第13話 相談ごとの結果

 肉ガチャの結果は、散々なものであった。

 美味しく食べられる肉が1つ、

 食べられはするけど肉にそぐわない味がするものが3つ、

 食べれなくはないけど食べたくないやつが2つ、

 吐きたくなるくらいまずくて戻しそうになったものが4つだ。


 最初に食べた3枚がまずすぎてリーフ硬貨を数えるのに逃げたり、お金に関する雑談に花を咲かせたりもしたけど、まあ、肉ガチャの対象の物は全て試食できた。


「これでわたくしが持っている全てのお肉の試食ができましたわ」

「厄災の獣が落とす肉って味が決まっている、ってことはないの?」

「いえ、全てバラバラですけど……、地球での動物とは違う体の作りをしていますから当然ではなくって?」

「おいしいお肉の安定供給はできないってことかぁ……」

「残念ながらそうなりますわね。同じ厄災の獣を狩って手に入れた肉でも味は別物ですもの」

「……そんなことあるの? 嘘でしょ」


 ふつう同じ厄災の獣からは同じ味の肉が落ちるべきでは?


「同じ味の肉はもう食べれないとかあるの?」

「いえどういう理屈かわかりませんけどありますわ」

「全然姿かたちが違う厄災の獣からかつて食べたあの味が出るってこと?」

「そうなりますわね」

「……じゃあ厄災の獣が落とす肉って、純粋に倒した厄災の獣の肉じゃあないんだ」

「そうかもしれませんわね」


 厄災の獣の肉のことはあまり考えてはいけないことだったのかもしれない。

 この世界のあまり触れてはいけないところに触れてしまった気分だ。


「……あら? あのお二方の相談ごとはもう終わってしまったのでしょうか?」

「……? あの2人、来るの?」

「ですわね」


 他人の魔力がわからないというのはだいぶ弱点じゃないかと思う今日この頃、しばらくすると2人分の足音が近づいてきてヴィクトールさんとセラさんが食事場所に現れた。


「セラ様にヴィクトール様、わたくし達になにか御用でもありますの?」

「明日のことに関する相談があるのだけれど、いいかしら〜?」

「わたくし達にも相談ですの? ちょうど試食会も終わりましたし、構いませんが……」


 話が長くなりそうなのか、椅子に座るヴィクトールさんとセラさんに従って私たちも席につく。

 私たちにもするような相談ごととは一体なんだろうか。


「それでね、相談の内容なんだけれど〜、……封印されし大厄災の獣を倒しに行きたいと思うんだけれど〜、大丈夫かしら〜?」


 はて、封印されし大厄災の獣とは一体どういうことだろうか。

 古き大厄災の獣といい、結構分類がありそうだけれど……。

 大厄災というくらいだし、そこらの厄災の獣よりは強そうだ。


「……封印されし大厄災の獣を倒しに行きますの!? まさか、フユミーさんの魔力の検証で……?」

「もちろんそれが目的よ〜。大厄災の獣の数が今は徐々に増えているもの。フユミヤの魔力でその数を格段に減らせればいいと思わない?」

「……そうなりますと、フユミーさんの魔力が鍵、ですの?」

「そうねー。推測だけれど、そうだと信じているわ」

「私が封印されし大厄災の獣と戦うときに使う魔力の属性は今日と同じように光だけ?」


 なんというか、光の魔力が一番いいとは思えない。

 魔力壁膜を貫通する電気の魔力の方が効果があるような、そんな気がする。


「フユミヤが使える魔力の属性って光と火でしょう? 光の魔力を使ったほうがいいと思うけど……」

「いや、デンキがある、そのことを言いたいのだろう?」

「デンキ、の魔力というのはなにかしら〜? お兄様、私聞いてないのだけれど〜」

「魔力壁膜を貫通してしまう魔力で、そっちの方が封印されし大厄災の獣に有効な気がする。大厄災の獣、っていうくらいなら魔力壁膜みたいなもの纏ってそうかなって」


