第38話 記念硬貨と役立たず、不審な女
◇Side【フユミヤ】
よくわかんないけど、倒した封印されし大厄災の獣からバレーボールの円周くらいはありそうなクソデカ硬貨が出てきた。
なにこれ?
どう見たってリーフ硬貨の見た目の法則が異なるからお金には使えなさそうだし、バラバラにはできないし……、縮みはするんだ。
……記念硬貨ってやつ?
い、いらない……。
「ユーリちゃん、これいる?」
「……い、いりませんわ。それよりこれ、わたくしには触れません。磁石の反発を受けているような感覚がして手に入れることもできませんわ」
「……そんな機能あるの? い、いらないんだけどな……」
縮みはしたのでとりあえず赤い巾着の財布に入れておく。
……あれ、ちょっとジャリジャリしてる?
それは後で数えるとして収納できたので良しとする。
大厄災の獣はどうなったのだろう?
とりあえず、跡地に近づいてみよう。
「フユミーさん、私もついていきますわ!」
小走りで駆け寄るユーリちゃんに抜かされながら私達は大厄災の獣が倒された場所へ向かう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……なんにもないですわね」
「おぉ! 魔術士達も無事だったんだな! こっちも全員無事だぞ」
「……フユミヤ、大丈夫か?」
「私は特になにもないです」
魔力の使いすぎなのか疲れはそれなりにあるけど、それ以外は問題ない。
騎士団の人達も、セラ様も、コルドリウスさんもケガなく無事ではあるけど、……ヴィクトール様がケガをしているような?
……私がダウンしている間にケガでもしたのだろうか?
とりあえず今、こっそり治しておこう。
「ん? 厄災狩り、ケガをしていたのか?」
「ほんの少しだけな。少し油断しただけでかすり傷だ」
「……それならいいんだが」
「……それにしても封印されし大厄災の獣が町中まで来た、というのは一体どういうことだ? 誰かが封印を解いたというのはわかるが……」
「封印解いたやつがビビって町中まで逃げたんだよ。それで、町がメチャクチャにされた。封印解いたやつは死んじまったから説明できることはこれくらいしかねぇ」
「……そうか」
封印されし大厄災の獣に関して大してわかることはなさそうだ。
……それにしてもどうして封印を解いちゃったんだろう。
ロンプルセイド草原の厄災の獣が弱すぎて封印されし大厄災の獣も余裕、なんて判断をしてしまったのだろうか?
……普通の人は封印されし大厄災の獣に関してどのような認識をしているのだろう。
「封印されし大厄災の獣は倒したし、後は町の復興、だな。厄災狩りも手伝ってくれるか?」
「構わない、と言いたいところだが俺達はなにができるんだ? 土の魔力を得意としているやつがいないんだ」
「建物の修繕は俺達町の住人でやるから魔力中和と怪我人の治療をやってくれないか。宿代はタダで済むようにしておくからよ」
「……わかった。治療魔術ができるのは1人しかいないが、いいのか?」
「魔術士もやってるくらいなら十分だろ。この町の治療魔術士よりも腕は確かだ。騎士団の怪我人も一瞬で治しちまったんだし」
「……そうか。治療魔術についてはフユミヤがやるしかないが……、コルドリウス、フユミヤの護衛を頼めるか?」
「わたくし、ですか?」
……問題の厄災の獣は倒したのに護衛なんて必要なのだろうか?
コルドリウスさんも戸惑っているし。
……というよりも私とコルドリウスさん、組んでもいいのだろうか?
