第41話 魔力の分け方

 連載が止まっていることで有名なマンガが完結したかとか、あまり名前を聞いたことがないバーチャルユーチューバーの登録者は100万人行ったのかとかといった質問をルプアから投げかけられたけど、よく知らなかったのでうまく答えられなかった。

 知らない物は知らないのだ。


「フユミヤちゃんはなんか趣味あったの? Vも見てないマンガも読んでない、ゲームとかやったことある?」

「子どもの頃、人との付き合いで……」

「えっ、じゃあなにが趣味なわけ?」

「……資格勉強?」

「フユミヤさん、それが趣味なの……?」

「といっても就職してから取った資格のほうが多いけど……」

「そんな娯楽のない生活送ったら頭おかしくなるって! フユミヤちゃん今何歳?」

「地球換算24歳……」

「今のアタシの1個下じゃん、それなのに資格たくさんあるわけ? 学生の頃1個取って就職してから2個、なわけないよね?」

「学生の頃は忘れたけど、就職してからは4個の資格を取ったかな」

「4個〜!? ほとんど勉強漬けじゃん! そんな生活でよくモチベーション維持できたよね」

「お給料上がるし、通年で受けられるから……」


 結局これも死んだことによってなかったことにはなったけど、……まあ金目当てで勉強していたようなものだし、いいかなって。


「金目当てか〜、ならアタシも……、楽しくないことなんて頑張れるワケないっての! 人生に苦行なんていらんわ!」

「わたしもできなさそう……。そもそもわたしは資格勉強をしたことがないんだけどね」

「英検とか漢検は取らなかったわけ?」

「面倒くさいから受けなかったよ。塾からも勧められたけど、結局取らずに高校合格できたから……」

「高校合格とか懐かしすぎない? えっ、サクラは高校生の時にこの世界に来たってこと? 若くない?」

「そうだよ。まだ高校1年生に成り立てだったの」

「ってことは最終学歴中卒ってこと!? まぁ、アタシは高卒だけど、フユミヤちゃんは専門学校? 短大? それとも4年制大学?」

「私の最終学歴は4年制大学を卒業、だね。留年もせず卒業できたよ」

「ってことは資格は2年以内で4つ取っちゃったわけ!? 化け物?」


 化け物と言われるほどでもないような……?

