借金返済編

第10話 生活能力、ゴミ人(1000万以上の借金をしている)

「うお~ん……」


 私は悲しい。

 へたくそなウソ泣きを小さくするレベルで。

 昨日ユーリちゃんに言われた通り、早速火土水風ひつちみずかぜの四属性を使えないか頑張って試した。

 "頑張って"試したのである。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「まずは火から試そう。これができたら肉とか焼けるはず……」


 これは簡単にボボッと出てきた。

 でもやれることは、肉が焼けるとか、暖が取れるとか、明かり代わりになるとか、光の魔力の上位互換みたいなことしかないのだ。

 沈んでいく気分を振り切って、その次は土の魔力を使えないかを試みた。


「こ、小石……?」


 透明な数ミリ大の小さい小石しか出てこなかった。頑張って3回試したけど全て同じサイズの透明な小石。

 ……終わってない?


「み、水は出るかな?」


 ……汗だ。不自然に生み出された、一滴の、手汗。


「あ……、あぁ……、……か、風が、風がまだある」


 小 さ い う ち わ で あ お い だ そ よ 風 。


「お、おわ~……」


 頭の中が真っ白になってベッドに大の字になる。


 異世界転生したら光と闇属性が使えて厨二属性盛り盛りの属性持ちになったやったーって軽く思っていたのに、日常生活じゃ全然役立たずの寄生虫のゴミになってるじゃん……。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


「あ~、記憶なくして赤ちゃんから全うな人生送れないかな~。……私じゃ無理か~」


 成っちまった以上はもうどうしようもない。

 大元の私も実家の子供部屋で両親に5万円分の家賃渡しているだけの、家事が一切できない寄生虫労働者だったし、……なんか今と変わらないような。

 いや、なんかもう1000万リーフ以上の借金をしていた。

 ……返さないとまずくない?


 ……昨日の稼ぎ、いくらだ?


 ガバっと起き上がって財布を入れたワンピースの2リットルペットボトルは余裕で入りそうなポケットを探る。


「金、金、金……、5万以上あるのはわかっているけど……」


 昨日のたった1日で5万以上稼げたの、ヤバい。

 手取りの4分の1超えてるってことは、1円1リーフだったら相当稼げてるぞ?


 ベッドの上で正座をして2つの巾着の紐を緩める。

 まずは、深い赤色ツヤツヤ巾着財布から御開帳ごかいちょう~!


「これは花びらが5枚だから1万リーフ硬貨で……」


 綺麗に並べて54713リーフ。

 多分昨日と同じだ。

 続いては、青いザラザラ布の巾着財布を、御開帳!


「……量としては同じくらいだけど」


 上下に分けて下の方に並べる。


 ……おっ、1万リーフ硬貨はこっちの方が多かった。

 稼ぎとしてはこっちの方が上なのか~。


「合計、11万7949リーフ……、たったの1日でこれは凄い、かも」


 硬貨の合計としては、

 1万リーフ硬貨が11枚、

 1000リーフ硬貨が7枚、

 100リーフ硬貨が9枚、

 10リーフ硬貨が4枚、

 1リーフ硬貨が9枚だ。


 ……そういえばヴィクトールさん、1000万リーフ硬貨を100万リーフ硬貨に分けていたような。

 その逆を1万リーフ硬貨10枚でやって10万リーフ硬貨にする、といったこともできるのだろうか。


「ふつ~にできる。……ほんとにどうなっているんだろ。この硬貨」


 10枚持って魔力を流せばあっという間に花びら6枚の10万リーフ硬貨に。

 ……この時の魔力って属性はなんだろう?

 無属性、わかりにくいだけであるのでは?


「といっても無い属性って結構謎か。説明も面倒だしやめておこう。……お金も片づけないと」


 現在の所持金も知れたし、とっとと部屋の外に出よう。

 ……今は何時なんだろうか?

 時計も数千万リーフするらしいけれど、そのうち買わないと。

 朝昼夜の区別もつかないこの目では1人になってしまったらすぐに睡眠不足になってしまいそうだ。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「あら、フユミヤ、今日は遅かったわね~。今は5時過ぎよ~」

「四属性の魔力が扱えるか試していたの……」

「まあ! どうだったの?」

「火属性しかまともに使えないことがわかったよ」

「なら私とお揃いね~、嬉しいわ~!」

「わっぷ……」


 私なんかと同じで嬉しいのかセラさんが思いっきり私の体を抱きしめる。

 ……む、胸が思いっきり顔に当たって、こういう時は気持ち悪い人間にならないために呼吸はしない!


「あら、フユミヤ~? お顔が耳まで真っ赤よ~。どうしちゃったのかしら~?」

「……っ、セ、セラさん、あんまりそういうのはっ、……!」


 気恥ずかしくて顔を上に上げたら、顔がすごい近い位置にある。

 深い赤色の目を細めてセラさんは面白いのか、私の頬を右手で撫でてくる。

 あ、あのあのあの……?

