第48話 今日は休もう
今回の記念硬貨がどうなるかの様子見兼暇つぶしのため今回倒した大厄災の獣、厄災の獣がいた辺りの魔力中和を行う。
「……フユミヤちゃん、魔力中和をしっかりしすぎてるけど、どうして?」
「……場合によっては厄災狩りの人が死んでしまうくらい強い厄災の獣が出てきてしまった例を見ちゃったからかな」
「それって厄災狩りが弱かっただけじゃないの?」
「確かに弱かったけど、まだ学園に入らないような年齢の子達が厄災狩りをしているような状態だったから……」
「……その厄災狩り達、ユーリより強いの? 今のユーリは4歳だよね?」
「ユーリちゃんよりかは魔力の気配は弱かったけど……」
……ルプア、弱い厄災狩りに対する当たりが強い?
弱い人なんていない方がいいって思ってるのかな……?
「カエルちゃん達が厄災狩り、ねー……」
「カエルちゃん?」
「井の中の蛙のこと。大人しく非戦闘員として働く道があるはずなのに、なんでそんな危険な方選ぶんだか」
「……もしかしてルプア、この世界のどこにでも教育が行き届いてるって思ってる?」
「あー、はいはい。そういうことね。教育格差かー。どうにもならないよこの世界も。どの貴族もその観点持たないし、アタシはそんなことしたところでいつかは途絶える可能性考えるとやりたくないし」
「……国1つ変えるのも難しいってこと?」
「そうなるねー。大体先代王の子孫ってもう40人近くはいるはずだし、そいつらが要職
……それはそうだけど、でもなりたくないものはなりたくないか。
それに先代王の子孫が約40人というのも凄まじいような……。
よく政争とか戦争にならないね。
「本当に変えるならこの世界丸ごと壊して最初から“正しい”教えを持った人々だけで生きてもらうくらいしないと、ね」
「……それはもう破壊なのでは?」
「そんくらいしないとダメでしょ。手綱を取りやすいように人口少なめにしたり、悪いことしたら記憶消したりとかもしたいかな」
「……それってもうディストピア」
「そういう物騒な発想しかできないから貴族辞めてきたんだけどね〜」
「婚約破棄みたいなことはしなかったの?」
「絶対面倒なことになるから夜逃げした。結果としてまだ諦めてないやつがいるせいで追われてるんだけどね。まあ追っ手はザルだけど。毛染め文化ないから助かる助かる」
……婚約破棄はしなかったんだ。
だから追われているのでは?
それはそれとして、
「……ルプアの元の毛は何色なの?」
「ユーリと同じ色。あの子はアタシに改造されてるからアタシの隠し子みたいな見た目になってるけど、はぐれたてほやほやなのと、追っ手になってる騎士団の成果が大してないから隠し子の噂が流布できてないんだよね」
「確かにコルドリウスさんは誤解していたけど……、なんでユーリちゃんを改造したの?」
「本人が肉親の面影を消してくれって言ったから試しにやってみたらアタシのクローン人間みたいになっちゃった。もちろん、元のクローンみたいに短命にならないようにはしてあるよ」
「クローン人間って生まれた後にもできるの?」
「この世界は細胞じゃなくて魔力でできてるからね、理屈は地球と違うわけ。まあ大人をアタシそっくりにもできるけど、毛染め前のアタシそっくりにするには魔力の少ない大人じゃないと厳しいだろうね」
「…………そんなことして大丈夫なの? 倫理……」
「地球の倫理はこの世界にないよ!」
「そっかぁ……」
ルプアはこの世界に地球の良識を持ってくる気はなさそうだ。
……まさかユーリちゃんがルプアの隠し子と疑われた経緯に改造なんて単語があるとは思わなかった。
人間を改造するなんて、下手したら人が死ぬのでは……?
でも改造されたユーリちゃんは生きているからいいのかな……?