「俺とセラとユーリは魔力中和の手伝いに回る。コルドリウスはフユミヤが無理を強いられないか見ていてくれ。嫌だというのなら俺と交代だが……」
「
「そうか。魔力中和が終わったら合流するからそれまではよろしくな」
「はい! 御任せを!」
……ヴィクトール様の命令が嬉しいのか、ためらいもなく受け入れるコルドリウスさん。
……嫌いな人間の守るのにどうしてここまで喜べるんだか。
「そういうわけで俺達は二手に分かれるが、怪我人の治療はどこでやるんだ?」
「それなら治療院の方を頼む。宿屋も臨時治療院になっている以上、あんたらの寝床が確保できない。宿屋にまで手は回っていないから宿屋の方を手伝ってくれ」
「宿屋の場所はどこにあるんだ?」
「そこまでの案内はウチから人を出す。……ミルーノ、行けるか?」
「ボクですか? 構いませんけど……」
「ならいいな! ミルーノ、この二人を宿屋まで案内してくれ」
「……はいはいわかりました。じゃあ、行きましょう。宿屋はあっちです」
先導を始めたミルーノさんの後をついていく形で私とコルドリウスさんはヴィクトール様達と分かれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
道中会話もなく、ボロボロの町を歩いた。
……無事なところもなくはないけど、封印されし大厄災の獣が暴れ散らかしたのかそこら中瓦礫まみれだ。
「はい、ここが臨時治療院となっている宿屋。ボクが軽く話を通してきますからちょっと待ってくださいね〜」
「……わかりました」
突然治療術士です!
って入っても怪しいだけだもんね……。
ミルーノさんが宿屋に入って行くのを見送る。
「えっ! 治療術士が来たのか!!? 早く入れて治してくれ!!」
……10秒経たずにそんな声がした。
相当
「というわけで入っていいですよ〜。2人共」
宿屋から顔を覗かせたミルーノさんの声に従って宿に足を踏み入れる。
……鉄臭いのが漂うのと同時に弱めの魔力の気配がたくさんあるのを感じる。
……これを治療するのか。
さっき騎士団の人達を治したのと同じ感じでなんとかなるかな……?
とりあえず光の魔力を杖に溜める。
「……おい、そこで治療魔術をするつもりか?」
「怪我人、沢山いるからまとめて治した方がいいかなって」
「そんなに治そうものなら魔力の消費が多い。せめて怪我の具合を診てから治したらどうだ」
……といっても医療に関する専門知識がない上に傷口を見たら卒倒しそうなのでとりあえず弱めに治療魔術を展開しておこう。
「……おい、魔力の量を減らしたのはわかったが範囲が広すぎないか?」
「1人ひとり見る方が時間かかるし、一刻も争うような人もいるだろうからとりあえずやれるだけのことはやった」
「……倒れても知らんからな」
コルドリウスさんは見下している人に対しては口調が厳しい。
まあ敬意を向けられても困るだけだし、別にいいんだけど……。
「じゃあ、ボクはやれることがないので魔力中和の現場に戻りますね〜。フユミヤさん、がんばってください」
「宿屋への案内、ありがとうございました」
「団長に言われた以上は逆らえませんからね〜。まっ、おかげでイイモノ見れましたし、感謝ですよ」
「いいものとは……?」
「内緒です内緒。それじゃあ、失礼しました〜」
よくわからないことを言い残してミルーノさんは宿から出ていった。
いいものとは一体なんだろう?
大したものは見せてないと思うけど……。
「……治療に行かないのか?」
「……そうだね。行かないと」
……傷口、塞がっているといいんだけどな。
「治療術士の嬢ちゃん、2階に重傷のヒトが多くいるからそっちを治しに行ってくれないか? 1階の怪我人は今のでだいぶマシになっているはずだ」
「わかりました。2階ですね」
「ああ頼んだよ、嬢ちゃん」
宿の亭主に言われるがまま2階に上がることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
2階は、これはまたずいぶんと鉄の臭いがすごい。
大量出血で死んでいる人もいそうな気が……。
どこかの部屋からはすすり泣くような声も聞こえる。
手遅れの人もいるだろう。
……覚悟、固めないとな。
「治療術士!! 来たんだな! 頼む俺の連れを治してくれ」
「いや私の!」
「あたしの兄さんを!」
治っていない人が多いのかこの人を治してほしいといった声が四方八方から聞こえてくる。
……埒が明かない。
強めの治療魔術を展開してそれでもダメなら各部屋に入っていくしかないだろう。
「……おい」
