第88話 ふわふわ3段重ね糖蜜黄色コロコロ芋乗せ

 ……!

 モモイモが入っている飲食物がある!

 飲み物だし、ちょうど良さそう。

 これにしよう!


 この食堂のメニューは紙にインクで書かれているからありがたい。

 おかげで良い物が食べられそうだ。


「あら、見ない子達。なにを食べるか決めた?」

「わたくしはこの“ふわふわ3段重ね糖蜜黄色コロコロ芋乗せ”を食べますわ!」

「私はモモイモの飲み物で……」

「なら10万3000リーフね。お金はあるかしら?」

「これで……」


 あらかじめ取り出していた財布からお金を取り出して渡す。

 3000リーフは取り出すのが面倒だったので1万リーフ硬貨を崩して渡した。


「確かに10万3000リーフね。すぐに出すから待っててね〜」


 食堂の水色の瞳のお姉さんは奥の方へ行ってしまった。

 ……作り置き、しているのかな?


「はい、この2つね。冷たいから気をつけて」


 長方形のピンク色のトレイには2つの料理と食器が乗っている。

 1つはユーリちゃんが頼んだ物でものすごい分厚さのパンケーキが3段重なってところどころに糖蜜がかかった黄色くて丸い芋が数個乗っていた。

 もう1つは私が頼んだ飲み物でジュースの層と固形の層に分かれていて太めのストローが刺さっている。

 普通に地球に存在していそうな食べ物だ。

 とりあえず運ぼう。


 重い!


「フユミーさん、大丈夫ですの? わたくしが運びますわ!」

「……うん、お願い」


 落としてしまうのは良くないしユーリちゃんに食事が乗ったトレイを渡す。


「これは挑みがいがありそうな重さですわね……! さあ! 行きましょう! ミルリーナが待っている席に行きますわ!」


 ……ミルリーナ様は場所取りなのか独りで6人が座れそうな席にいる。

 私達を見ると軽く手を振った。

 ユーリちゃんの歩くスピードに合わせてミルリーナ様がいる席に向かった。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「あら、大きいのやっぱり頼んだの? 大丈夫?」

「全然問題ありませんわ! むしろ挑みがいがありますもの!」

「あまり無理はしないでね?」

「秘策があるので問題ありませんわ!」


 そう言いながらユーリちゃんは食事を机に置いた。

 ……そこに置かれると私がミルリーナさんと向かい合わせにならないといけないような?

 ……また置きなおしてもらうのは良くないし、とりあえず座ろう。


「フユミーさんの分、置いておきますわね」

「うん、ありがとう」


 コースターの上に乗った飲み物ごとユーリちゃんは私の前に置いてくれた。


「さて、わたくしは先に食べますわよ。フユミーさんも飲み物がぬるくなってしまう前に少しは飲んでみませんこと?」

「さすがに待った方がいいんじゃ……」

「わたくしはもう待ちきれませんわ! ミルリーナ様、構いませんよね?」

「全然問題ないわよ。この場所で正式なマナーを気にすることは基本的に無駄だもの」

「それではいただきましょうフユミーさん!」

「う、うん」


 ユーリちゃんが食事に手をつけ始めた。

 その一方で、注文口の方からセラ様とエルリナさんが話をしながら、料理を運んでいる。

 ハリネルト様は料理を待っていた。

 もうしばらく待てば全員揃うのに、いいのだろうか?


 軽く、飲み物を飲む。

 こ、これは圧倒的に桃!!

