第52話 乱入者からの逃避行【Sideフユミヤ→アキュルロッテ】

 ◇Side【フユミヤ】


 今日は朝早くからルプアに光の魔力を分け、そのまま大厄災の獣を1体倒し、そのまますぐ近くにも封印の気配があったので2体目の大厄災狩りと洒落込んでいる。

 大厄災の獣を倒すコツを掴んでからは割と同じような方法ばかりを使って戦っている。

 ほとんど作業みたいなものだけど……。


 やり方としては、

 1、厄災の獣に軽めの電気の魔力を何発も当てて痺れさせる。

 2、痺れたらとにかく電気の魔力でタコ殴り。

 ルプアはひたすら風の魔力を魔力の矢に込めて撃っている。

 だいたいこのパターン作業に収まっていて、怪我をすることは一切なかった。


 大厄災の獣と呼ばれる呼称は一体なんなのだろうかと聞きたくなるくらい楽に倒せているけど、正攻法だともっと時間がかかるしケガをすることもあるというのがルプアの話だ。

 電気の魔力の麻痺効果が大厄災の獣との戦いを楽にさせているとは言っていた。

 電気の魔力は格別に強いというのははっきりしたが、魔力の属性によってここまで攻撃力のようなものが違うのはどうしてだろうか?


「……フユミヤちゃん、考えごとしてる時に申し訳ないんだけどさ、乱入者来ちゃった!」

「乱入者? 誰?」

「フセルック家の人間と複数人の人間!」

「大厄災の獣はどうするの? 倒す?」

「フセルックの人間も大厄災の獣を倒すことはできないから倒しちゃって! アタシは足止めしてくる!」

「……言っちゃった。いいや、倒そう」


 電気の魔力を溜めては撃つ作業を再開する。

 ルプア、なに話すんだろう?








◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ◇Side【アキュルロッテ】


 さて、フユミヤちゃんには複数人の内訳のことは話さなかったけど、どちらにしろ会うことにはなりそうだからその時にわかってもらえばいいよね。

 アタシは記念硬貨が欲しいのだ。

 それの邪魔をやつらにされては苛立って苛立ってどうにかなっちゃいそうだから、再会も兼ねて話しに行ってやろうというわけだ。

 ユーリとは普通に話したいけど、今の見た目は師匠やってた時と違うからね〜、あの子はアタシのことわかるのかな?


 駆け足でこちらに来るであろうフセルック家の連中と王弟殿下御一行様を待ち構えるとしよう。


「……貴女がセルクシア公爵令嬢ですか」

「…………見た目がだいぶ違うが、どうなっているんだ? それより、アキュルロッテ! フユミヤはどうした?」

「フユミヤちゃんなら今大厄災の獣と戦わせている途中。で? フセルック家の坊っちゃんはなにがしたいわけ?」

「貴女を捕縛し、セルクシア公爵家に送ります」

「ふーん……、そんなことできるのかな? アタシよりも魔力量ないじゃない。魔力威圧を受けてもそんなこと言えるのかなっ?」


 魔力の存在感を解放する。

 フユミヤちゃんにも届くだろうけど、あの子魔力量はあるし、前にも魔力威圧した時になんともなさそうな顔をしていたから問題はないでしょう。

 魔力威圧を受けたのにもかかわらず、立ち上がった人間がいる。

 ──ユーリだ。


「この気配! お師匠様なんですの?」

「よく覚えているわね。ユーリ、合っているわよ」

「なんでフユミーさんを連れていきますの?」

「ロトスの町にたまたま寄ったら変わった魔力の気配がしてね〜。試したいことがたくさんあったからさらっちゃったの」


 ここは嘘を言っておく。

 本当はユーリがフユミヤにあった時から彼女に渡した青いバラの髪飾りでユーリの動向はいつでも聴けるようにしていた。

 その過程でフユミヤちゃんの魔力の属性を知って手に入れたいと思ったのだ。

 今は青いバラの髪飾りに盗聴機能の効果があることはまだ知られるわけにはいかないし、ね。

 事実も混ぜたから騙されてくれるでしょう。


「そんな軽いノリでさらっていたんですの!?」

「ええ、そうよ。だって知らない魔力の属性にはどのような効果があるのか気になっちゃった以上、さらうしかないでしょう? 食べ物の話をしたら自分から着いてきてくれたわ」

「……わたくしも食べたかったですわ! ではなく、今話している場合ではないのではなくって? フユミーさん1人で大厄災の獣と戦わせるだなんてお師匠様はなんてことをさせていますの!?」

「……今のフユミヤちゃんに魔力の真髄に辿り着いていない邪魔者は不要だもの。彼女の魔力で痺れさせてしまえば後は彼女がひたすら魔力で攻撃するだけ。アタシの魔力の真髄に辿り着いた風の魔力でさえ邪魔者に等しいもの。」

「お師匠様でさえ邪魔者……? 一体どういうことですの!?」

「光の魔力が特殊すぎるの」


 本当にあの魔力に関しては謎ではある。

 古の魔法陣には使われていなかったが、厄災の獣を倒すのに特化しているような魔力なんてあっていいのだろうか?