 別に同じ世界から来たとはいえ、サクラとフユミヤは同じ人間じゃないし、持っている力も工場で人間を作ったみたいに一緒のはずがないだろう。

 もし、光と電気が混同されていたら話は結構変わってくるけど……。


「魔力壁膜を貫通って……、それはとんでもないわ〜。けれどどういうものかしら?」

「……下手したらこの拠点が崩壊するからあまり出したくはないけど」

「デンキの魔力のお披露目に関しては明後日、フユミヤの杖を受け取った後にしよう」

「あれ? でもあの杖を作るのに使った魔石って光の魔力しか入っていないんじゃ……」

「いや、本人の魔力であれば他の属性の魔力を扱っても問題はないはずだ。デンキの魔力に関しては未知数なところがあるが、少なくともすぐには壊れないはずだ」

「杖って壊れやすい物なの?」

「本来の使い方とは全く異なる使い方をすればどんなものでも壊れるさ。サクラの杖が壊れていないのは、少なくとも光の魔力しか使わせていないからな」


 本来の魔力の持ち主と同じ属性の魔力であれば、どうやら杖が壊れることはなさそうだ。


「……どうしてロディアさんの店で7本も杖を製作依頼をしたの?」

「魔石に関しては未知数な部分も多いからな。魔力壁膜のようなものがある場合、デンキの魔力で呆気なく杖が壊れてしまうことも考えられる」

「……なら出発時期をずらしたほうがいいのかしら〜?」

「いや杖を受け取ってからすぐにデンキの魔力を使ってみて壊れるかで判断したほうがいい。壊れるようなら次の杖ができる1週間後に出発を延期して光の魔力を主に使ってもらう、くらいでいいんじゃないか? 期限はないんだろう?」

「そうね〜。それでいいんじゃないかしら〜」

「……あの、セラ様。本来の出発時期っていつですの?」

「3日後よ〜。その前に明日の朝、ナンドリス街道を通ってエルトの町へ向かって旅支度よ〜」


 はやっ……、あれ、明日の朝ナンドリス街道を通るってことは……。


「サクラの杖は明日も使うの?」

「そうだな。明後日になるまではフユミヤの杖は手に入らないからな。光の魔力を使っていれば壊れないとわかっているからサクラの杖を使ってもらう」

「……」


 少なくとも重要そうな物なのに連日使っちゃっていいんだ……。

 道具は使ってこそではあるけれど……。


「……旅支度? ……あぁ、フユミーさんの」

「そうよー。フユミヤは鞄も持っていないものー。野宿用の寝袋も買わないといけないと考えているけれど、ユーリは持ってる?」

「わたくしは持ってますけど、残りが少ないので買い足したいですわ〜」

「……寝袋って買い足すものなの?」


 ……1枚あれば十分、ではなくて?


「1回使うと獣除けの効果が切れてしまうのよね〜」

「獣除けがないと臨時拠点を厄災の獣に攻撃され続けて寝るどころではなくなるからな」

「騒音対策……」

「そういうことだ。今回は……1人10枚は買っておくか」

「10!? そんなに買うの……?」

「目的のテルヴィーン領まで片道最大2週間、10日間はかかると考えるとそのくらいは買っても良いだろう」

「……毎日野宿になるってこと?」


 それはいくらなんでも耐えられる気配がしない。

 ただでさえ野宿は初めてなのに、それが10日も続くなんて考えたくない。


「テルヴィーン領と途中の町の治安がどれだけ良いかにもよるな……。治安が悪いとならず者に寝ている間襲われる可能性があるからな。なら臨時拠点を建ててでも野宿にした方がいい」


 そんなにこの世界、治安悪いの……?

 それなら大勢に襲われる危険はあるけど、ならず者を返り討ちにした方がいいんじゃ……。

 でも人に攻撃することは良くないのかな……?