 これにしてよかった……。


「あらフユミヤの隣、空いているわね。そこもらっちゃおうかしら」

「では私はその向かいにします。」

「あなたも大盛り料理にしたのね」

「はい。食べられますので」

「無理は駄目よ?」

「大丈夫です。ふわふわは呼吸ですからすぐになくなります」

「……そうかしら?」

「確かに呼吸と呼んでもいいほど溶けていきますわね……」


 ふわふわとやらがどんなものかは気になるけど、今はモモイモの飲み物に集中だ。

 人の物食べるのはあまり褒められた行為ではないからね。


「ハリネルトくんはいつも通りね」

「また密集圧縮ガチガチ固めですか。ハリネルトも飽きませんね」

「ふん、これが一番効率がいいんですよ」


 密集圧縮ガチガチ固めと呼ばれている食べ物は長方形の形をしていて様々な具材が入っているものをゼリーのような透明感があるなにかで固められている。


 一方、セラ様の食事は1段の分厚いパンケーキにオレンジ色のフルーツソースのようなものと透明な細い液体がかかっている。

 ……1段の物もあったんだ。


 全員が着席したので飲み物に手をつける。

 何度吸っても桃。

 ありがたい限りだ。


「フ、フユミーさん! この芋! アレですわ! 食べてくださいまし!」

「えっ、でもユーリちゃんの食事だから……」

「そういうのは今は関係ありませんわ! 食べさせますから直接口を開けてくださいまし!」

「う、うーん……。わかった」


 ユーリちゃんに言われるがまま口を開ける。


「それでは黄色コロコロ芋を食べさせますわよ。はい」

「…………」


 こ、これは……、バナナだ。

 程よくねっとりしていて甘い。

 ガチャ芋、なんでもありだな……。


 程よく黄色コロコロ芋を味わったところで飲み込む。


「ね、フユミーさん。アレでしょう?」

「うん、甘くておいしいアレだね。」

「私もフユミヤに食べさせたいわ〜。これを分けようかしら?」

「そこまでしていただくほどでは……」

「私がやりたいの。さあ、フユミヤ? 口を開けてくれるかしら?」


 ここは諦めよう。

 断っても絶対食べさせてくる。

 おとなしく口を開けよう。


「はい、あ〜ん……、フユミヤ、おいしい?」

「…………これは」


 甘味が霞のように口の中で溶けていった。

 見た目はパンケーキだが、なんともまあ儚い。

 確かに呼吸と言えるのかも……。


「はい、おいしいです」

「ならもっと食べる?」

「いえ、そこまででは……」

「フユミヤ、遠慮しないで? まだ食べられるから、ね?」

「セラは学園の頃からあまり変わっていないわね。女の子を囲んでよく食事を食べさせていたという噂は真実でいいのかしら?」

「お、お母様、それは一体どこから……」

「魔術士団に所属している学生の子が報告してくれたわよ? 今も変わらないのね」

「……行いを改めるつもりはないわ〜。さあフユミヤ、食べて食べて〜」

「セラ様の食べ物なのですからご自身で食べてください……」

「フユミヤは飲み物しか頼んでいないでしょう? 魔力も使ったししっかり食べて魔力を取り戻さないとね〜」


 断ってもセラ様は本当に食べさせようとしてくる。

 おとなしく受け入れるしかないのかな?








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 結局儚いパンケーキを半分程食べさせられてしまった。

 セラ様は満足したようで今は自分でパンケーキを食べている。


「さて、明日の話だけれど、まずはフセルック侯爵家の2人を待つからエルとハリネルトくんは魔術士団の建物の中にいてね」


 ミルリーナさんの両隣にいる2人が頷いた。


「そしてセラとフユミヤちゃんとユーリちゃんだけど、私と一緒に行動してもらおうかしら」

「お母様、魔術士団の方は良いの?」

「今は書類がそんなに溜まっていないから全然問題ないの。それよりも封印されし大厄災の獣に抗える手段があるというのなら検証するべきじゃない」

「そうね〜。私達は見てきたけれど、お母様達は見ていないもの。……いろいろなことが変わるはずよ」

「えぇ、間違いなく変わるわね。でも、封印されし大厄災の獣を消せるのならばそうしないと」


 ……封印されし大厄災の獣を減らすこと、国の課題とも言えることなのだろうか?

 でもルプアが今までその数を減らしていたわけだけれど、そのことに関してはどうだったんだろう?


「ということで明日の話は終わりね。大厄災の獣に挑むから全員しっかり休むこと! 後は食べたら解散ね。エルとハリネルトくんは訓練に戻ってもいいけどほどほどにね」

「はい、承知しました」

「……今日は休養に努めます」

「ハリネルトくんは休養ね。セラとフユミヤちゃんとユーリちゃん、せっかくだから騎士団の方、覗いてく?」

「騎士団、ですか……」


 騎士団にはヴィクトールとクラリスさんとコルドリウスさんがいる。

 ……覗いてもいいのだろうか?


