第37話 騎士団撤退→彼女の目覚め→戦場焼肉会【Sideヴィクトール→セラ→ユーリ】
◇Side【ヴィクトール】
フユミヤが魔力切れで戦線を離脱した。
無理もない。
自分の魔力の気配が
この混戦状況のせいもあってセラが戦えない状況が功を奏して彼女を安全な場所へ運び出せた。
だから後はこの大厄災の獣にとどめを刺すだけだ。
ユーリの風の魔力が大厄災の尻尾があった場所を狙う。
やはりそこが弱点だな……!
フユミヤが作った弱点、そこさえ狙い続ければこの大厄災の獣は倒せるはず、魔力の通りが全く違うからな。
……騎士団の連中は気づいていないが。
こればかりは経験だからな。
「団長! 剣が折れそうです! 撤退します!」
「あっ、おい……! 俺もやべぇんだよな……」
「武器が壊れそうなら撤退してくれ! 後は俺達でやる!」
「なっ、ヴィクトール様! そうしたら御身に……」
「弱点がある! そこを攻めるぞ!」
「弱点なんてあるのかよ! 教えてくれよ!」
「尻尾の断面だ!」
「魔術士じゃないと狙いづらいじゃないか! あぁ! クソ! 俺も剣が壊れた! ……撤退する!」
騎士団のやつらが撤退する。
……さて、この場所には俺とコルドリウスとユーリと大厄災の獣しかいないわけだが、ユーリの消耗も激しい。
……あの手を使うか。
大厄災の獣の蹴りを大げさに躱し、騎士団の連中が壊した剣の破片で手袋と服の袖から見える素肌の部分を切りつける。
問題なく血は流れた。
及第点ではあるが、これで威力の底上げはできるだろう。
剣を握り直し、大厄災の獣の元へ向かう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇Side【セラ】
フユミヤを寝かせるために治療院へ向かったけれど、大厄災の獣による襲撃の被害者が多く、寝かせてあげることはできなかった。
宿は臨時治療院になっているけれどそこもいっぱいだという話で、フユミヤを安全な場所で寝かせてあげられそうになさそう。
行き場もなく町をさまよう。
町はどこも破片で溢れていて封印されし大厄災の獣の恐ろしさを実感させる。
……こんな厄災の獣を私たちは倒そうとしていたのね。
そして勇者王レイヴァンはこれより強い古き大厄災の獣をたった2年で倒しきった。
だから勇者王、なのね……。
ふと、多くの足音が聞こえてきてその方角を見る。
……武器を持っていない騎士団のヒト達だ。
……一体どうしたのかしら?
まだ大厄災の獣の魔力の気配はなくなっていないのに、どうして町の中の方へ?
「そこのお嬢さんを抱えているお嬢さん、町をさまよってどうしたんだ? 治療院なら向こうだぞ?」
「……団長、その抱えられているお嬢さん、尻尾を落としていた魔術士だと思います!」
「なっ、あの旅の厄災狩り達ヤベェじゃねぇか! お前達、詰め所の武器取ってあの大厄災の獣の元へ戻るぞ!」
「団長、俺達へろへろですよ〜……」
「へろへろでもいい! せめて壁になれ! 治療魔術士がいるんだ! なんとかなる! 急ぐぞ!」
不満を言いながら団員達は団長を追いかけていった。
……今なら私もあの大厄災の獣と戦えそうね。
フユミヤはユーリに任せて、私も戦いに行くべきかしら……?
「……ん」
「フユミヤ? 起きたの?」
フユミヤが動こうとしているのをなんとか止める。
魔力は少し回復してはいるけど、まだ十分じゃない。
魔力を分けるということもできなくはないけど、属性が異なる以上、分けてもフユミヤの魔力は大して回復しないのよね。
起こしてしまったらまた無茶をしそうだし、安全な場所に逃がしてあげたかったけど……。
私、なにもしていないものね。
「……セラ様、まだ、あの大厄災の獣いますよね?」
「ダメよ、フユミヤ。まだ戦うのはダメ。魔力は少し回復しているけど、戦えるほどじゃないわ。声だって掠れているもの」
「でも、私だけ寝ているわけには……」
「じゃあ下ろすけど、立てるかしら?」
抱き上げていたフユミヤの体を下ろす。
フユミヤの体が崩れそうになるのを支える。
「……立てないでしょう? そんなになっちゃうくらい貴女は消耗しているの。また抱えるわよ」
「……うぅ」
「寝かせてあげられるような場所はないから一度大厄災の獣の場所に戻るけど、戦わないでユーリと一緒にいるのよ」
「…………わかりました」
納得はしていなさそうだけど、今はこうするしか最善の方法はない。
この状態のフユミヤを戦場へ連れて行きたくはないけど、騎士団が来る前に私も戦わないとね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大厄災の獣がいる場所についた。
前衛で戦っているのはお兄様とコルドリウスしかいない。
……これなら私も戦えるわね。
「セラ、なんでフユミヤを連れて戻った!? 魔力はすぐには回復しないぞ!」
「寝かせられる場所がないの! フユミヤはユーリのところで休ませるから私も戦闘に参加するわ!」
「……そうするしかないか。この大厄災の獣の弱点は尻尾の断面だ! そこを重点的に攻撃するように!」
「わかったわ!」
後ろにいるユーリから攻撃が飛んでくる気配がしない。
ユーリも限界まで来てしまったのかしら……?
