第42話 24歳の赤ちゃん、ってこと?

 私達の脳裏によぎった“効率の良い”魔力輸送の方法を知りたそうにしているサクラを無視するために、魔力輸送を開始する。

 闇の魔力、普段から使っていないから分け方がわかりにくいけど、これでいいのだろうか?


「……ん? なんか消えてく感覚あるんだけど、光と闇って両立できないの?」

「……そうなの?」

「あっ、力弱めないで! このまま光の魔力かき消しちゃうくらい闇の魔力を分けて分けて!」

「えぇ……」


 そこまでして闇の魔力が欲しいのか……。

 抱きしめる力はそのままにして闇の魔力を送り続ける。


「……光と闇の魔力が両立できないならフユミヤさんとわたしってなんだろうね? 人なのかな?」

「……あれ、サクラって光の魔力しか使えないんじゃ?」

「だってわたし、フユミヤさんと目の色一緒だし。今試したら闇の魔力も出てきたよ」

「……ほんとだ」


 サクラは闇の魔力の使い方を知らなかったのか、初めて扱うかのように闇の魔力の球を放り投げた。


「えー、わたし、闇の魔力、あったんだ。……でもこれ、厄災の獣に効果あるのかな? 逆に強くしちゃったりしない?」

「それはこれから試すわけ。サクラちゃんの空間を出たらね」

「酷いよルプアちゃん〜。わたしも外の世界出た〜い。もうこの生活飽きちゃった〜」

「フユミヤちゃんがヴィクトール殿下連れてきた時に取り憑けばいいでしょ」

「それもそうかも……?」

「私が取り憑かれることは確定なの!?」

「まあ、今フユミヤちゃんに取り憑くのは勘弁してよね〜。アタシの試したいことに不確定要素増やされちゃたまんないし〜。もしかしたらフユミヤちゃんから出れなくなっちゃうかもよ〜?」

「……それはちょっと嫌かも? 今のところは今のままでいいのかな……?」


 サクラは自由な方がいいのか、今は私に取り憑くつもりはないようだ。

 ……でも実際取り憑かれたらどうなるんだろう?

 体の主導権取られるのかな?

 ……なら、別にいいかもしれない。

 とは人がいる前で言ってはいけないね。

 正気を疑われるようなことを言うのは良くないし。

 それはそれとして……。


「ルプア、もう良さそう? 光の魔力、消えた?」

「うん、サクラの魔力が消えた感覚はするよ。ただ、あまり分けられた闇の魔力は少ないかも」

「光の魔力をかき消す分で消えたのかな……?」

「そうだろうね。まあ、今はこれでいっか」

「じゃあ、これで魔力輸送は終わりってことで……」

「…………惜しいけど、機会はまだあるもんね。終わりにしちゃうか〜」


 …………。

 ルプアが私の体から離れた。

 これで私は自由の身。


「それじゃあ、フユミヤから分けられた闇の魔力を試してアタシ達はお暇しますか〜」

「え〜、泊まっていきなよ! この空間、重力のこと考えなければ勝手に体が浮くから、それで寝れるよ!? 魔力輸送……、魔力を分けたんだから魔力減ったでしょ? 休も休も?」


 私達に縋るように抱きついてくるサクラ。

 ……この空間が重力を無視できるとは一体?

 だって私達は2本足でこの空間に立っているんじゃ……?