「……さて、あの記念硬貨だけど、それなりに時間が経っても離れていく気配を感じないね。経過はまだまだ追っていくとして、次の封印されし大厄災の獣を探そっか!」
「……まだ探すの?」
「ここ、フセルック領は次代の封印する者の育成に積極的だから下手したら厄災の獣までカチンコチンの氷像になってるの。そういうのも倒しつつ、お金も稼いでこうね!」
「大厄災の獣を狩ってもお金って稼げるの?」
「厄災の獣が強ければ強いほど手に入る額は上がっていくよ。財布見てみれば?」
「どれどれ……?」
赤い巾着財布をポケットから取り出す。
かつて持っていた青い巾着財布の重さと同じくらいになっているような、そんな気がする。
「そういえば財布を鞄にしまわないの? 落とすよ?」
「この服、ポケットがとても深いから深くに押し込めば落ちない……、と信じてる」
「……信じてるだけ? なら鞄にしまっていいんじゃない?」
「鞄にしまったら財布にお金が入らなくなるんじゃ……?」
「いや、入るけど?」
「………………そうなんだ」
私がやっていたのはただの落とし物リスクを上昇させるようなものだったんだ……。
今は金額を確認するとして、しまう時は魔力の印をしっかりつけて鞄の中に入れておこう。
土の魔力で半透明の板のような物を作り、その上にお金を並べていく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
お金を並べていった結果は、
1000万リーフ硬貨が、9枚。
100万リーフ硬貨が、1枚。
10万リーフ硬貨が、4枚。
1万リーフ効果が、6枚。
1000リーフ硬貨が、4枚。
100リーフ硬貨が、2枚。
10リーフ硬貨が、8枚。
1リーフ硬貨が、1枚。
合計9146万4281リーフを現在所持していることになる。
……あれ?
私がこの赤い巾着財布に残しておいた額って100万リーフ硬貨だよね?
1日で9000万リーフ以上稼いだってこと!?
大厄災の獣マネー、恐ろしい……。
「ふーん、大厄災の獣1体じゃその程度か」
「えっ、9000万ってそれなりの大金では?」
「地球人と普通に生きてる人間からすればね。大厄災の獣を狩りまくると数十億とか余裕で稼げるし……」
「……この世界って魔力が強くないと稼げないの?」
「まあそう。この硬貨の発行元が厄災の獣である限り、厄災狩りは金持ちになりやすいのは普通だよね」
「そっか……、そうだよね」
社会人だった時の給料を越えてしまうのは当然のことだったんだ……。
「まあ、しょげずに次の封印されし大厄災の獣を探そうね! フユミヤちゃん! まだまだ今日は稼げるぞ〜」
まだ空も明るい。
近くに封印されし大厄災の獣の封印があれば倒してもいいのかもしれないが……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……さすがにもう夜前か〜。この状態の封印されし大厄災の獣を倒しても単なる労力のムダなんだよね」
「今って夜前なの?」
「……フユミヤちゃん、時計買った方がいいよ。さすがにその状態で厄災狩りをするのはマズい。と言っても時計屋は王都にしかないんだけどね……」
「強い厄災の獣が出てくるからってこと? でも私戦ったことあるけど」
「それって弱めの厄災の獣が出てくる場所でのことなんじゃないの? 強めの厄災の獣が出てくる場所を夜に通ると数がとんでもないよ! しぶとくて、数が多い! フユミヤちゃん、100体の厄災の獣と戦ったことは?」
「ないけど……」
「1体の大厄災の獣に勝てるフユミヤちゃんでも粒ぞろいの多数の厄災の獣には負けるから時計買うまで1人旅は止めといたほうがいいね。死へまっしぐらと同然だし」
「……でも臨時拠点を作れば大丈夫では?」
「厄災の獣に見つかっているのに臨時拠点に籠もってもムダムダ。厄災の獣が壊そうとしてくるよ」
「……寝袋になにか特殊な力があるからそれを広げていないとダメってこと?」
そういえば寝袋を展開すれば、みたいなことをユーリちゃんが言っていたような気がする。
厄災の獣避けの効果でもあるのだろうか?