とりあえず、ユーリのところへ行かないと……!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
…………ユーリがなにをしているのか理解できなくて閉口する。
どうして戦場で肉を焼こうとしているのかしら?
「……セラ様、来てしまいましたか」
「……どうして今、お肉を焼いているのかしら?」
「わたくしの魔力が尽きましたの。魔力の回復を行うために焼いていますわ。魔力の豊富な肉を食べればすぐにとはいきませんが魔力は回復しますのよ?」
確かに食事で魔力が回復するということは知ってはいるけど、戦闘中にするべきなのかしら?
……でも、そうしないとこの戦闘は終わらない?
フユミヤの魔力を回復させて大厄災の獣を倒す?
……思考がそっちに行きかけた時、フユミヤは動いた。
「……ユーリちゃん、私の分ある?」
「フユミーさん、起きれる状態にはなりましたのね。フユミーさんも食べましょう。セラ様は前であの大厄災の獣を止めてくださいまし」
「わかったわ」
どちらにしろ、ユーリもフユミヤも今は戦えそうにない状態ね。
そうである以上私とお兄様とコルドリウスで大厄災の獣を引き付けてフユミヤの魔力が回復するまで待つしかないわ。
「……フユミヤ、降ろすわよ。……立てる?」
「……はい、立てます。」
「まだよろけているわね……。ユーリ、フユミヤに肉を食べさせてあげて。まだ、満足に体を動かせるわけではないわ」
「わかりましたわ。さっ、座ってくださいまし」
「……うん」
ユーリが用意した石の椅子にフユミヤが座る。
……これでもうフユミヤにやれることはやったわね。
「それじゃあ私は戦ってくるから、他の厄災の獣への警戒も忘れないようにするのよ」
「わかってますわ! 大厄災の獣にも気をつけてくださいまし。知らない挙動をするのかもしれませんわ!」
「ええ、そうね。じゃあ行ってくるわ!」
「いってらっしゃいまし〜!」
ユーリの声援を背に私は大厄災の獣へ向かって駆け出す。
お兄様が言っていたあの厄災の獣の弱点は、尻尾の断面だったわね。
あれに向かって飛び蹴りでもしようかしら。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇Side【ユーリ】
セラ様があの大厄災の獣に飛び蹴りを放ったのを見守った頃、肉が丁度焼き上がる。
戦いながら焼き肉なんて地球だったらとんでもないバカをしているとはわかってはいるけど、こうするしか効率のいい魔力の回復手段はないのだ。
魔力というものは逃げやすく、貯めておくことはほぼできない。
どんなに魔力を貯めた魔石であっても数週間もすればただの空魔石となってしまう。
永続的に貯められる手段がない割に人間の体や厄災の獣の肉には魔力が溜まってはいるので、厄災の獣の肉を食べたり、人間の皮膚に触れたりすることでも魔力は得られる。
人間同士の接触の場合、魔力の属性が異なると大して魔力が得られないので注意が必要というのはお師匠様の言葉だ。
なので、魔力が豊富で新鮮な厄災の獣の肉を食べることが1番効率がいい。
だから戦場だろうと焼き肉だ。
……フユミーさんも正常だったらどん引いていそうだけど、正常な思考ができるような状態ではないのか、目が虚ろなままボーっとしている。
目の黄色い部分の鮮やかさもなくなっているような気さえする。
心配なので焼き上がって少し冷ました肉を口元に与える。
「……食べましたわね」
「…………肉? なんでこの状況で?」
フユミーさんが正気に戻ったようだ。
目の鮮やかさも戻ってきた気もする。
……とはいってもこれは一時しのぎに過ぎない。
ありったけ食べさせないと、まともに戦場には立ち続けられないだろう。
「正気に戻りましたわね。食べますわよ」
「いやいやいや、大厄災の獣! まだ生きてるよ!?」
「御自身の状態は覚えていておいでですの? まだまだフユミーさんの魔力は回復しきっておりませんわ。ここはセラ様達にお任せして、たらふく食べて戦場に復帰しますわよ! 次の肉ですわ!」
「………………それならせめて私の分の箸があったほうが効率的じゃない?」
「さすがにそうですわよね。今はふざけている場合じゃありませんもの。フユミーさんの箸、このくらいの大きさでよろしくって?」
「うん、そのくらいで大丈夫。……急いで食べないとね」
「むせない程度でお願いしますわ」
「……気をつける」
フユミーさんが数枚の肉をまとめて食べる。