「……サクラ? なんで私の体を浮かせて?」

「だってルプアちゃん、闇の魔力を試そうとしているし、フユミヤさん暇でしょ?」

「暇、暇なのかな……?」

「やることがないってことは暇ってことだよ〜」

「うーん……?」


 よくわからない力で浮かされているような……。


「フユミヤさん考えすぎだって! 顔険しいよ! モルくんみたい!」

「とは言ってもよくわからないし……」

「よくわからないことはよくわからないことでいいの! この空間を漂ってそのまま寝ちゃおう!」

「布団もないのに寝れるの?」

「慣れれば全然イケるよ!」

「……闇の魔力使って寝るか」

「この宇宙っぽい空間は楽しまないの〜!?」

「……もう慣れた」

「酷い〜! ……ルプアちゃんは闇の魔力試せた?」


 切り替えが早い。

 もしかしたらルプアを巻き込みたいだけなのかもしれないけど……。


「アタシはもう終わったよ。……重力を考えなきゃいいんだっけ? こんなもん?」

「はやーい! よく浮けたね!」

「風の魔力の使い手なんでね。 こういうのは得意なわけ」

「……そういうものなの? まあでも浮けるならいっか〜」


 ルプアは慣れているのか、体をぐるぐる回したり、無重力空間に身を任せたりしている。

 一方私は地面に落っこちた。


「フユミヤさん、ダメそう?」

「ムリ」

「じゃあフユミヤはアタシが分けた風の魔力使ってみなよ。それで浮いてみれば感覚わかるんじゃない?」

「……風の魔力で浮く」


 ルプアに分けられた風の魔力を使ってみることにした。

 とりあえず地面に面している方に向かって風の魔力を放ってみる。


「フユミヤちゃんのバカ、そのやり方は……!」

「痛い……」


 あるとは思っていなかった天井にぶつかった。

 ……この空間、縦に狭くない?

 やる気がしおしおになる……。

 床に落ちるけど、天井にぶつかった時ほどの衝撃はない。


「諦めちゃうの?」

「器用な魔力の使い方、できないしいいかなって」

「まあ、フユミヤはこの世界に来てまだ2週間くらいだしね。それにしてはよくやってる方でしょ」

「2週間ってことは10日? 14日?」

「10日の方。まだ赤ちゃんだね」

「24歳赤ちゃん……」

「地球で生きてきた経験はこの世界では大して役に立たないからね。この世界ではフユミヤちゃんは赤子同然なわけ。じっくり魔力の扱い方を覚えていきましょうね〜」

「…………」


 なんとなく煽られているような……。

 でも赤子同然なのは事実のようなものだし……。


「フユミヤさん、この世界に来てまだ10日なの? よくこんな場所見つけられたね!」

「いや、この場所は事前にアタシが見つけていたからね? 日本出身の人間がいたら見せよっかな〜ってつもりだったんだけど」

「じゃあ、先に話しかけるなりしてよ〜!」

「木を見て話しかけたら電波でしょうが!」

「そうかもしれないけどさ〜! 寂しいじゃん! わたしが!」

「100年経てば慣れるもんじゃないの?」

「わりと慣れちゃったけど、でも日本出身の人とは話したいじゃん! 今どんな生活してるの? とかさ〜……。そういえば、もう1人日本出身の子がいるとかって言ってなかった?」

「……ナンノコトカナ〜?」

「いるじゃん! その子も連れてきてよ!」

「ユーリも連れてったらさすがに王弟殿下激おこでしょ……」

「じゃあフユミヤさんが連れてくれば良くない?」

「……今更戻っても気まずいような」


 そう言われても、ヴィクトール様の集団に戻る理由にはならない。

 気まずいのもあるけど、まだ出会って10日も経っていない他人だし、戻ったところでできることないし、迷惑なだけだろう。


「今のフユミヤちゃんはアタシのものです〜。王弟殿下御一行様には返しませ〜ん!」

「フユミヤさんは戻りたいとかないの?」

「特にないかな」

「んー、10日くらいしか一緒にいないからそういうものなの……? わたしはずっとレイくんと一緒にいたから離れるなんてことはモルくんに勧められるまではやったことなかったけど……、うーん……」

「まあ、そういうもんでしょ。途中から入ってきたコルドリウスくんが空気悪くしてたし、連携も崩れかけてたし」

「……ルプア、見てたの?」

「聞いてただけだって!」


 ……音声だけ聞いてたにしてはずいぶんとこちらの事情を理解されている。

 ……ずっと聞いてたの?

 暇なの?


「えっ、なに、ルプア? フユミヤさんのストーカーしてたの?」

「それに近しいことはしてたかな〜。ユーリに盗聴器になる飾り渡してフユミヤのこと知ってからはなるべく聞こえてくる内容全部聞いたし」

「近しいじゃなくてストーカーそのものでは……?」

「さらに魔力使えばもっとガチなことできるから! この程度でストーカーはまだまだでしょ!」

「倫理……」

「そんなもんアタシにはない! 自由のために倫理は犠牲にされるものなのだ!」

「地球でのルプアちゃん、犯罪とかしてない?」

「してないって! 生命倫理に背いたことはやってみたかったけどさ〜」

「……これはダメだね。フユミヤさん、なんでこの人に連れ去られちゃったの?」

「私もこんなとは聞いてなかったから……」


 ここまで倫理がないとは思っていなかった。

 ユーリちゃんのお師匠様だから連れてかれてもいいかなって思ったんだけど……。


「……そうなると元々私を狙ってたってこと?」

「そそそ。だって珍しい魔力の属性持ってるし、魔力切れで1回倒れたとはいえアタシより早く大厄災の獣を倒していたし、狙わない理由がないじゃん?」

「……なんか私、魔力の属性ばっかり求められてるな」


 まあ、それしか私を選ぶ理由なんてないか。

 魔力についてわかったらそのうち飽きて捨てられるとかもありそう。

 そうなったら本格的に1人旅できるのかも……?


