第45話 古代の魔術をお試し

 ◇Side【フユミヤ】


「長かった……」


 1晩寝て、サクラの空間から出ようとするも何度も何度も引き止められて、桜の空間を出てからも何回も何回も話しかけられた。

 結局、ヴィクトール様を連れてくる約束もしてしまったし、これからどうしたらいいんだろう……?


「さて、サクラから離れたことだし、あの場所で試せなかったことを試さない?」

「……試せなかったことってなんだっけ?」

「杖で魔力を分ける方法! そっちができたら一々抱きつかなくてもこの方法かまうまくいくのならこっちにした方が気持ち悪くなくていいでしょ?」

「……そうだね。その方法は試したほうがいいかも」

「というわけで実践実践! やり方についてはなにも聞いてないけど、フユミヤちゃんが覚えた方がいいでしょ。王弟殿下連れてくるのなら絶対いるって!」

「……魔力分けたところで無意味な可能性もあるけど、異性にあの方法やるのはキツいからね」

「わかっているならよし! 早速闇の魔力で試してみてね!」


 ルプアの闇の魔力推しは一体なんだろう?

 わかっていないことが多いから?


 疑問には思ったけど、今のルプアは昨日の闇の魔力が若干残っているし、分けた闇の魔力がかき消えてしまう結果になるよりかはいいのかもしれない。

 とりあえず分けてみよう。

 杖を大きくして闇の魔力を溜める。


「……杖に魔力溜めたら攻撃するのと対して変わらないんじゃないかな? 最初は弱めに送っていくやり方で試してみない?」

「弱めに……」


 溜めた魔力を地面に向けてうねうねと放出する。

 闇の魔力はなんかこう、ねっちょりしている。

 この魔力を人に分けるには一体どうしたらいいんだろう?


「…………練習とはいえ、この感触の物は浴びたくないかな。光の魔力のほうがマシ、なのかな」

「そっちに切り替える?」

「そだね。光なら浴びても問題ないでしょ。……闇の魔力消えちゃいそうだけど、それは身体接触の方でまた分けなおしてもらえばいっか。同じ性別なら別に我慢できるよね?」

「まあ、うん……」


 あの方法、個人的にはキツいやり方ではあるけど、それが1番マシで汎用性のある魔力の分け方になりそうだ。


 さて、光の魔力を分けることになったけれどどうやって分けよう?

 杖でとなるとどう分ければいいのか聞くことを忘れたけど、今戻ってもまたサクラに引き止められてしまうだろう。

 そうなると、自分達でやり方を編み出す必要があるわけだけれども。

 魔力を分ける、ね……。


「ルプア、他人の魔力の操作を奪うことってできるの?」

「できるけど、結果的に自分の魔力を消費するから割には合わないかな。まあそうしたらその魔力を自分で扱えることになるもんね。……効率悪そ〜」

「じゃあ身体接触で分ける方法が、魔力を分けられる上に残る、ベストな方法なんだ……」

「そんな方法出回ったら面倒くさっ……。……でも強い魔力を持っていないと無意味かもね。強くなければ威力が出るわけではないし。……だよね? フユミヤちゃんアタシが分けたの試し打ちしてみ?」

「わかった」


 風の魔力、私が使っても単なるそよ風レベルだけど、ルプアから分けてもらったこの魔力ならもしかしてすごいものが出てくるのかもしれない。

 杖に分けてもらった魔力を込める。

 …………いつか杖を持った状態で色々試した時よりも全然魔力の溜まり具合が違う。

 これなら…………、どこに打てばいいんだろう?

 木に向かって打ったら自然破壊しそうだし、空にしよう。


 適当な声を出して風の魔力を空に放ったのと同時に体がよろける。

 転びはしなかったけど、中々すごい威力だ。

 私のしょぼい風の魔力よりの何十倍も威力がある。


「……多少劣化するけど、それなりに使えるようになっちゃうわけね〜。分ける相手さえしっかり選べば問題ないし、仮に裏切られたとしても1日くらいしか保持できない。よくできてるね〜」

