第47話 アイスに釣られる女性(24歳)
「さて、フユミヤちゃん、このカチンコチンに凍っている封印を解くにはなにが必要だと思う」
「…………尋常じゃないくらいの暑さ?」
「まあそうなんだけど……、じゃあ魔力で言うと、どれ?」
「火の魔力?」
「正解っ! 後であげるバニラアイスの感触を選ぶ権利をあげましょう!」
「……食感、変えられるの?」
それは聞いていない。
できれば柔らかめの濃いバニラ味がするバニラアイスを食べたいけれど……。
「もちろん変えられるよ! 歯で砕けないくらい硬いのからでろっでろの柔らかいのまで。濃いめ薄めもできるかな?」
「なるほど……」
味の調整までできてしまうのか、それはなんとも恐ろしい魔法だ。
「亜種として餅っぽいなにかに包むこともできるけど……」
「エッ!」
それはもう冬季限定最強もちもちアイスと言っても過言ではないのでは!?
「餅っぽいのに包んだのはまた今度ね。チョコっぽいのにコーティングしてパリパリさせることもできるよ」
「なっ、なっ、なっ……」
そんなこともできるの!?
バラエティに豊かすぎ!
全部食べたい!
「……バニラアイスでこうも反応が良くなるなんて、ルプアちゃん予想してなかったな」
「じゃあ、火の魔力でこの封印解いちゃえばいいってこと?」
「それはまだだよフユミヤちゃん。今回はアタシがやるからね〜。アイス食べたいのはわかるから落ち着こうね〜」
「アイス……」
こうなれば急いで封印されし大厄災の獣を倒してアイスをたらふく食べよう。
早くアイスが食べたいな……。
「欲しそうな目で見ないの! 先制攻撃の準備しちゃってね! 封印解きたての大厄災の獣は動き鈍いから!」
「うん!」
あらかじめ大きくしておいた杖に電気の魔力を溜め始める。
アイスという餌があるので、気持ちいつもより魔力が溜まるのが早い気がする。
バニラアイス、待っててね!
「そんじゃ、封印解くから気をつけてね〜」
ルプアが弓に火の魔力を込めて氷像に押し付ける。
それで封印解けるんだ。
「やや解けだね、もう攻撃して問題ないよ!」
ルプアが飛んで避けたのを確認してから氷が溶けて露出している大厄災の獣の濃い赤い毛皮の部分に電気の魔力を当てる。
「……一気に封印の氷が溶けた!?」
「一撃が強すぎるからね〜。これは期待できそう。フユミヤちゃんは攻撃を続けて〜、アタシも加勢するからさ」
「…………あれ? 後衛しかいない?」
だって私は杖持ちの魔術士、ルプアは弓を使っているわけで……。
この状況、ヤバい?
「それはどうかな〜? まっ頑張ってねフユミヤちゃん。勝たないとアイスは食べられないよ!」
「……そうだった!」
状況に動揺している場合じゃない。
勝ってバニラアイスを食べなくては!
電気の魔力を溜めて小出しに打ったり、一気に溜めて打ったりを繰り返す。
……どっちの方が効きやすいとかはわからないな。
……でも、電気の魔力が一番効くのは今までの傾向からしてはっきりしているし、これでいいのかな?
