第16話 借金ドカ盛り11倍
「お、お待たせしましたぁ! まずは寝袋100個ですぅ……、圧縮カプセルに入っているのでわかりにくいですがぁ……、このカプセル1つに2つ入ってますぅ……。確認しますかぁ……?」
命綱を解き終えてしばらくした後、バタバタと足音がして店員さんが現れた。
……圧縮カプセルってまずなんだ?
「確認する。このカプセルは回せば開く形式か?」
「そ、そうですぅ……」
「なるほど、仕切りの石で分かれたカプセルに1つずつ入れられるから結果として2つ入るのか……」
圧縮カプセル、結構大きい。
男の人の片手にやっと収まるくらいの大きさの球状だ。
「このカプセル50個に寝袋が100個分入っているんだよな?」
「そうですうぅ……。数、数えますかぁ……?」
「そうだな数えておこう」
「この鞄に入れてきたのでぇ……、カウンターで数えてくださいぃ……。その間に黒髪の女の子の魔力の気配がわかるように処置、しますぅ……」
処置、かぁ……。
ちょっと、怖い言い方だ。
「そ、それではぁ、あなたはこの椅子に座ってくださいぃ……」
指示に従って座る。
「まずはぁ、出血させる場所の洗浄を行いますぅ……。変な魔力を洗い流す目的ですのでぇ……。手を出してくださいぃ……」
指示に従って手を出したら洗われた。
こ、これから注射でもされるのかな?
といってもこれから出血させるのは、指先のようだけど……。
「つ、次はこの針で、どこかの指を出血させますぅ……、ど、どの指を出血させますぅ……?」
「ど、どの指でもいいんじゃないかな?」
は、針かぁ……。
注射、結構苦手だからあまり刺されたくないんだけど……。
「じゃ、じゃあ……、この指にしますぅ……。右手は自由にしていいですよぉ……」
もう後はやられるのは決まっているので、刺される場所から顔を背け、目を
「あ、あのぅ……、どうしましたかぁ……?」
「あ、後は一思いにやっちゃってください!」
採血も注射も刺される瞬間が1番怖い。
今回は人の目もあるし、ガタガタ怖がっている場合じゃないのだ。
「じゃ、じゃあ、やっちゃいますねぇ……、チクッとしますけど我慢してくださいねぇ……。えいっ!」
「っ……!」
刺されたのは薬指だ。
い、いつ目を開ければいいんだろう。
「も、もう目を開けてもいいですよぉ……、処置は終わりました。ちょっと待つとわかるようになるはずですぅ……。傷は魔力の気配がわかるようになるまでは治療魔術で治さないでくださいねぇ……」
「わ、わかりました。……血はそのままですか?」
「じゃ、じゃあ、この布に吸わせちゃってくださいぃ……」
渡されたのは清潔そうな白い端切れだ。
それに血を含ませているうちに変な違和感がして、布から手を離す。
……なにかがいる?
きょろきょろと周りを見渡すとそのなにかが人に多いことに気づく。
これが、魔力の気配?
「も、もしかして魔力の気配、わかりましたかぁ……?」
「多分……?」
「最初はそのくらいですけどぉ……、厄災の獣とかの強さもちょっとわかったりするので今回の傷は
「わかりました」
厄災の獣の強さがわかるのはちょっとお得かも……。
この傷は自然治癒を待つことにしよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「だ、大丈夫でしたの?」
「全然大丈夫だった。出血した場所はしばらく放置すると厄災の魔物の強さもわかるみたい」
「……厄災の獣と戦って負う傷を再現したのね〜。今まで一度も傷ついていなかったから魔力の気配がわからなかったなんて考えもしなかったわ〜。フユミヤは後ろの方で戦っているからケガをする機会なんて滅多にないもの〜」
もし、剣を持って戦うみたいな状況だったらもう少し早く魔力の気配がわかっていたのかな……。
「でもそんな条件だったらテルヴィーン領に向かう旅路の途中の戦闘で大変なことになっていたのかもしれないわ〜」
「どういうこと?」
「戦闘中に初めて魔力の気配がわかるようになっていたらどれが敵で味方なのかわからなくて混乱しそうだもの」
「厄災の獣と人の区別ってできるのではないの?」
「……できないのよね。だから気配だけはわかっておいて、近づき次第厄災の獣なのかを判断して攻撃を始めるの。魔力の気配があるからって攻撃することは良くないことだわ〜」
「人を殺してしまうこともあるから?」
「そうね。そういうこともあり得る話よ。だから気をつける必要があるわ〜」
厄災の獣の魔力と人間の魔力の区別ってつかないのか。
……厄災の獣とこの世界の人間って似たような生まれ方とかしているのかな。
「近くにいる味方の魔力なら区別がつきますので、味方が厄災の獣の近くで戦っていても魔力を味方に当てないような戦い方ができますのよ。……魔力の扱い方によりけりですけども」
「…………」
魔力の気配がわかったとはいえ、魔力の扱い方が上手くなるわけではないのか……。
まだ、少しわかる程度だから仕方ないといえば仕方ないのかもしれないけど……。
帰り道で試してみようかな。
「全員来てくれー! 寝袋を分けるぞー」
数え終わったんだ。
カプセル状の入れ物の中に入っているから簡単に数えられたのかな?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ところで配分はどういたしますの? 50個のカプセルに2つ入ってますから全員に均等にカプセルを分けたとして2つ余りますわよね。余りはどういたしますの?」
「ユーリとフユミヤが1つずつ持つ、でいいんじゃないか?」
「私達はそれなりに余っているもの。2人にあげるわ〜」
「じゃあこの1つはフユミーさんに渡しますわ。私も何枚か持ってますもの。フユミーさんは0枚ですわ」
「えっ、でも……」
持っていないからといって貰うのも……。
「戦った後に疲れやすくなる人が持てばいいんじゃ……」
「そんな
「……わかったけど、お金の方はもう払ったの?」
「あぁ、払った。1億リーフな」
「い、1億!?」
「フユミヤの鞄とこの100枚の寝袋分と、圧縮カプセル分だな」
「わ、私は定価で払ってくれと言いましたけどぉ……、分けるのが面倒じゃないのでぇ……、もらっちゃいましたぁ……」
そっか……借金1億1017万リーフ、か。
今までの借金から約11倍に膨れ上がってしまった。
これ、テルヴィーン領までの旅路で稼ぎ切れるのかな……?