「……これで多少劣化したレベル? 魔力の真髄とかはどうなの?」

「全然そんなのは感じなかったかな。さすがにそれは本人が掴まないとだめでしょ」

「なるほど……」

「といっても封印されし大厄災の獣に試し打ちした方が1番良さそうだけど……、その前にフユミヤ、闇の魔力を渡しなさいな。杖のやり方なんて効率悪そうだし」

「……あの方法でやるの? 厄災の獣の気配はないけど」

「あの方法が一番効率良くて健全な方法なわけ! さあ、とっとと来なさいフユミヤちゃん! そんで闇の魔力をくれ〜!」

「えぇ……」


 ここに飛び込めと言わんばかりに手を広げるルプア。

 単純な体格差なら私の方が体格あるんだけど、大丈夫なのだろうか?


「早く来てね、フユミヤちゃん。さもなくばアタシがフユミヤちゃんにしがみつくから。セミみたいに」

「それはちょっと……」


 そうされるのは勘弁願いたいので、ルプアに抱き着いて闇の魔力を渡す。


「はいはいはい、これが闇の魔力ってわけね〜。これを最初から扱えていれば……」

「……闇の魔力になにか心当たりでも?」

「……フェルグランディス王国ができるもっと昔の話、闇属性の人間も光属性の人間も普通にいたわけ。そいつらが使っていた失われし魔術を使いたいってのが本音なんだけどね……」

「……絶滅したの? 光属性と闇属性の人間って?」

「そういうこと。闇属性を持っている人間を駆逐したら光属性を持っている人間も徐々に死んでいったわけ。光属性が存在するには闇属性が必要だった。というのが肝ね。そのせいで失伝した闇の魔術がどれだけあることやら……」

「……闇の魔術って名前がろくでもなさそうだけど、闇の魔力でなにをしたいの?」


 場合によっては分けるのを止めたほうがいいのかもしれない。

 闇の魔術と聞いて想像できるものは死者蘇生とか悪魔召喚とかといったよろしくないようなものばかりだ。


「古の魔法陣ってやつを試してみたくってね。四属性の魔力だけじゃ大したことはできなくってさ。アタシは闇の魔力でもっとスケールの大きいことがしたいの」

「古の魔法陣……、悪魔とか召喚しないの?」

「悪魔なんて召喚してなにするの? そんな小悪党が考えることじゃなくってさ……」

「…………」

「あっ、ちょっと! 魔力の供給絶たないで! まだ欲しい! 無限に欲しい!」


 これは絶対ろくでもないことに闇の魔力を使いそうだ。

 悪事は今のうちに止めとかないと……。


「フ〜ユ〜ミ〜ヤ〜ちゃ〜ん……、アタシ、闇の魔力が欲しいな〜?」

「そんな風にしがみかれても渡さないって……」

「そんなことするフユミヤちゃんのためにアタシが厄災の獣を呼び寄せちゃおっかな?」

「……呼べば? 闇の魔力で厄災の獣と戦ったことないし……」

「え〜、そうなの〜? じゃあたっくさん試さないとね! そ〜れっ!」


 私から降りたルプアは金属製に見える弓を持って闇の魔力を放った。

 そのまま闇の魔力を輪っか状に広げて、波紋のように広げていく。

 こんなので厄災の獣が寄ってくるのだろうか?


「それで、こう!」

「……土の魔力でなにを? 塔?」

「そんでもってこう!」

「これに闇の魔力を……?」

「これでけがれの道標みちしるべが完成! 厄災の獣がうようよ来ることでしょう!」

「……けがれの道標みちしるべ?」

「……フユミヤちゃんはこのけがれの道標みちしるべがふんわり放っている臭いのがわかんないか。……羨ましいけどそうじゃなくって、これで厄災の獣が寄ってくるって古代の魔術書に載ってたし、本当かどうか確かめるの」

「今、弓で闇の魔力を飛ばしたのは?」

「あれはレーダー代わり。闇の魔力だからサクラの樹の方面はかき消されたけど、結構粒揃いの厄災の獣が30くらいはいるかな〜、まっ、がんばって倒してね。フユミヤちゃん!」


 なるほど、これは闇の魔力を分けない私に対する嫌がらせか。

 ここら一帯の厄災の獣がどのような強さをしているのかはわからないが、多分倒せるとは思いたい。

 ……こっちに近づいてくる厄災の獣の気配、普通くらいだし。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「さあ、来ちゃったね厄災の獣! フユミヤちゃん、がんばえ〜」


