第11話 ゴリ押し魔力操作
コンソメスープ肉を食べきって、食卓上の物が全て片付くのを待つ。
どういうわけかこの場所、食べ終わった食器は全部洗ってから分解している。
残しておけばいいのに、とは思うけどなにかしら事情があるのだろう。
……火以外の四属性の魔力がろくに扱えない私はボケーっと片付けが終わるのを座って待つしかない。
うーん、お荷物ニート!
「さて、片付けも終わったところで、全員準備はいいか?」
「……私はサクラの杖を使うの?」
「そうだ。渡しておくから明後日まではこの杖を使って戦ってくれ。光の魔力でな」
「わかった」
明後日、杖が手に入るまではサクラの杖を使うようだ……。
仕方ないけど、光の魔力しか使えないのは少し残念ではある。
個人的には闇の魔力がどのようなものか確かめてみたいけど……。
ヴィクトールさんからサクラの杖を受け取り、光るかどうか確かめる。
……今日も使えそうだ。
「フユミヤは大丈夫そうだな。セラとユーリは問題ないか」
「えぇ、大丈夫よ~」
「わたくしも大丈夫ですわ」
セラさんの武器は装身具だからいいとして、ユーリちゃんの杖ってどんなものなんだろう?
チラリとユーリちゃんの方を見たら、杖は案外単純な形をしていた。
焦茶色の木の質感で上の方が途切れた円を描いて、円の真ん中に緑色の魔石がある。
なんかトゲトゲした部分もあるけど、武器っぽいからいいのか。
「それじゃあ、ヌンエントプス森林に行くか。戸締りするから全員玄関の外で待っていてくれ」
ドアがないのに戸締りとかできるのだろうか?
……浮かんできた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……戸締りってなにをするんだろう」
「食料庫と各自の部屋にならず者除けの罠を張り巡らせるのよ~」
「それって、帰ってきた時危ないんじゃ……」
「罠を仕掛けた人にしか解除できない仕掛けを入口に置いて、踏んだら解除できるようになっているから問題ないのよ~」
「えぇ……、そんな便利なことできるんだ……」
地球より優れた泥棒対策の仕掛けだ……。
そんなこともできちゃうのは便利すぎるような……。
「ちなみに解除せずならず者除けの罠に触れてしまいますと攻撃魔術が飛んできますわ」
「下手すると死ぬこともあり得るわね~」
「か、過剰防衛……!」
「大丈夫よ~、大抵の人は魔力の気配でわかってくれるもの~」
「魔力の気配……」
……そういえば、魔力の気配というものがいまいち理解できていない。
人間とか、厄災の獣とか、その辺の建物に魔力があるからそういうのから"ある"みたいな感覚を受け取っているのかもしれないけど、……うーん。
今は五感でなんとかするしかないのかな……。
「……戸締り、終わったぞ」
「それじゃあ、出発ね~」
「……行きませんの?」
「……行く」
魔力の気配問題は後にして、今は戦わないと、だよね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ヌンエントプス森林、この中で私は目覚めたんだよね。
……確かに地球で死んだはずなのに、どうしてこの体は私として人生が続いているのかな。
本来の肉体の中の人に記憶でもあればいいのに。
……私なんかに乗っ取られている時点で手遅れか。
もし、ヴィクトールさんに見つからなかったら今頃……。
「フユミーさん、どうしましたの?」
「ううん、なんでもない」
生きてしまっている以上仕方ないのだ。
過去のたらればを振り切ってヌンエントプス森林に足を進める。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
中へ行けば行くほど草の臭いが強くなっていく。
見た目は涼しげではあるけど、どこか湿り気もあって不快感を湧き立たせる。
厄災の獣とかが現れるくらいだから心地いい場所であってはいけないのだろうけど。
「フォルトゥリア山道方面に1体と左の道に2体か……、近い方にしよう」
「近い道、……左の道ですわね。フォルトゥリア山道方面のはどうしますの?」
「呼ばれるだろうから一回無視だ」
「……呼ばれる?」
「すぐにでもわかるわ~」
はて、呼ばれるとはいったいなんなのだろう?
フォルトゥリア山道というのもどこか別の場所へつながっていそうで気になるし、それ以外の道は行き止まりなのだろうか?
左の道へ進むと確かに厄災の獣が2体いた。
紫色のクマモドキが1体と緑色のクマモドキが1体いる。
……毒々しい色合いの毛並み。
よくよくみたら耳が三角の形をしているような?
そもそもクマって耳丸くなかったっけ?
ホントにクマモドキじゃん……。
「さて、いつもなら俺達が戦うところだが」
「今回はフユミヤの光の魔力を検証するから~、前に出てね、フユミヤ」
「エッ、ま、前に?」
「幸い相手はまだ俺達に気づいていない。奇襲をかければ案外余裕かもしれないぞ」
「万が一倒せなかったらどうするの? ナンドリス街道のより強いんだよね?」
「その時は俺たちが戦うさ。安心して魔術を使ってくれ」
「えぇ……」
魔術、と呼ばれても使った覚えが治療魔術ぐらいしかない。
あの波状に魔力を飛ばす攻撃を魔術と呼んでもいいのならそれでいいのかもしれないけれど……。
魔力を杖に集める。
……どれくらい、込めればいいんだろう?