「獣避けの効果自体は別に寝袋でも他の物にでも付いていたらいいんだけど、まずそれがないとダメだよね。寝ている間に臨時拠点を攻撃されるわけにはいかないし」
「……じゃあどうして寝袋に獣避けの効果を? 寝る直前に広げるとなると相当遅いんじゃ……」
「あれ? 貴方達17時くらいに寝袋を広げてなかった?」
「……そうなの?」
「そのはずだと思うけど……、まあいいや。臨時拠点作るね」
そう言ってからルプアはその辺の草木を風の魔力で狩り始めた。
…………相当広い空間を作るつもりなのだろうか?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「よし、できた!」
「……臨時拠点にしては豪華すぎない?」
臨時拠点として使うにはやけに大きくて横に長い家だ。
外壁は白い塗り壁で、土台の部分もしっかり作られている。
ドアが置けそうな空間だけぼっかりと空いているのは気がかりだが、正直ヴィクトール様の空間より見た目は豪華な気がする。
でもこれ、臨時拠点だから明日には壊れるんだよなぁ……。
なんだかもったいないような気がするけど、仕方ないのかな?
「さて、フユミヤちゃん、ドア作るから臨時拠点の中に入ってくれる?」
「うん……」
言われるがまま、臨時拠点の中に入る。
げ、玄関の靴を脱ぐ場所が作られている。
この靴を脱ぐ場所、ヴィクトール様が作った臨時拠点にはなかったな。
……というより、この臨時拠点だいぶ丁寧に作られていないか?
……ルプアに土魔力の適性はどのくらいあるのだろう?
1番適正があるのは風属性だというのは目の色を見ればわかるけど……。
「ドア、作り終わったよ〜。これで鍵を閉めておけば一晩はなんとかなるわけ!」
「……それでも一晩なの?」
「そりゃ臨時拠点だし、獣避けの効果を出し続ける道具なんてものはめったに無いしね! 寝袋に頼っても効果は10時間くらいだし、新しいのに変えて寝続けるならまあ持ちはするけど……」
「それは寝袋がもったいないね……」
「そういうこと。籠もりたいなら宿屋に籠もっていた方が安全なわけ。治安が良いところに限られるけど。」
「……治安が悪かったらどうなるの?」
「ならず者に部屋を攻撃される。安宿は基本的にならず者とグルだよ。0リーフで泊まれる宿屋には要注意ね」
「それは……、うん」
そんな怪しすぎる宿屋が存在するんだ。
……でも安めの宿屋は怪しんだほうがよさそうだけど、相場で見分けられるかな?
「安宿ってどのくらいから安宿?」
「……そこはよく知らないや。宿屋を使う時は1番高い部屋に泊まっているからね」
「そっかー。高い部屋に泊まれば大丈夫そうなの?」
「宿屋の外装にも気をつけてね。なんかあからさまに怪しい外装のところは普通の厄災狩りが泊まるべきではないところだから。普通そうなところが一番いいからね」
「わかった。忠告ありがとう」
宿屋は普通が一番いいとのことが良くわかった。
1日寝る場所だから、安心して寝られる場所の方がいいよね。
「臨時拠点も作ったし、まずは……、フユミヤちゃん洗わないとね。フユミヤちゃん、洗われる準備はできてる?」
「……自力で洗うのはダメなの?」
「フユミヤちゃん火属性以外の四属性の適性ないんでしょう? ここは適正のある人に洗われた方がいいよ」
「そっか〜……、じゃあお願いします」
「じゃあ洗うよ〜」
今まで受けた洗浄魔術の中で1番丁寧な施術を受けている。
水流の勢いに任せた洗い方じゃなくて…………?
違和感があって目を開けてみる。
「泡でもこもこ……」
「こっちのほうが洗った気がするでしょ? よくわかんない水よりもね」
「たしかにそうかも知れないけど、そこまでする……?」
「そんじゃ洗い流すから目を閉じてね〜」
滝のような水を被って泡を流し落とされる。
服の中にまで水が入ってくるような感覚もしたが、そららもまとめて流し落とされた。
…………洗浄魔術、凄いな。
「口の中とかはアイス食べてからにして、夕食を食べよう!」
「……アイスは食後?」
「……食前にアイス食べちゃうの? 食後のほうが良くない?」
「…………それもそうだね」
本当にバニラアイスの味がするかどうかは知りたいけど、それは夕食を食べてからにしよう。
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