ハムスター食いは逆効果、とは思うけどこちらのほうが早いのだろうか?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
鉄板上の肉が駆逐された。
フユミーさんの魔力の気配もある程度は戻ってきているし、わたしの魔力も戻ってきている感覚がする。
……戦闘に戻るべきだろう。
「さて、フユミーさん。戦いに戻れそうですの?」
「うん、大丈夫。他の人の魔力の気配もはっきりしてきたし、何度か電気の魔力を撃てそうなくらいには魔力は回復したよ。ありがとう」
「構いませんわ。そのために戦場でわざわざ肉を焼きましたもの。騎士団の方々も戻られたようですし、引き続き超遠隔から攻撃するしかありませんわね」
「……超遠隔ってどういうこと?」
「普段の戦闘よりも間合いを取っておりますわよね? それが原因で魔力の消費も増えてますのよ。それからわかりにくいですが遠くの物へ魔力を当てると威力も下がりますの」
「……もしかして騎士団の人達、邪魔?」
「そうなりますわね」
一部の厄災の獣は硬い部分があって物理的な攻撃手段の武器では全然太刀打ちできないとお師匠様が言っていたので、今の袋叩きの現状ははっきり言ってただの無駄な行為、ということになる。
大厄災の獣が一部の厄災の獣に該当するかどうかはわからないけど、この前衛の攻撃が大して聞いていない現状がそれに該当するのではないかと思わせる。
……お師匠様は封印されし大厄災の獣を倒したことがあるのでしょうか?
「邪魔だと言っても攻撃するわけにはいかないからここから攻撃するね」
「……そうせざるを得ませんものね」
大きめのため息をつく。
わたしが常識だと思っていたことが大して知られてないことが多すぎる。
お師匠様だったら封印されし大厄災の獣とどう戦うのだろう?
電気の魔力を操作して大厄災の獣に当てようとするフユミーさんを傍目で見て、わたしもそれに風の魔力で続く。
「魔術士が戦線復帰したぞ!」
「これで封印されし大厄災の獣を倒せる!」
「お前ら! 油断するな! こんな状態になってからしばらく経っているがなにするかわかんないからな!」
「わかってますって団長!」
……無邪気に喜ぶ騎士団共が気に食わない。
貴方達が戻ってこなければもっと楽に戦えるのに。
苛立ち混じりに尻尾の断面を爆発させるつもりで風の魔力を放つ。
「チッ、大して効きませんわね……」
どんなに魔力を込めても威力が減衰するから大した威力が出ない。
前衛を巻き込むつもりで近づいてしまった方が楽……?
「……ユーリちゃん、大丈夫?」
「なんでもありませんわ。それよりフユミーさんは手応えとか感じてますの?」
「さっきより魔力が大厄災の獣に浸透している感じはするよ。騎士団の人達の攻撃も無駄ではなさそう」
「…………肉の下味を付けるためにフォークで肉を刺しておくようなものですわね」
浸透と言うくらいならさっきよりも効いているとは思うが、結局フユミーさんの電気の魔力頼みになりそうだ。
……わたしにも電気の魔力が使えればいいけど、それは無理だということは実践済みだ。
同じ地球で生きた記憶があるというのに、どうして電気の魔力が使えないのだろうか?
対して効かないとわかっていても風の魔力を放つ。
少なくともこの攻撃は騎士団共の攻撃よりは弱くないはずと信じるしかない。
電気の魔力は風の魔力寄りも速度が速いのか、わたしより出が遅いフユミーさんのそれが私の風の魔力を追い抜かして行く。
2つの魔力は問題なく大厄災の獣に当たり、次弾のための魔力をチャージする。
……ヴィクトール様が距離を取った?
怪我はしているが、一体どうしたのだろう?
「全員! 攻撃をやめるんだ! 大厄災の獣から魔力の気配が消えたぞ!」
「やったのか!?」
「おい! 大厄災の獣からなにか出るぞ!」
なにかというのは一体……?
疑問に思う間もなく、辺りが閃光で包まれる。
「……全員無事かしら!? 誰か目を開けられるヒトはいる!?」
「……あたっ」
「フユミーさん!? どうしましたの!?」
フユミーさんになにかが当たったらしい。
慌ててフユミーさんの方を見る。
光は収まっているようだが……、これは、一体……?
「ずいぶん大きな硬貨ですわね……?」
「今戦っていた大厄災の獣の絵が彫られているけど……、なんで?」
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