とりあえず、一撃で仕留められるくらいやってみよう。
「フユミヤ、それはやりすぎだ!」
なら、ちょうどいいってこと!
息を吐いて横長の光の魔力の刃を飛ばす。
毒色クマモドキ達に気づかれたけど、どうせ当たる。
「両方に当たったわね……、一撃、かしら?」
「これじゃあ、単純に魔力の力押しと考えられそうだな」
「まだ生きている可能性はないの?」
「ほぼないな。念のために確認するからセラと一緒にいるんだ」
「……わかった」
毒色クマモドキを仕留めた現場へヴィクトールさんは向かった。
「……フユミーさん、魔力の扱い方、下手くそですわね」
「えっ、一撃で倒せた方が良いんじゃ」
「なんの為に複数人でこの森に来ていると思ってますの?」
「光の魔力が厄災の魔物によく効くのか確認するためでは……?」
「……今回、その目的がありましたわね。セラ様、結果はどうですの?」
「……こんなに魔力の攻撃力があると封印されし大厄災の獣に手を出さないと厳しいんじゃないかしら~」
「ふ、封印されし大厄災の獣って大丈夫ですの!?」
「……そろそろ来るわよ~。フォルトゥリア方面にいた厄災の獣が、ね」
「いいですか、フユミーさん、今度は一撃で仕留めずわたくし達に多少は攻撃させてくださいね。でないと」
「……理由があるの?」
「お肉が取れませんわ~!!!」
ズッコケたくなるような理由だが、食料が取れないのは死活問題だ。
今度は弱めにしよう。
先ほどの半量の魔力を込めることを意識しつつ、どこから厄災の獣がやってくるか様子を窺う。
ガサガサと草をかき分ける音があの辺なのだろうけど、……出ない。
「ユーリちゃんが先に攻撃できない? 私、厄災の獣の気配がわからなくて……」
「わっかりましてよ~! 先にぶち込めば魔力が混在するのは確実ですのでお肉の確率アップですわ~!」
ユーリちゃんは早々と風の魔力の弾をガサガサ物音を立てている草むらにぶち込む。
なら自分も続くべきか。
半量だし、一撃で仕留めないと信じたいけど……。
「厄災の獣が出てきたわ! フユミヤ、今よ!」
「てやっ」
半量分の魔力を金ぴかの毛並みのクマモドキにぶつける。
「さすがに一撃じゃないわね~、後は私がやってくるわ~」
駆けるセラさんを見送って金ぴかの毛並みのクマモドキがどうなるかを見守る。
「あれ、クマモドキ、後ろを向いた?」
「今のはあえて厄災の獣の背面に魔術を仕掛けて隙を生み出す手法ですのよ」
「……そんなことができるんだ。あっ、飛び蹴り……、もしかして装身具での戦い方って、格闘技に近い?」
「ほぼそのものですわね。杖より出が早いのが特徴ですけれど、だいぶ接近する必要がありますの」
「……ビビりの私には無理そう。あんなに近づけない」
「奇襲だというのにあんな遠距離からあの攻撃したフユミーさんには無理ですわ。消耗具合とかどうなんですの?」
「消耗? ……よくわからない」
「杖には魔力の消費を抑えつつ威力を上げる仕掛けが施されていますけれど、そんなことってありえますの?」
「そういう効果があったんだ……。もしかすると杖の効果かもしれないし、1回保留にしておこうか」
「……今のところ、厄災の獣の気配は感じませんけれど、わかりませんの?」
即答でわからないと口にしたいところだけど、一応探る素振りだけはする。
うん、わかんない!
「……わからない」
「……わたくしのお師匠に師事させたいくらいですわ。魔力の気配がわからないって、結構死活問題ですのよ?」
「ユーリ~! フユミヤ~! 魔力中和を行うわよ~! 集まって~!」
「さっ、行きましょうか」
「うん」
セラさんに呼ばれて金ぴかクマモドキのいた場所へ集まる。
先ほどまでいた金ぴかクマモドキの姿は消えているけど、無事に肉塊になったのだろうか?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お肉になっていますわ~!」
小躍りをしそうなくらい喜んでいるユーリちゃんをよそに、金ぴかクマモドキの血痕が目立つ周囲を見る。
魔力中和ってどうするんだろう?
適当に魔力をぶつければいいのかな?