「……フユミヤさん、戦えるの?」

「適当に魔力溜めて厄災の獣にえいって当ててるだけだけど……」

「でも戦えるんだ。わたしはひたすら後ろから魔力分けることしかできていなかったから……」

「サクラは戦いたかったの?」

「……戦いたくはなかったよ。……でも危険を承知でも戦うべきだったのかな?」

「まあサクラちゃんは今更だよ。その戦い方が許されていたんでしょ? ならいいんじゃない?」

「……そうかもしれないけど、ね」


 確かこの樹木の精霊状態になったのは大厄災の獣と相討ちになったからって話だったよね。

 ……それに対する後悔なのかな?


「まあでも今はフユミヤちゃんの魔力の扱い方をなんとかしないと! 早く出せる方法だったり効率の良い魔力の扱い方だったりを覚えてもらわないと1人前の魔術士にはなれないよ!」

「……それってすぐに覚えられるものなの?」

「人によるよ! ダメなやつはダメだし、できるやつはすぐできる。フユミヤちゃんはすぐできる側だといいね!」

「……どうかな〜?」

「魔力について教えられたことは? 魔力を出せるってことは教えてもらったんだよね?」

「……ヴィクトール様に魔力の出し方だけ教えてもらいました」

「王弟殿下も適当だね〜。それしか教えてもらってないの?」

「後は電気の魔力とはなにかの検証に移ったので……」


 ハリボテゴーレムに電気を流したら呆気なく崩れてずぶ濡れになったこともあったっけな。

 ……後はもう教えてもらったことといってもユーリちゃんから土の魔力を使えば家具を作れたり、火の魔力を使えば肉を焼けることだったり、光の魔力と闇の魔力は日常生活では役に立たないことぐらいかな。

 魔力の使い方については大して教えてもらっていないのかも。


「そのわりには光の魔力の真髄っぽい電気の魔力が扱えているのが気になるね。使ってるとこみたいけど、ダメそ?」

「魔力壁膜を貫通するからやめたほうが……」

「……それは魔力の真髄掴んでるね。なにをして覚えた?」

「ヴィクトール様に魔力の使い方を教えられてる時だけど……」

「……王弟殿下、魔力の真髄掴んでないのに?」

「……魔力を押し付けられてこれ以上はマズイかもってなった時に電気を流しちゃってそれから使えるようになったかな」

「……魔力を押し付けるって子どもがやるアレ? あんなので追い詰められるだけで覚えられるの? アタシは死にかけの魔力暴走で掴んだんだけどな……。押し付けられている時に反発はしたの?」

「やり方がわからなかったからひたすら受け入れるしかなかったけど……」

「限界の限界まで我慢してってことか。そっちのルートもあるとはね……。アタシや普通の人間じゃ無理だね。それは」

「そうなの?」


 ……我慢することなら結構な人でもできそうだとは思うけど。


「無理無理。この国の人間は臆病者だからね〜。死にかけたら諦めるし、魔力暴走をあえて起こそうとはしない」

「……そんなに臆病な人だらけなの? 今のこの国って?」

「だから勇者王レイヴァンが勇者王とか呼ばれているわけ。普通の人達が大厄災の獣に戦おうとしなかったのはそういう臆病なところがあるんじゃないの?」

「……確かに、レイくん達以外の人達は戦おうとしてなかったような?」

「それにこの国の騎士だって雑兵と等しいしね。0ダメージになにかけても0だっての。雑魚の集団が集まってもただの肉壁。骨すらないお貴族様のお飾り兵」


 ルプアの騎士に対する当たりが凄い。

 なんでこんなに当たりが強いんだろう?


「……ルプア、騎士の人達と戦ったことあるの?」

「そりゃあるわよ。王国騎士の連中なんて騎士団長ですらアタシの一撃でぶっ倒れるんだから! 老けてるのはわかるけどもう少し鍛えれば? ってくらい弱かったね!」

「一撃で倒れちゃうんだ……」


 そういえばこの国の騎士団長ってヴィクトール様の父親じゃなかったっけ……。

 その人を倒してしまうとは、ルプア、恐ろしい……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る