロ状に切られた牛肉のような肉もある。

 ……脂身があるのはどうしてだろう?

 脂身といえば結局、あのラーメン屋さんの脂身の秘密も聞けなかったな……。


「さてフユミヤちゃん、今日のご飯はお肉マシマシミートソースパスタです! 卵液いる?」

「卵液をかけてなにを……?」

「オムパスタにできるよ?」

「…………量が多いから今回はパスで」

「じゃあアタシの分に全部かけちゃお〜、どーん!」


 そんなかけ方をしたら皿から卵液が溢れるのではないかと思ったら違った。

 卵液をかけながら、火の魔力で加熱もしている。

 結果的にとろとろに固まったぶ厚い玉子のシートがパスタの上に綺麗に乗っかった。


「外だけ固めただけだから串でも通したら卵液がまた湧いてくるわけ。たまごファウンテンミートソースパスタができたってこと」

「……卵液、だいぶかけてたけど大丈夫なの?」

「大丈夫。いざとなれば治療魔術の応用で消化を早めることができるから!」

「治療魔術の応用で消化を早く……?」

「ユーリから教わって……、秘策にするとかって言ってたっけ。あんな簡単な魔術を秘策にするなんてあの子も食い意地張ってるというか……。まあ、食べれなさそうなら言ってね。その魔術フユミヤちゃんにかけるから」

「わかった」

「うん、ならよし。それじゃあ食べよう」


 と言ってルプアはフォークを思いっきりたまごファウンテンミートソースパスタに突き刺してくるくると回し始めた。

 ……わたしも食べよう。








◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ま、まだ半分も残ってる。

 牛肉そっくり肉を先に食べ尽くすべきではなかった。

 ここは音を上げよう。


「そ、そろそろ限界……」

「おけ、例の魔術ね。そっち行くから待っててね〜」


 丸い石のスツールから立ち上がったルプアが私の方に近づいてくる。

 消化を早くするって一体どうしてそのようなことができてしまうのか。

 胃の中の食べ物は体の中へ全部取り込まれてるとしても消化を早くすることは体に良いのかどうかも疑問だ。


「それじゃ、魔術かけるからお腹触るけど大丈夫?」

「うん、大丈夫。お願いします」

「おけ、じゃあ触るね。お腹の中の物がなくなっても驚かないでよ〜」


 ルプアの手がお腹に触れる。

 ……これから治療魔術のような物をかけられるわけだけど、本当に胃の中の食べ物は消えるのだろうか?


「…………あれ、本当に消えた」


 1分も立たないうちに胃の中がスッキリした。

 こんな魔術があって食欲もあれば無限に食べ物が食べられそうだけど……。

 でも魔力が豊富な物を食べ過ぎると気絶しちゃうんだっけ。

 私の食欲だとやらないとは思うけど、それは気をつけておかないと。


「お? 半信半疑だった? でもわかったでしょ? 食べた物が消えたって」

「うん、でもどうして……?」

「治療魔術は体のある機能、まあ治療魔術だと体を治す機能を活性化させるんだけど、今のは胃の消化機能を活性化させたわけ。他人の体だったら触る必要があるけど、自分の体なら触らずともできるわけ。次限界になったら試してね」

「……わかった」


 ルプアが自分の席に戻って食事を再開する。

 ……私も再開しよう。








◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 た、食べ切れた。

 消化促進魔術を使いつつ、なんとかお肉マシマシマシマシミートソースパスタを撃破した。

 長く、険しい戦いだった。

 ロトスの町で戦った大厄災の獣の次に強敵だったのかもしれない。

 食べ物だけど。


「おっ、食べ切れたね。それじゃあ洗浄魔術かけよっか。全身にかけるから立てる?」

「うん」


 ルプアに言われるまま立ち上がる。

 消化促進魔術で胃の中の食べ物は容量の半分くらいまでに減らせたので立ち上がっても胃の中の食べ物を戻す心配もない。

 そんな魔術があるからユーリちゃんはドカ盛りの食べ物を安心してパクパクバクバク食べていた、というわけか。


「そんじゃ、色々まとめて洗うから口は開けて目を閉じてね〜」


 言われたことに従う。

 結局まとめてやるんだ……。


 口内、全身、しっかり洗われた。

 これで今日は後は寝るだけだ。


「さて、終わったからフユミヤちゃんは布団の上に寝袋展開して寝てね〜。アタシは闇の魔石まとめてから寝るから。」

「うん、わかった」


 さて、寝袋を展開して寝るとしよう。

 ルプアが集めている闇の魔石は果たしてどんな古の魔法陣に使われるのだろうか?

 平和な使い方だといいんだけど……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る