 これはどうしてこんなことに……?


「セラ、ここは玄関だ。フユミヤで遊ぶな」

「あら、遊んでなんかないわよ~? フユミヤの目をじーっくり見ていただけよ~」

「そこまで近くで見る必要はないんじゃないか?」

「まあ、お兄様ったら! そんなことおっしゃっているお兄様も本当は気になっているくせに~」


 よし、この隙に……、


「逃げちゃダメよ~、フユミヤ。もっと私に貴女のことを教えて?」

「エッ、あの……」


 心音が聞こえるくらいきつく強く抱きしめられる。

 ……この世界の人間にも、心臓があるんだ。


「セラ……!」

「玄関だと風紀が乱れるとお兄様の言い分はよぉくわかったわ。私の部屋でじ~っくりユーリが起きるまでフユミヤとお話しすることにするわ~」

「エッ、あっ……?」


 よくわからないまま、体を抱えられてしまった。

 いくらセラさんが私より背が高いとはいえ、なんでこんなに軽々と抱え上げられるの?


「さっ、行きましょう。フユミヤ姫? な~んて、ね?」

「お、おい!」

「お兄様は身支度を整えるのよ~」


 お姫様抱っこで抱えられながら見たヴィクトールさんの姿は確かに昨日の朝と同じように身支度もなにも整っていない状態だった。

 ……なんで?








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「さぁ、着いたわ~。どこにフユミヤの体を置こうかしら?」

「た、立たせてくれればそれでいいから!」

「それじゃあつまらないわ~、そうね~……」

「あのあのあの……、なんでベッドに?」

「そっちの方が反応が面白そうだもの~。当たってよかったわ~」

「うぅ……」


 うめく私をよそにセラさんは私の体をベッドに座らせて、隣に座ってきた。


「フユミヤはこういう距離が近いの、苦手?」

「に、苦手ではあるけど、そもそもこんなことされたこともしたこともないし……」

「この国換算で17歳なのに? 不思議な世界なのね~。この世界では友達にこのくらい触れる人もいるのよ~? 私みたいに」

「……友達?」

「えぇ、そのつもりだったのだけれど~? 酷いわ~、そんなこと言っちゃうフユミヤには~、えい!」

「うわぁ!」


 押し倒された!?

 な、なにするつもりなの? セラさん?


「……セラ様~? いくら自室と言いましてもこのようなことはよろしくない、とわたくし思いましてよ?」

「あら~ユーリ、早いのね~」

「廊下から丸聞こえでしたわ! 気になって中を覗けばまさに怪しいことをされようとしているご様子! 同意はしっかり得てますの?」

「同意……?」

「これから取るつもりよ~?」

「フユミーさんがわかっていないことを良いことに丸め込むおつもりでしょう! 早くフユミーさんを解放するべきですわ!」

「ユーリばっかりずるいわ~。私もフユミヤと夜に語らいたいもの~。少しぐらいいいじゃない」

「それはしっかり椅子に座ってすることでしてよ!?」


 うん、今度こそこの隙に立ち上がって……、


「あら~酷いわ~、出て行っちゃうの?」

「さすがにベッドにお邪魔し続けるのも……」

「セラ様、わたくしもう起きましてよ。本日はヌンエントプス森林に行って光の魔力が厄災の獣に有効かどうか試すのでしょう?」

「そうだけれども~、急かす必要はないじゃない~。まだ6時よ~?」

「朝食、フユミーさんと用意いたしますわ。行きましょうフユミーさん」

「待って~、私も行くわ~」


 ユーリちゃんに手を引かれる形で食卓のある場所の方へ連れてかれる。

 相変わらず力が強い……。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ユーリちゃんに連れてかれた先はやっぱり食卓がある場所で、角にある調理スペースに連れてかれた。


「肉を焼きますわよ~!」

「いつも肉ってどういう基準で選んでいるの?」

「わたくしがおいしいと感じるかですわ! ヴィクトール様もセラ様も適当な味覚をしておりますもの! わたくし、まっっっずい肉は食べたくないですわ~!」

「ユーリはおいしくないと感じる味の幅が広いのよね~」


 まあ、日本っておいしい物に溢れていたし、そうなってしまうのもわからなくはない。

 ただ、食感とかは全然違うけど、それは受け入れられているのだろうか?

 ……私が受け入れていないだけか。


「さて……本日の量は、ヌンエントプス森林に行きますので1人8枚で良いですわね?」

「そうね~、そのくらいでいいんじゃないかしら~?」

「そうなりますと、……試食が必要になりますわね。1種類の肉でその量を焼いてしまったら一気に半分くらいなくなってしまいますもの」

「……大事に取っておき過ぎたら貯まる一方よ~?」

「おいしい味がするお肉は毎日食べてしまうと食べ飽きてしまいますもの。というわけで昨日の成果から試していないものを食べてみますわ~!」


 そう言いながら手に持っているのは白い袋。

 この中に薄い石でコーティングされた肉が入っているのだろうか?