 世の中にはもっと早い頻度で資格取っている人もいるわけだし……。


「資格モンスターフユミヤちゃんの話はもういいとして、サクラちゃんはこの世界にどうやって来たわけ? やっぱり死んだの?」

「死んでるはず、だと思う。おじいさんの乗っている車がコンビニに突撃してきて潰されちゃったから」

「うわぁ……」


 地球のニュースでよく聞くやつだ。

 あぁいうのってどうにもならないんだよね……。


「よりにもよってクソボケ害悪ジジイに殺されたわけ!? ひっどい死に方をしてるね……」

「……殺されているのかな? 頭も潰されたけど、ギリギリ生きている可能性とかは……」

「ないないないない! 頭やられたらもう手遅れでしょうが!」

「だよね。でもなんでそれからいきなりこの世界に来ることにつながるんだろう? フユミヤさんはどうなの?」

「私は熱中症と脱水症状で死んで、目が覚めたらこの世界にいたって流れ」

「……熱中症でって外? 家? エアコン代ケチった?」

「外だよ。ちょっとやらないといけないことがあってね。それを済ませたけど家の前でぶっ倒れて意識なくなっちゃった」

「熱中症の対策はしてた?」

「全然、してないかな」


 むしろその逆、というか……。

 あんまり詳細を話すのは良くないからここまでにしておきたい。


「なんで〜? まだ対策できる方じゃん? アタシは東京の街中歩いていたら通り魔に刺されたんだけど? 出血多量で苦しかったんだからね〜?」

「東京も物騒なところあるからね……。」

「ちゃんと大通り歩いていたからね!」

「刺された以上、大通りも脇道も関係ないよ……?」

「そうだけどさ〜」


 ……なんで地球での死因の話が盛り上がっているんだろう。

 ところどころ物騒だよね……。


「ま、その結果今のつよつよルプアちゃんがいるんだけどね。その気になれば1人で大厄災の獣狩れちゃうし」

「……あれ? 大厄災の獣って光の魔力じゃないと倒すことができないって話だったけど、100年以上経った今は違うの?」

「アタシは風の魔力の真髄を掴んでいるからそれをつかって倒してるの」

「魔力の真髄……?」


 聞いたことのない単語だ。

 真髄という辺り、強そうだとは感じるけど……。


「フユミヤちゃんだって掴んでいるでしょ、光の魔力の真髄」

「……掴んだ覚えはないけど」

「ほら電気の魔力って言っているやつ!」

「あれ、そうなの?」

「そうでしょ、光の魔力を圧縮して出してるし! 光の魔力を使っている時と比べて魔力の消費が多いとか感じたことはないの?」

「……そういうのは、あまりよくわかっていなくて」

「自分の魔力残量くらい気にしなさいな! 今日の大厄災の獣と戦っている時だって邪魔なやつらがいて一発打つ度にゴリッゴリッ魔力が減っていたじゃない!」


 ……封印されし大厄災の獣と戦っている際、ルプアはその場にいなかったような。

 もしかして、


「……見てたの?」

「それはもうばっちりと! やっぱり魔力の真髄掴めてないと全然ダメ! 全然大厄災の獣に攻撃通ってなかったね!」

「……じゃあ、私の攻撃しか意味がなかったの?」

「そういうワケ。騎士団を名乗る雑兵共と、コルドリウスくんは特に意味なかったかな。ユーリと王妹殿下の攻撃は若干効いてて、王弟殿下は傷がもっと深ければ魔力暴走で有効打を打てたんだけど……」

「光の魔力の援護なしで大厄災の獣と戦っていたの!? それは無謀だよ……」

「サクラちゃんが言っている光の魔力の援護っていうのは? 攻撃するのとは違うの?」

「うん、簡単に言うとね、他の人が光の魔力を一時的に使えるようにする魔術のこと。わたしは戦うことができないからこうすることでしかレイくん達の手助けができなかったんだ」

「それを使えばアタシでも光の魔力が使えるってこと?」

「今はどうかわからないけど、使えるようになるはずだよ。一時的にだけど……」

「一時的に、というのはどのくらいなわけ?」


 一時的に、といってもだいぶ幅がある。

 それをはっきりさせたいのか、ルプアは質問を掘り下げていた。


「与え方によって結構変わるんだよね……。戦闘中後方からずっと分け与え続ける方法だったり、身体的な接触で分け与える事もできるから……、どのくらいだろう?」

「なるほどね……。フユミヤでも覚えられる?」

「……あれ? 他人に魔力を分け与える方法って今知られてないの? 結構簡単だけどな……」

「簡単なら教えて欲しいんだけどな〜?」

「それを覚えるにはまず、身体的な接触での方法を覚えてもらった方がいいかな? ……フユミヤさんに教えても魔力の属性がほぼ同じで意味ないから、わたしがルプアちゃんに教えて、ルプアちゃんがフユミヤさんに教えて、フユミヤさんがルプアちゃんに実践すれば良さそう?」

「なにそのぐちゃぐちゃな伝授方法……。それでわかるならいいんだけど」


 それにしても身体的な接触、とは言っているけど一体なにをするんだろうか?

 あまり過激なことはされたくないし、したくもないんだけどな……。


「この状態でできるかわからないかな……、まずはね、相手に触れる必要があるんだけど……」

「……魔力壁膜解除しないといけないわけね。慣れすぎると解き続ける方が大変なんだけど。……これでいい?」

「うん、触れた! 中に入ることは……、できないか」

「何気なく取り憑こうとしないでよね……! で、触ってどうするわけ?」

「ただ触れるだけだと効率が悪いから……」

「……エッ」


 サクラがルプアを抱きしめた。

 えっ、他人に魔力を分け与えるってこうしないと効率悪いの!?

 それはちょっと嫌かも……。


「うん、いけそうだね。これから魔力を分けるから抵抗はやめてほしいかな」

「……これが魔力を分け与えられる感覚ね。なんだか得体が知れないけど」

「そう? レイくんはこのやり方がいいって言ってたけど……? でも嫌がる人とかも普通にいたからそういうことかな?」

「……男女構わずにやってたわけ?」

「やったのはレイくんとシルフェリアだけだよ? 他の人には杖で魔力を分け与える方法しかやっていなかったけど……」

「なら良かった。……この方法、異性にやろうものなら誤解を与えかねないけど、大丈夫なわけ?」

「そもそもこれ、レイくんから勧められた方法だし……」

「……勇者王レイヴァンとはなんともなかったわけ?」

「なんのこと? レイくんは友達だよ?」


 友達発言を聞いて苦い物を食べたかのような顔をするルプア。

 この抱きしめ方ってさ…………、友達にやるような物ではないよね。

 勇者王レイヴァンは何を思ってこの魔力の分け方をサクラに勧めたんだろう?