「フユミヤを不安にさせないの。そんな治安なら町で厄災の獣に出くわしてしまうわ〜」

「そっちの方が良くないような……、でも倒しても問題ない……?」

「そんな血の気が引くようなご冗談は止してくださいまし、フユミーさんがものすごくに受けてますわよ! 素直に往復分の野宿分をまとめて買うと言えばよろしいでしょうに!」

「冗談ではないぞ? 実際、ホルニモルの町ではならず者に襲われかけたからな……。幸い、魔力の圧をぶつければ逃げていったが……」

「……そんなことありましたの?」

「ユーリはぐっすり寝ていたのね〜。私はあの時うるさくて起きちゃったわ〜」


 こ、この世界、物騒だ。

 日本が平和すぎるというのもあるのかもしれないけど、それにしても物騒……。

 ならず者に襲われかけているのに爆睡できるユーリちゃんも大概ではあるけど。


「ならば町で厄災の獣と出くわしたというのも本当ですの? わたくし、見た覚えはありませんわ」

「それは冗談よ〜」

「真実と嘘を混ぜないでくださいまし、奇妙な信憑性が存在してしまいますわー!」

「……まあ、とにかく寝袋は1人10枚は買い足しておこう。使わなければ保存ができるからな」

「帰りの道でも使えるものね〜。さすがに80枚も買ってしまうと顰蹙ひんしゅくを買ってしまうから、今回は行きの分だけは確保するけれども〜」

「40枚も40枚で迷惑もいいところだがな。まあ、1つの町で80枚よりかはマシだろう」

「80枚も買うならエルト村の道具屋という道具屋を漁らないと手に入りそうになさそうだもの。そんなことをしてしまったら本来必要な厄災狩りに寝袋の確保ができなくなってしまうわ〜」


 80枚も40枚も買い過ぎなような……。

 そんなに買ってエルトの町は大丈夫なのだろうか。

 ……というよりも、寝袋って1枚何リーフ?


「寝袋って1枚何リーフなの?」

「そうね〜、大体1万リーフはするんじゃあないかしら」


 10枚確保が必要なら今持っているお金で買えるか。

 あれ、私が寝袋を持ち運ぶ手段はどうするんだろう?

 鞄持ってないよ?

 ポケットに入ればいいけど、普通のポケットに寝袋って入るのかな……。

“物がたくさん入る”鞄を買うとしても、今の全財産で足りるのだろうか。

 ナンドリス街道だと数十体の厄災の獣を倒しても10万リーフ行くくらいだから……、相場が1000万リーフ超えてたら足りない。

 ……私、また借金するの?


「どうした、フユミヤそんな心配そうな顔をして不安ななにかがあるのか?」

「いや大丈夫。なんとかなる、と思う」


 あんまり良くはないけれど、誰かの“物がたくさん入る”鞄に入れておいてもらえばいいのかもしれない。

“物がたくさん入る”鞄のキャパシティがどこまであるかはわからないけど、とんでもない量の寝袋を買うのなら私の分の10枚も多分入ると信じたい。


「なんとかなるってどうしたんだ? フユミヤの鞄ならエルトの町で買うぞ?」

「……鞄って何万リーフするの?」

「“物がたくさん入る”物を買うから、大体数千万リーフだな!」


 あっ、終わった……。

 今の自腹で買えない。

 借金追加、数倍は確定しちゃった……。


「フ、フユミーさん。お金はテルヴィーン領へ向かう旅路の最中で稼げますから……」

「……どういうことだ? フユミヤの鞄を買う金なら俺が出すぞ?」

「………………」


 そこまでしてもらう必要はないとは思うけど、今は金が無い以上、大人しく受け取るしかない。

 ここで固辞しても、私の分の10枚の寝袋が誰かの鞄に入るだけだ。

 ……借金、何倍以上に膨れ上がっちゃうんだろうな。

 せめてもう何日か猶予あれば、稼げなくはなさそうなんだけど……。

 テルヴィーン領という場所に行くまでの間に、1億リーフは稼げるのかな……?

 ヌンエントプス森林より強い厄災の獣がいるなら、いける?


「というわけで、明日は朝食を食べたら即エルトの町へ向かうぞ! 日帰りで帰るから夜の厄災の獣と対峙するのは確実だ。各自覚悟は固めておくように」

「夜の厄災の獣……? もしかして強い?」

「そうだな。普段現れるナンドリス街道の厄災の獣より数段強い。大体ヌンエントプス森林にいる厄災の獣並みの強さだ。数も多いから魔力の扱い方にも気をつけておくんだ」

「わかった」


 とは言っても私の魔力の扱い方はまだまだド下手くそ。

 序盤でへとへとにならなきゃいいんだけど……。

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