「このままだと暇になっちゃうから行こうかしら? フユミヤとユーリはどうしたい?」

「わたくしは行くも行かないも自由でいいと思いますわ!」

「……行こうかと思います」


 このままだと暇になってしまうし、行ってしまってもいいだろう。

 邪魔にならない場所で見学、くらいはできると思いたい。


「それじゃあ食べたら私と一緒に騎士団に行きましょうか! まだまだ時間はあるからゆっくり食べてね!」

「はいですわ!」


 ユーリちゃんの儚いパンケーキは後1番下の大きな段だけだ。

 相変わらず食べるスピードが早い。

 ……秘策の消化促進魔術は使っているけど。

 エルリナのパンケーキはまだ2段だが、食べるペースに乱れは見えない。

 胃袋、大きいね……。

 私は飲み物を飲み切ろう。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「おいしかったですわ〜! やはり大盛りごはん、挑みがいがありますわね!」


 ユーリちゃんが大きな3段パンケーキを完食した。

 エルリナさんは後1段に手を付け始めている。

 残りはエルリナさんが食べ終わるのを待つだけだけれど、どうするんだろう?

 待つのかな?


「皆様、私のことはいいので自由に動いてください。私はこれを食べきって休養に移るので」

「なら、エルも騎士団に行かない? ゴルドルフくんの様子、見ていいわよ」

「私が行っても集中を乱すだけかと思いますが……」


 そういえばエルリナさん、数週間後には結婚するって話だっけ。

 この世界の結婚ってどうするんだろう?

 なんだか想像がつかない。


「そんなの関係ないわよ。私だって本当はセラ達だけに行かせたいんだから」

「……ヴェルドリス王国騎士団総長ですか。なら総長は途中までセラフィーナ王妹殿下方を騎士団の拠点に送ってから引き返せばよろしいのではないのでしょうか?」

「……ヴェルドリスくんは確実に追ってくるわよ。訓練どころじゃなくなるわ」

「そうでしたね……」

「ということでエルも行きましょう。結果は大して変わらないわ」

「承知しました」


 エルリナさんも騎士団見学についていくことになった。

 すごい。

 地球出身の人の方が多くなってしまった。

 そんなことってありえるんだ……。


「それではボクはこれで失礼します。それでは総長、明日はよろしくお願いします」

「ハルネルトくん、ゆっくり休むのよ〜」


 ずいぶん前から食事を食べ終えていたハルネルト様が食器を持って去っていった。

 ここは下膳は自分で行う形式なんだ。

 忘れずに持っていこう。


「それにしても、この食堂は甘い食べ物を中心に出していますの?」

「えぇ、そうよ。どういうわけか魔術士の子達は甘い食べ物を好むからここの食堂は甘い食べ物がほとんどなの。そういうのが好きではない子もいるけど、その子達は自分で持っている厄災の獣の肉を食べているわ」

「やはり魔力を気軽に満たすには食事が1番、ということですわね!」

「そうね。睡眠でもある程度は戻せるけれど、普通より深く長く眠ってしまうもの。疲れていても食べることは大事よ」


 たくさん戦った後に疲れて眠るとだいぶ寝ちゃうんだ……。

 気をつけないと。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「お待たせいたしました。完食です」

「エルはおなか、強いわよね。なにも対策しないで食べ切れたのはすごいと思うけど……」

「このふわふわは口の中で溶けるのでどんな大きさでも問題ないです。大盛り系の料理は確かに物によっては対策が必要ですが問題なく食べきることができますよ」

「ならいいけど……。全員食べ終えたから片付けに行きましょうか。片付ける場所を案内するわ。ついてきてくれる?」


 ミルリーナ様の下膳場所の案内に従って私達は食器を片付けた。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 騎士団の建物は王城に戻ってまた別の青い建物に存在していた。

 剣同士が打ち合っている音も聞こえてくるが、私達が近づけば近づくほどその数が減っている気がする。

 そして建物の入り口に来た時、


「ミルリーナ! 来てくれたのか!?」


 汗を流しながらヴェルドリス様が入り口の先に立っていた。

 ……騎士団の総長なのにそれは大丈夫なのだろうか?


「ウェルドリスくん、訓練に戻って」

「いや、今は乱戦の訓練をしているところでな。フユミヤの近衛騎士のクラリスが自信の割にずいぶんいい動きをしているぞ」

「……クラリスさんが?」


 クラリスさん、戦闘に自信がないようなこと言っていたけれど動けているようだ。

 ……自信付いてくれればいいけれど、どうなのだろうか?


「おっ、エルリナも来たのか。ゴルドルフか?」

「ミルリーナ総長に誘われていただけです」

「まあ、あいつもさらにやる気を出してくれるだろう。早速訓練場に行こう。早く終わらせたがっているやつもいるからな」


 ……誰のことだろう?


 ウェルドリス様を先頭に、私達は訓練場へ向かった。

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