「………………………………これ、いつまでやっていればいいわけ?」

「とりあえず1回離して様子を見よっか。この状態になってから魔力を分け与えたのは初めてだし」

「やっと終わった……。これで光の魔力を使おうとしたら使えるようになるわけ?」

「今回分けたのは光の魔力だからそうなるよ」

「試してもいい?」

「うーん……。元はわたしの魔力だから大丈夫なのかな? 弱めに魔力を使う分には問題ないよ」

「なら試しにっと……。出せるね。光の魔力の存在を知った時に試したら全く出なかったけど、分け与えられた今ならいけるってこと?」


 ルプアの手から光の球が出てくる。

 手の上で転がしたかと思ったら上に飛ばして光の球が霧散した。


「魔力、無事に分けられたみたいだね。よかったぁ。じゃあ、ルプアちゃん、フユミヤさんになにかしら魔力を分けてあげて」

「え〜分けるの? アタシのつよつよ風の魔力を? フユミヤちゃんは耐えられるかなっと」

「ぬぇっ」


 ルプアが勢いよく抱きしめてくる。

 力も強いからどこかの骨折れそう……。


「うん、あるね……。じゃなくてフユミヤちゃん、魔力分けられている感覚がわかるかな?」

「……わかるけど」


 少しユーリちゃんに似た強い魔力の気配が私の体の中に入っていくのを感じる。

 魔力を輸血しているようなものかな?

 それで一時的に魔力を分けてくれた人の魔力の属性が使えるようになる、とかかな?

 正しい仕組みかどうかはわからないけど、要するにそういう理屈で身体接触による魔力の受け渡しが行われているんだよね……?

 …………。

 なんか苦しくなってきたかも……。

 物理的にとかじゃなくて、魔力的に……。


「……ルプア、なんかキツくなってきた。やめられそう?」

「やっぱりアタシの魔力には耐えられないか。さすがアタシ!」

「……離れないの?」

「魔力分けるのは止めたでしょ? どうせこの後フユミヤちゃんから闇の魔力分けてもらうんだからこのままで良くない?」

「このままでいいにしては力が強いかな……」


 特に顔周辺が。

 ……身長が小さいから仕方がないのかもしれないけど、埋まるべきではない場所に顔が埋まっている。


「じゃあ腕の力弱めるね……」

「…………顔」

「身長の都合! 仕方ないよ! 背伸びしたってね、こうなるだけだから!」

「じゃあ、しょうがないのかな……?」

「……フユミヤちゃん、チョロくない? ルプアちゃん心配なんだけど……」

「……じゃあどうしたら?」

「異性にこの方法は実行しない方がいいよね〜」

「……それはそう」


 こんなことを自分からするのは同性でも抵抗がある。

 今回は本当に効果があるのかということを確かめるためにやっているけど、あんまりこういうことはしたくない。

 ベタついた身体接触なんてされたことないし、単純に落ち着かない上に、なんか鬱陶しいから嫌だ。


「……わたしはレイくんから教えられたんだけどな」

「絶対下心あるって! この方法!」

「……レイくんに限ってそれはないよ。こっちの方が効率がいいからだって理由だったよ? 教えてくれた時も仕方なくって感じだったし、抱きしめられるの嫌そうだったし」

「…………サクラちゃんもチョロくない? 身体接触でいいなら手を繋ぐとかそういう方法でいいんじゃないの?」

「それだと効率が悪かったの。魔力も残りにくかったし。数十分も経たずに使えなくなっちゃったんだよね」

「………………まあ、普通の人にできる身体接触での魔力輸送の1番効率のいい方法はここまでかな?」

「…………ルプア、それ以上はいけない」

「それ以上ってなにがあるの?」

「なんにもないよ。ね、フユミヤちゃん」

「そうだね」

「…………?」


 サクラは私達がなにに辿り着いたのかがわからないのか、首を傾げている。

 ……そのまま知る必要はないと思うな。

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