「この中の物をこの辺にぶちまけまして……」


 調理スペースに容赦なくぶちまけられていくコーティング肉。

 ……色とりどりの岩が10個くらいは出てきた。

 石のコーティングの色も個人差があるんだな……。


「さあ、フユミーさんどの色から試しますの?」

「私? えーっと……」


 色がお菓子みたいな色をしていて選びにくい。

 ……判別を分かりやすくするためにそうしてはいるとは思うけれど。


「じゃあ、ピンク色の……」


 一番生肉の色を感じさせる色を選んだ。

 質感は岩だからそこまで生肉感はないけれど。


「これから試しますわよ! セラ様、いつもの鉄板の加熱準備をお願いいたしますわ!」

「……今回はフユミヤにやらせてみたいわ。朝、火の魔力はまともに使えるって言っていたもの~」

「エッ、私?」


 まともに使えるとは言ったものの、ただ手から火がボボッと出てきただけだ。

 そんなレベルで大丈夫なのだろうか?


「……フユミーさん、火の魔力を今出してくださいまし」

「うん」


 朝と同じノリで左手から火を出す。

 なんだかよくわからないけど青い火じゃなくてイラストで描かれるようなオレンジ色の火なんだよな。

 料理に使う火って青い火だけど、こんな火で大丈夫なのだろうか。


「……いけそうですわね。じゃあ本日はフユミーさんの魔力の扱い方の練習も兼ねてフユミーさんに頼みましょう」

「これでいいの?」

「直火で焼かずに鉄板に火の魔力を行き渡らせて焼く場所の確保をする、といった方法ですので火の魔力が少しでも使えれば大丈夫ですわ」


 ホットプレートの熱源を人間が行うような物か。

 人間魔力電池……。


「それでは、先に肉を置いておきますので、フユミーさんは鉄板に火の魔力を行き渡らせてくださいまし」

「……油敷かなくていいの? 張り付くんじゃ……?」

「この鉄板は魔力が通っているから問題ないわよ~。……油を敷けば魔力通っていない鉄板でも張り付かずに肉が焼けるのかしら?」

「魔力って、本当になんでもありなんだ……」


 ただの鉄板にしか見えないのに、テフロン加工みたいなこと魔力でできちゃうんだ……。

 どういう原理?


「フユミーさん、ぼーっとしていないで火の魔力をお願いいたしますわ」

「あぁ、うん、ごめん。今やってみる」


 鉄板に火の魔力を行き渡らせる、と言っても……、机の上にそのままバンッと乗っかっているから上の方から火の魔力みたいなのを送ればいいのかな?

 まずは、直接触れずに魔力を送れないか試してから鉄板に直接手で触れる方法を試してみよう。

 ……相当熱くなりそうだし。


「上手くいっていますわね……。これなら今後もフユミーさんは肉が焼けますわ」

「……焼けるだけ?」

「そうですわね。そろそろ焼き上がりますのでフユミーさんは魔力を送るのを終わらせてくださいまし」

「わかった」


 すっと魔力を送るのをやめる。

 ……単調な作業なのに、意外と疲れるな。


「さて、小皿に取り分けますわよ」


 ユーリちゃんはそう言いながら、一瞬で小皿を3枚分生成し、鉄の箸も生成した。

 ……箸に突っ込みをいれたいけれど、なんだかユーリちゃん、元日本人であることをセラさんやヴィクトールさんに隠している気がするので黙ることにした。


 焼かれた肉を1枚ずつ取り分けられるのを見てから、先割れスプーンで刺して食べる。

 ……この味、


「あったかい果物……、甘ったるい……」

「まぁ! そんな味がしますの!? 却下ですわ~!」

「普通に食べられるけれど、ダメなの~?」

「肉からしていい味ではない……、もう少し冷えていれば、あるいは……」

「甘っっったるいですわ~! 非常食行きですわ!!」

「相変わらずユーリの判定は厳しいのね~」


 火の魔力を使い続けた影響か、食感の硬い甘ったるい肉を噛み続けるしかない。

 ……焼肉からこんな味しちゃだめでしょ。

 もっとこう、塩気がほしいというか……。


「……昨日の朝のお肉にしますわ。試食はヌンエントプス森林から戻ってきた後にすることにいたしますわ」


 昨日の朝、となるとコンソメスープ肉だろうか。

 まあ、あれなら常識の範囲内の味だし食べやすい。

 肉ガチャは、ヌンエントプス森林から帰ってきた後、か。

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