「大厄災の獣ちゃんも麻痺してるね〜。電気の魔力、便利すぎない? 動きも止められる上に、魔力壁膜だって貫通する! おっそろし〜」
そんな感想を口に出しながらルプアは山なりに風の魔力の矢を何十本も放っている。
……そっちの方が恐ろしいような気もするけど、単純な威力としては電気の魔力のほうが上なのかな?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
たくさん攻撃しているうちに、ロトスの町の大厄災の獣より何倍も早い時間で今回の大厄災の獣を倒してしまった。
……ロトスの町では騎士団の人達が邪魔ではあったから、魔力の消費がすごかったのかな。
……邪魔といったら騎士団の人に失礼なんだろうけど。
「よし、倒したね!」
「……すごい呆気ない。なんでだろう?」
「やっぱり電気の魔力なんだよね……。魔力の真髄に辿り着いたとしても要は濃い目の魔力撃ってるだけだし」
「あれ、でも電気の魔力は光の魔力の真髄とかって……」
「光の魔力自体が四属性の魔力とは全然別の性質を持ってるっぽいんだよね〜。まあ厄災の獣特効なんだと思うんだけど……」
「厄災の獣に効くのはどうしてなんだろう?」
「さあ? 悪い物なんじゃないの? そういや魔力壁膜貫通するのは人間でも一緒かな?」
「……一緒だけど」
「……この世界の人間の始祖が厄災の獣と同じ生まれ方をした説が濃厚になってきたね」
「……そうなの?」
「文献に書かれていたわけではないんだけど、魚類も両生類も爬虫類も鳥類も猿もすっ飛ばして魔力で生まれてきたっぽいんだよね。この世界の人類。どうやって生殖方法を得たのかは知らないけど」
なんかだいぶ難しい話になってきた。
そういうことまで疑問に思うんだ……。
「過去の文献で、昔厄災の獣が魔物って呼ばれてた時代があったんだけど、その呼び名は人に当てはまるんじゃないかって議論を重ねた結果、魔物と呼ぶことを禁止するようになってねー」
「……う、うん」
「この話はフユミヤちゃんには難しいか〜? この世界の人間ってさ、自分たちのことを人間って呼ばずにヒトって呼んでるの、わかってない?」
「……ユーリちゃん以外の人達がニンゲンって呼び方をしていたことは、ないような?」
「ユーリは日本人だからね〜。それはさておいて、この世界のヒトの前で人間呼びするのはやめておいたほうがいいってこと」
「もしかすると人間という言葉を知らないから?」
「そうだね。とくに人間の間の部分でなにか言われそうかな」
「……屁理屈つけられて面倒なことになるから?」
だとしたらその人は相当面倒くさい人ではないのだろうか。
相当細かく言葉に疑問を持って生活していないとその言葉に疑問を持たないと思うけどな。
考えるだけでも面倒なのに、そんな人がいたらもっと面倒くさくなる。
できれば出会いたくないものだが……。
「まあ、そういうこと。学園に学者っぽいのいるから会わないとは思うけど。旅をしている学者もいるからね-」
「……フィールドワークってこと?」
「王都周辺だけどね〜。フセルック家周辺はこんな感じで封印されし大厄災の獣がゴロゴロいるからいないと思うよ」
「……死にに行くようなものだから?」
「そういうのもあるけど、学者がフセルック領に向かうにはフセルック家の試練を超えないといけないわけ」
「フセルック家の試練というのは一体……?」
「簡単に言うと戦って勝てってこと。まあ学者って勉強しているだけだし嘘八百並べたものを書くことがあるから信用しないほうがいいよ」
「……それは学者として致命的なのでは?」
どちらかというと記者ごっこのニートのような……。
「それはそう。まあでも貴族が多いから仕方ないんだけどね」
「……この世界の貴族って残念な人が結構多い?」
「だいぶ貴族としては慕いたくない人がほとんどだし、学園も最悪の部類に入るね」
「学園も良くないの……?」
「教えられていることに間違いが含まれている」
「えぇ……」
それは学園じゃなくてデマを仕込むための場所なのでは?
なんでこれが学園になっちゃってるんだろう?
伝統だから仕方ないみたいな理由で押し込まれちゃうのかな……?
「教科書も全然新しくならないし、そのうえバカ高いし! まあ実技系の科目は教科書がない分楽なんだけどね」
「実技系の科目ってどういうのがあったの?」
「厄災の獣との戦い方の基本だったり人との戦い方の基本だったり。厄災の獣との戦い方応用編では実際に厄災の獣が現れる場所に行って戦いに行く、なんてこともしたよね。雑魚だったけど」
「……なんか思ったより低レベルだね」
「そう! レベルが低いの! ……まあ下のレベルに合わせているんだろうけどね。まあ強制じゃなかったし科目ごとに試験を受けて飛び級みたいなこともできたから良かったんだけど……」
飛び級、できるんだ……。
でもレベルが低いということは……。
「簡単すぎる科目が多すぎて、人気のない古代文字の科目しか残らなかったんだよね。1年でほとんどの学べる科目がなくなっちゃったの」
「……それはそれで試験受けるのだるくなかったの?」
「授業を受ける方がだるいし、その時持ってる知識でどこまで行けるかなってやってたらどういうわけか消し飛んだよね。学園が用意している授業の科目が」
「古代文字の授業は受けたの?」
「それしかなかったから受けたけどさ……。先生も教え慣れてないのか最初はこの世界の50音の文字みたいなものと古代文字の1つを照らし合わせたような表と本しか渡されなくってね……」
「読めたら合格ってこと?」
「いや、今度は別の古代文字と照らし合わせた表が出てきた」
「…………この世界、文字変わり過ぎじゃない?」
「魔力インクで読めちゃうせいで文字変えても読めるのが原因でコロコロ変わるんだよね。バカ貴族が自分が考えた文字を残したがるせいで」
…………なんでそのようなことをしたんだろう?