 と嘆いてもある以上は仕方のないこと。


「光の魔力、ではロトスの聖女は光の乙女で間違いないですね……」

「光の乙女? なにそれ?」

「貴女は知らなくていいことです」

「ふーん……、フユミヤちゃんみたいに光属性の魔力を持っている女の子が過去にでも現れたってことかしら?」

「…………」


 当たりだ。

 といってもサクラと会った以上、過去に光属性を持った人間が現れたのは事実なのはわかっていたけど……。

 そういえばフセルックの家って勇者王レイヴァンと一緒に古き大厄災の獣を倒した封印の大賢者モルフィードの血筋の家だっけ。

 サクラが言っていたモルくんって封印の大賢者モルフィードってこと?

 だったら伝承みたいな形で残っているのはありえるけれど、どういう理由?


 大厄災の獣の気配が消える。

 どうやらフユミヤは無事に大厄災の獣を倒せたようだ。

 後は記念硬貨になるのを待つだけになったね。

 それは良かったけど、暇なのかこっちに近づいてくる。

 さて、フユミヤは王弟殿下御一行様を見てどういう反応をするのだろうか?


「ルプア〜、こっちは終わったよ〜。…………なにして、………………あれ? ユーリちゃんにヴィクトール様にセラ様にコルドリウスさん? どうしてここにいるの?」

「フユミーさん! 会いたかったですわ〜! わたくし達、フユミーさんを探してここまで来ましたの?」

「……私を探しに? 私達、もう別れたんじゃ……?」

「別れの言葉もなしにさらわれるのは別れたとは言いませんわ!」

「お金、渡したよね? コルドリウスさんに」

「手切れ金のつもりでしたの!?」

「まあまあ、ユーリ、フユミヤちゃんはドライなところがあるから……。じゃ、フユミヤちゃん大厄災の獣のところに戻ろっか」

「うん」

「お師匠様!? フユミーさん!? 待ってくださいまし〜!!」


 ユーリが着いてくるけど、大厄災の獣は倒されている現状もう着いてきても問題ないでしょう。

 後の5人は、アタシの魔力威圧が効いているせいで立ち上がれるにはしばらく時間がかかるはず。

 ユーリに効きにくかったのは一緒にいる時間が長かったからというのがありそうだ。

 魔力威圧、そこまで万能ではなさそうね。








◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ドギツい悪臭漂う大厄災の獣の遺体付近に戻った。

 まだ溶解していないけど、もうじき記念硬貨が手に入るでしょう。


「本当に倒してますわ……。疲れはございませんの?」

「今日2体目だし多少はあるよ」

「2体目……!? ロトスの町での大厄災の獣は戦い方が悪かったとはいえこんなにも余裕で狩れるものですの?」

「……さて、2人共。話はここまでにして魔力中和を行いましょうか」

「そうですわね。くっせぇですものね……」

「臭うものなの?」

「……その体質は一体どこから来ているのか不思議だけど、地球では嗅覚に異常は?」

「なかったよ。臭いものは臭いし、いい匂いはいい匂い。とりあえずルプア、大厄災の獣の遺体そのものは避けて魔力をかければいいんだよね?」

「それでいいよ。さっ、ユーリも始めて」

「わかりましたわ〜」


 穢れの元がわからないフユミヤちゃんは満遍まんべんなく、穢れの元がわかっているユーリは的確に魔力中和を行う。

 ……さて、フセルックの人間と王弟殿下御一行がこちらへ向かってくるけど、どうしようかな?

 まだフユミヤちゃんの闇の魔石は確保しておきたいから手元に持っていきたいけど、位置情報を知らせる貴族の印がある以上靴を履き替えさせなければ追われ続けるし、かと言って自分だけ飛んで逃げれば王弟殿下御一行様の思惑は叶ってしまう。