「さて、魔力中和だけど、フユミヤは~、できそう?」
「やったことないから、よくわからない。魔力を血痕の部分に当てると消える、とか?」
「合ってるわ~。血は魔力がよく混ざっているのよね~」
「やってみる」
血痕が見える部分を観察する。
大体4ヶ所、かな。
その辺に魔力を撒いてみよう。
「それっ」
粒状の輝きが、血痕に降り注ぐ。
……まだ足りないからもう1回撒こう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「これで魔力中和は終わりね~。次はお兄様のところに向かいましょうか」
「……フユミーさん、魔力の扱い方、ド下手くそですわね」
「……そうだね」
結局3回魔力を撒いた。
多分ばら撒くべき魔力が少なすぎたと思う。
魔力の気配がわかればなにか変わるのだろうか。
「来たか。フユミヤ、お前の魔力が籠った魔石だ。持って帰ってくれ」
「……2つ、ですわね」
両手で持てるボール大の黄色い魔石が2つ転がっている。
これらは持って帰るとして……、
「ところでこの魔石って使い道あるの?」
「……杖にするしか使い道はなさそうだな」
「……火の魔力の下位互換ですものね。夜道しか照らせませんわ」
「ゴ」
「ゴ?」
ゴミじゃないかと言おうとしたけど我慢する。
「処分方法はないの?」
「その中の魔力を取り込んで空魔石にできるけど……、それは拠点でやった方が良いわ~」
「ロディアさんにこれ以上迷惑はかけられないし、空魔石にするよ」
とりあえず、魔石は赤い巾着袋に入れておきたいから、昨日魔石を圧縮した感覚を思い出しながら手のひら大の大きさにして、ポケットから空っぽの赤い巾着を取り出す。
「……まだそれを使っているのか」
「収納するものがないからこれを使うしかないかなって」
「……鞄も用意しないとな」
「大体何万リーフするの?」
「いや、金額は気にしなくていい。俺が払う」
「そこまでしてもらわなくていい。セラさんは知ってる?」
「そうね~、小さいけれどたくさんの物が入れられるものは数千万リーフよ~」
「時計と同じくらいなんだ」
……鞄の方を優先しよう。
赤い巾着に魔石を入れながら、そう決断する。
……これ、1億リーフ以上は稼ぐ必要はあるな~。
どうしよう、稼げるの?
まあ、拠点に戻れば今日はどのくらい稼げたかがわかるか。
「……厄災の獣の気配はしないな。他の厄災狩りに狩られたか」
「拠点に戻りましょうか~、お兄様、相談があるの。いいかしら?」
「構わないが、そういうことなら拠点に戻るか。いいか?」
「わたくしは構いませんわ」
「私も大丈夫」
「……じゃあ、戻るか」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
特に何事もなく、拠点に戻った。
さて、さっそく私は今日稼いだお金を数えなければ……!
「フユミーさん、どこ行こうとしていますの? わたくしとお肉の試食をするのではなくって?」
「そういえば、そうだった。」
ヌンエントプス森林から帰った後にするって言っていたな。
お金は後で部屋に戻れば数えられるし、いいか。
「そうなると、食事場所は使えないか。セラ、相談場所はどうする? 俺の部屋か?」
「それで構わないわ~」
「さっさと行きますわよ! フユミーさん!」
「あっ、うん」
いつものようにユーリちゃんに手を引かれて私たちは食堂へ向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さて、肉ガチャの続きですわ~!」
「……肉ガチャって言い方、さっきはしていなかったけど、転生したことはあの二人には黙ってるの?」
「説明が面倒くさいですもの。それに今更言ったところでさらにややこしくなるだけですわ」
「面倒……、うん面倒だね」
確かに転生したなんて言ったら正気を疑われるし、こっちも説明が面倒くさい。
なら、いいか。
「ところでフユミーさん、さっきから右ポケットに手を突っ込んでいますけど、なにを気にしていますの?」
「……お金。今、借金1000万リーフ以上あるから」
「とんでもねぇ額ですわ!? 内訳はどうなっていますの?」
「杖代1000万、タイツとか靴代約20万、全部ヴィクトールさんから借りてる」
「杖代が1000万リーフってどうなっていますの? わたくしの時は30万でしたのよ?」
「サクラの杖の購入と杖7本製作依頼でこんなになっちゃった……」
「……あの人、チップみたいな感覚で平気で定価の2倍上乗せしますし、なにより厄災狩りは稼げますからそこまで神経質になる必要はないのではなくって?」
「……でもそのくらいの額って結構な額でしょう?」
1000万って円だったらとんでもない額だ。
年収丸々貯金しても4、5年はかかる額だし、返さないとまずくない?
「厄災狩りからしたら、5週間もあれば余裕で貯まる金ですわよ」
「大体1ヶ月じゃん……」
「この世界1週間5日ですわよ」
「聞いてないよそんなこと……、エッ、私ロディアさんに相当迷惑かけてる!?」
「製作依頼をしたのは誰ですの?」
「ヴィクトールさんだけど……」
「ならそこまで気にする必要はないと思いますわ。数週間ぶりの依頼ですし、ロディア様もそこまで負担にはなっていないはずでしょう」
「でも1000万って……」
「そんなの勝手に支払っているヴィクトールさんが悪いですわ! 出世払いということにしてしまえばいいのですわ」
「踏み倒しは良くないよ~」
……お金は貯まり次第、なにかの折に返そう。
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