魔力インクは書きたては読めるって話だし、文字がコロコロ変わるとなると過去の記録が読めなくなるからダメなんじゃ……。
「むかつくのは同じような物を50種類近くも出されて結局過去の記録に使われていたのは10種類もなかったの!」
「えぇ……」
「そのおかげで古代魔術について知ることはできたんだけどね……」
「…………」
それは結果的に問題ないのかな?
……でも50種類も文字があるなんて考えたくもないな……。
地球って文字がどれだけあったんだろう?
……あれ?
文字を習っただけでは読むことができないのでは?
でも50音表と照らし合わせることで読むことができるのならつまり、日本語のように読める文字が50種類近くあるということ!?
ムダでは?
「……さて、ムダ話のせいで厄災の獣が近づいてきてるから倒そっか」
「……魔力中和を忘れたから?」
「それもあるね。……そうだ! フユミヤちゃん、せっかくだから闇の魔力だけで厄災の獣を狩っていいんじゃないかな?」
「……魔石が欲しいの?」
「そう! 魔石も欲しいわけ。よろしくね〜。アイスたくさんあげるからさ」
アイスのためなら仕方ない。
首を縦に振って厄災の獣と戦うことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「チョロかった……」
「小ぶりの魔石を合体させて、デカくしてもこのサイズか」
現れた厄災の獣は魔力の攻撃一撃で倒せてしまってとても弱かった。
……そういえば、大厄災の獣の記念硬貨を手に入れてなかったような。
ロトスの町の時は飛んできたけど、今回は飛んでこなかった。
もしかするとあの記念硬貨は毎回出てくるわけではない……?
「フユミヤちゃんどしたの? なんか忘れ物?」
「大厄災の獣の記念硬貨って毎回落ちるのかなって、思ったんだけど……」
「あっ、忘れてた。毎回飛んでくるのになんでなんだろ? 大厄災の獣がいた辺りに戻ろっか」
「うん」
少し戻って大厄災の獣がいた場所に戻る。
大厄災の獣がいたと思わしき場所にはやっぱりめちゃくちゃ大きい大きな硬貨が落ちている。
もはや硬貨と言えるのかも謎なくらい大きい。
ぼんやりとそれを見ていればルプアはそれに触れた。
「……あれ? アタシ触れる? フユミヤちゃん、これ触ってみ?」
「私も触れるけど、そういえばこれって他の人には触れないんじゃなかったっけ……?」
「そうなんだけど…………、もしかしてフユミヤちゃんの魔力をアタシが持っているからってこと!?」
「……どうなんだろう? 私は特にいらないからあげたいけど……」
「アタシはこれ欲しいよ? ……うーん、1度フユミヤちゃんの魔力が抜けたらこの硬貨がフユミヤちゃんに近づいてくるか様子を見ないとだね」
「そうだね、……こうして触れるのならどうしてユーリちゃんとかは触れなかったんだろう?」
あの時渡そうとしても磁石の反発を受けているような感覚がするって言って持てなかったようだったし……、なんでかな?
「……魔力の真髄に辿り着いていないからなのか、まだ弱いのか、それとも他に条件があるかだよね。アタシがこれを持てればいいんだけど……」
「そうだ。私の記念硬貨いる? 特にいらないなら渡そうかなって……」
「本気? いいの?」
「別にいいけど……」
使い道は特になさそうだし、渡せるなら渡してもいいかなって。
持ってても邪魔だし、押し付けられるならそれでいいのかも。
ロトスの町で倒した大厄災の獣柄の記念硬貨を取り出して渡そうとする。
「…………あれ? なんで? 渡せない……?」
「うーん、もしかしてその大厄災の獣と戦っていないからダメってことかな? あの町の大厄災の獣にまともなダメージ与えられていたのはフユミヤだけだし」
「そうなるとこれって私しか持てないの?」
「うん、そうなるね」
「………………そっか」
この硬貨持っててもなにになるんだろう?
まあ、小さくすることもできるし、持っていていいか。
「……そんじゃ、今回の記念硬貨はアタシが持ってるけど持てなくなったらフユミヤちゃんがもらってね」
「…………別にいらない」
「といってもね〜、持つしかないんだよね〜。呪いのアイテムなわけだから」
「それならもっといらない……」
……封印されし大厄災の獣を倒したところで大して得することなんてないな。
それは誰も狩らないか。
……お金さえも貯まってなければだけど。
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