コルドリウスさんの制止の声を無視して治療魔術を展開する。
……反応を返さない魔力の気配がある。
……これは、私が来なくても多分手遅れなやつだ。
「……今、治療魔術を展開しました。これで傷が治っていないなら諦めてください」
「兄さん!」
「……ワジェ!」
「ヒルドリカ!」
「シル姉……!」
各々の同行者の名前を呼びながら部屋に戻っていく人もいれば、泣き具合も酷くなっていく人もいる。
……治らなかった人の同行者なのだろうか。
ドタドタと走る音が背後からしたので振り返る。
亜麻色の長い髪をまとめた水色の目をした女の人で、その両腕には赤い魔石が抱えられている。
…………この状態は、もう。
「治療術士さん! 彼を、彼を治せませんか……!?」
「……それは」
「その男はもう死んでいる。諦めるんだな」
「死んでなんかいません! 魔力の気配は絶えてないじゃないですか!」
「魔石になった以上、そこからヒトが生き返ることはない。それに治療魔術を無理してかけようものなら粉になるぞ。……いいのか?」
「っ……!」
狼狽えた女の人は魔石を抱えて部屋にトボトボと戻っていく。
……魔石に治療魔術をかけたら粉になるんだ。
なんとかしようとしなくてよかった。
より酷い結果になるところだったんだ。
「おい、この宿から出るぞ。これ以上はこの町の治療術士にやらせておけ。オレ達が出しゃばっていい場所じゃない」
「……そうだね。私の魔力もそろそろ枯渇しそうだし、撤退しよう」
2階に足を踏み入れて数歩も歩いていないけど、1人ひとりの部屋を見て回るのは止めておいた方が良さそうだ。
喜びの声を上げる人、すすり泣きを止めない人、様々な声を後にして宿の階段を降りる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おっ、おい、治療術士の嬢ちゃん、もう治したのか?」
「……治せる人たちに治療魔術は展開しましたが、手遅れな人達もいました。もう私の魔力もないので失礼します」
「……そうか。ありがとな」
治療魔術を適当にばらまいて出て行く結果になったけど、これで良かったのだろうか?
……でも無理して魔力を使ったらまた倒れるだろうし、私にできることはここまでなのだろう。
……無力だな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
宿を出て少し歩いて、ふと気づく。
なにもできなくなった私達はなにをしていたらいいのだろうか。
魔力中和にも建物の修繕にも魔力は必要だ。
魔力が残り少ない以上、現状の私にはやれることがもうない。
……どうしよう。
「……で、どうするつもりだ? もう魔力がないと言った以上、治療院の手伝いはさせんぞ。……魔力を補うための食料は持っているのか?」
「……持ってない」
「俺の分は余裕がないから渡さないからな」
「さすがにそういうことはしないよ。……でもなにもできなくなっちゃったからな」
「じゃあ、アタシの持っている食料、食べる?」
「……誰?」
魔力の気配を感じない、得体のしれない女性の声が背後から聞こえて振り向く。
ピンク色の長い髪を上で2つのお団子に括って余った髪を三つ編みにしている、輝くような緑色の目をした背の低い女の人がそこに立っていた。
……あれ、その黄色い服についている青い花飾り、ユーリちゃんとお揃い?
「……気をつけろ、魔力の気配を一切感じないヒトなんていない。どういう理屈かわからないがっ……!? その花飾りは……!?」
「なに〜? アタシの花飾りがどうかしたって?」
「アキュルロッテ様の花飾りではないかっ!? ぽっと出の怪しいやつがなぜそれを持っている!?」
「綺麗だから手に入れただけだよ? アキュルロッテ様が誰かは知らないけど、なにが目的で探してるの? もじゃもじゃのお兄さんは?」
「もじゃっ……」
……コルドリウスさん、髪の毛、気にしていたの?
「それにしても珍しいね。紫色と黄色の目をした二色眼なんて。普段は黄色い部分しか使われていないけど、紫色の部分も使えばいいのに。黄色しか求められてなくて可哀想だよね〜」
「ニシキガン……?」
「2つの属性を同等に扱える象徴の目を持つ人達のこと。……知らなくて当然か。まだこの世界に来て2週間も経っていないんだっけ?」
「……な、なんでそれを知って?」
どうしてこの人、私の細かい事情を知っているんだ?
この世界に来て2週間も経ったか経っていないかはあの3人しか知らないはずなのに。
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