 アタシも魔力を消費しているからフユミヤちゃんを担いだ状態だとあまり長くは飛べない。


 ……いっか。フユミヤちゃんは連れて行こう。

 闇の魔石はあればあるほどいい。


「アキュルロッテ! フユミヤは返してもらうぞ」

「返すぅ〜? アタシ、フユミヤちゃんを奪った覚えも借りた覚えもないし、フユミヤちゃんは自分から来てくれたんだよ? ねっ、フユミヤちゃん?」

「……そう、だけど」


 フユミヤちゃんの返答がなんだか重いのは言動のおかしい王弟殿下に対してだろう。

 なんで王弟殿下がフユミヤちゃんを探しにフセルックの人間と結託してここまで来たのかアタシも知らないし、ね。


「……そうか。ならアキュルロッテ、なぜお前は4年前に姿を消し、今そのようなことをしているんだ!? お前は一体なにをしたいんだ?」

「古代魔術の実現。そのためには色々必要なわけ。フユミヤちゃんの闇の魔力とかね〜」

「古代魔術?」

「あれ、王弟殿下はご存じないんですね? レクストール先生の授業、やってましたよね? ま、学園の地下図書館の中は膨大で広大ですからね〜。知らなくて当然です。」

「……俺が読んでいたのはこの国の歴史だ」

「じゃあそれ以前には触れていないと。勿体ないですね〜。楽しい魔術や魔法陣が書かれている本があるというのに……」

「……ルプア。記念硬貨出たよ」

「おっ、本当? 今回もアタシ触れるかな〜?」


 フユミヤ差し出してきた硬貨を受け取ることができた。

 今回も、問題なし。

 これでもう30枚は手に入ったかな?

 記念硬貨もあればあるほど嬉しいから、ね。


「それじゃあ、こんな場所とはおさらばね。フユミヤちゃん! 逃げるよ!」

「エッ」


 驚いているフユミヤちゃんを急いでお姫様抱っこで抱えて自分の背中に翼を生やして飛び立つ。

 見つかった以上、こんな場所とっとと去ってしまおう。


「お師匠様! 待ってくださいまし〜!」

「え?」


 ユーリが飛行魔術を使った。

 羽はアタシと同じで白い翼だ。

 ……大量に魔力を使う魔術は8歳になるまで使うなと言ったはずなんだけどな。


「わたくし、まだお師匠様の料理が食べ足りないですわ!」

「そんな食い意地で無理なんてしなくていいから王弟殿下御一行に戻りなさいな!」

「嫌ですわ! お師匠様がフユミーさんをさらってからヴィクトール様の様子がおかしくなってますの! 暇さえあればフユミーさんがフセルック領から動いてないかなんて地図をずーっと見てますのよ!」

「やっぱり位置がわかる仕掛けが施されていたのね。……ゲッ、コルドリウスくんも来てる。速度出そっ」

「お待ちくださいまし〜!!」


 さすがのこの速度にユーリも着いてこれないでしょう。

 数分保つか怪しいくらいではあるけど……。

 魔力の気配を感じなくなったら速度は緩めよう。








◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「さて、あの2人は……、いるな。これは人里の近くに降りて宿に隠れるか?」

「……野宿はしないの?」

「もう野宿をするには遅いわけ。夜の厄災の獣を切り抜けながら宿屋に駆け込み宿泊しないとさすがのアタシでもこの魔力残量で徹夜はキツい」

「そうなんだ……」

「徹夜なんてしたら夜の厄災の獣と夜が明けるまで戦い続けないといけなくなる以上、泊まるしかないわけ。この際宿屋だったらなんでもいいから泊まるよ!」

「うん」

「……人里は、あそこか。降りるよ! 口は閉じてて!」


 高度を一気に下げて地面に落ちる直前で急ブレーキをかける。

 翼に重力の反動のようなものを感じながら翼を消して着地。

 フユミヤちゃんは目を閉じているが……、


「フユミヤちゃん? 起きてる〜?」

「起きてる」

「なら良かった。追いつかれる前に急いで人里の方へ行くよ!」

「うん……」

「どしたの? フユミヤちゃん?」

「近くに魔力の気配があるけど、争ってるような感じがして」

「別に無視してもいいと思うけど……、多対一で進行方向かもね。とりあえず進もうか」

「うん」


 フユミヤちゃんが追いつける程度の駆け足で人里の方へ向かう。



 フユミヤちゃんが感じた魔力の気配の近くまで来た。

 様子を見てみると多の方は厄災の獣だ。


「うーん、厄災の獣達に押されてる人か〜……、見捨ててもいいけど……」

「み、見捨てるの?」

「……だってこの程度に負ける程度の雑魚、助けたところでどうせ別の厄災の獣に殺されるでしょう?」

「そうかもしれないけど」


 血を見るのが苦手なのか、フユミヤちゃんは治療魔術を厄災の獣と戦っている青髪の女の子にかけてしまう。

 この世界でそんなことしたらダメだって……。

 仕方ない、フユミヤちゃん空飛んだ時みたいにを抱えて自分に身体強化かけて走ろう。


「フユミヤちゃん、急ごう」

「えっ? 私、走れるよ?」

「フユミヤちゃんは片っ端から人を助けちゃうでしょう。アタシ、面倒ごと嫌だからとっととこの場からおさらばするよ」

「……ごめんなさい」

「わかったならいいの。じゃ、速度出すから口閉じててね〜」


 フユミヤちゃんが口を閉じたのを見てから身体強化をかけて駆け出す。

 邪魔な厄災の獣は蹴り飛ばしながら、人里の方へ向かう。

 きっと、もうすぐなはず。

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