 雑な応援をするルプアは無視して闇の魔力を杖に溜める。

 現れた厄災の獣は6つの脚を持っている玉虫色の蜘蛛もどきだ。

 人間が跨がれるくらいは大きい。

 とりあえず、相手から攻撃される前に闇の魔力を当てる。


 ……この感覚、ちょっと変わっているかも。

 通常、魔力というものは対象に当てればその後操作はできなくなるわけだが、闇の魔力の場合は動かせる上に……、当てた対象すら操ることができるのか。

 ……ルプアに知られたら危ないことに使われそうだし、この魔力は弾けさせとこう。


「うげ〜、汚い体液花火〜。どお? フユミヤちゃん、なんか違いとかある?」

「特に変わらない。普通の魔力」

「ほんとかな〜? 一瞬その蜘蛛モドキ、変な動きしたけど〜?」

「気になるならルプアも闇の魔力使って戦ってみれば? 発見があるんじゃないの?」

「やだ! 風の魔力のほうが効率いいもん!」


 ルプアが戦う気はないようだ。

 闇の魔力の力というものを理解したし、私も効率の良い電気の魔力で戦おうかな。


「えっ、もういいの? まだ試せばいいじゃん!」

「電気の魔力の方が効率いいからね。私はこっちで戦うことにするよ」

「アタシに対する当てつけなわけ〜? 赤子のくせに生意気なっ!」

「……はぁ」


 ルプアはわがままなのはよくわかったことで、けがれの道標みちしるべに寄ってくる厄災の獣達をとにかく狩り続けることにした。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「…………あれ? なにこの魔力の気配?」


 なにかが近くに集まっているけど、その方角を見ても何も見えない。

 魔力の気配だけは集まっているのに……。


「……ふっふっふっ、この気配を理解できるとはね」

「知ってるの?」

「今まさに! 厄災の獣が生まれようとしてるわけ」

「じゃあ魔力中和を……」

「待って待って待って! そんなのダメだよフユミヤちゃん! せっかく生まれるんだから倒そうよ〜! アタシも協力するからさ〜!」


 ……ルプアが協力するってことはもしかしてろくでもない厄災の獣が生まれようとしている?

 魔力の気配としてはさっきまで倒してきた厄災の獣よりかは強いけど、そんなにかな?


「うへぇ、地上臭っ! そりゃ生まれるか〜」

「魔力中和をしていないから厄災の獣が生まれる、ということ?」

「そゆことそゆこと〜! というわけでデカブツが生まれるから頑張って倒そうね! フユミヤちゃん!」

「今生まれようとしてるのって、大厄災の獣?」

「それよか強くはないけどね、厄災喰いすれば成るよ。こいつは」

「ほぼ大厄災の獣じゃん!」

「まあまあ、弱さを見てみるのも経験だよ〜。ほら、生まれるよ〜。卵から還るわけでも、胎から産まれるわけでもない生き物が成体で、ね!」


 魔力の気配を取り込んでいって生まれようとしている大厄災の獣は、1階建ての建物に近い大きさをしている。

 まだ、黒い魔力が形を成そうとしているところだが、一体どんな見た目で生まれてきてしまうのだろうか。


「ちょっと距離は取ろうね〜。ワンパンはないだろうけど、完全に成ってないとはいえ大厄災の獣の一撃は重いから、さ!」

「……そうだね」


 ルプアに言われるまま、大厄災の獣から距離を取る。

 そのまま杖に電気の魔力も溜めておく。

 先制攻撃もできた方がいいだろう。


「今回はフユミヤちゃんが昨日戦ったような大厄災の獣よりかは弱いし、邪魔なやつらもいないから倒しやすいとは思うよ」

「この状態で攻撃するのは?」

「やめなって〜。ヒーローとか魔法少女とかの変身中に攻撃するようなものだよ〜。下手したら分裂するかも〜」

「それはちょっと嫌かな……」


 大厄災の獣を2体相手するだなんてとんでもない。

 大人しく生まれてくるのを待つか。

 そして一発一気にぶち込もう。

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