「1000万リーフ弱も上乗せしておりますけれど、貯金は尽きませんの……?」
「まだ余裕はあるぞ?」
「これからの旅でもきっと稼げるわ〜。そこまで心配する必要はないと思うの〜」
「え、えぇっと、皆様方はどこまで行かれるので……?」
「テルヴィーン領だ。転移陣を使わずに南下して行くつもりでいる」
「そ、それはずいぶん無謀な……、なら黒髪の女の子も魔力の気配をわかる状態になってよかったですぅ……。あの辺は人の行き来が少ないので、厄災の獣がワラワラいますよぉ……」
「ならちょうどいいな」
「い、1億リーフも稼いでいる人は言うことも違いますねぇ……、震えてきちゃいますぅ……。共食いをして強くなっている厄災の獣もきっといますから油断はせずぅ……」
「忠告に感謝する。それじゃあ俺達は各自の鞄に寝袋を入れて出発、だな」
「そうね〜」
ヴィクトールさんの言葉を皮切りに、私以外自分の鞄に寝袋の入ったカプセルを入れていく。
そんなにポンポン入れていいものなのだろうか。
「フユミヤ、どうした? 鞄に寝袋を入れないのか?」
「あぁ! ま、まだ魔力の気配がわかってから鞄に手を入れたことがありませんでしたね! 先ほど入れた布がありますから手だけ! 鞄に入れてみてくださいぃ……」
そんな情緒不安定な声色にならなくてもいいのにとは思うが、とりあえず言葉に従って右手を鞄の口に入れる。
……なんかあるな、これを引き寄せるってどうすれば?
念力みたいな力がないと厳しいような、それを魔力で再現すればいいのだろうか?
とりあえず手から魔力を出してみる。
……付いた。
これを引き寄せればいいってこと?
わからない、なにもわからないけど、とりあえず引き寄せてみる。
手のひらに布が当たる感覚がしたので掴んで鞄の口から手を引き上げる。
「と、取れた」
「う、うまく行きましたねぇ……! これなら魔力の印の付け方さえ覚えれば、鞄から物は取り出せますぅ……!」
「魔力の印の付け方、というのは……」
「か、簡単ですぅ……。魔力を出しながら物に触ればいいんですよぉ……」
そんな簡単でいいのかと思いつつ片手を白く光らせ圧縮カプセルを触って鞄の中に1つ入れる。
これで取り出せるのだろうか?
さっきの再現を試みる。
……うん、大丈夫そう。
そのまま両手を光らせて数を数えながらポイポイ鞄にカプセルを入れていく。
「…12、……あの、この2つはやっぱり私なの?」
「あぁ、そうだ。遠慮せずに受け取れ」
水の魔力を使っていた影響なのか、若干湿ったカプセルを握らされる。
「魔力の印って混ざっても大丈夫なの?」
「大丈夫ですぅ……、より目立つのでそうしたほうが良かったりしますぅ……」
「魔力の印は別に物を壊すわけではないからな。……まれに魔力の出し方を誤るやつはいるが」
「じゃあ大丈夫か」
最後の2つを鞄の中に放り込んでこれで卓上のカプセルはなくなった。
後はこの鞄を身に着ければいいんだろうけど、9000万リーフもするもの、身に着けてしまってもいいのだろうか……。
「どうした、フユミヤ? お前の鞄だぞ。身に着けないでどうする?」
「う、うん」
……大人しく9000万リーフの鞄を身に着ける。
どういうわけかわからないが、腰のベルト部分が勝手に締まった……?
ベルト穴に通さなくてもぴったりなのはいいかもしれないけれど……、引っ張れば伸びた。
着脱には問題ないけれど、……なんだろう、この奇妙な伸縮性。
これもやっぱり魔力、なんだろうな。
斜め掛けの肩紐の部分はこの伸縮性はない。
腰のベルトで勝手に固定してくれるからいいのだろうか?
「よし、身に着けたな。……ここを出るとしよう。店主、世話になったな」
「あっはいぃ……、ありがとうございましたぁ……」
用も済んだのでこの店から去ることにした私達。
帰りも暗い通路を通って、最初の店の空間に出た。
「……ふぅん、買ったのね。しかもあの子の最高傑作のやつ。お金は彼が出したのかしら」
「俺が出したが……、なにか問題があるか?」
「いいえ、他人様の事情はそれぞれだもの、口に出すわけにはいかないわ」
……やはり、高額の品を他人に買わせるのは問題だという価値観は存在している。
だからこそ厄災の獣を倒して稼いで返さないと、だよね。
「それじゃあね。ウチは道具屋じゃないから
「わかっているさ。世話になった。じゃあな」
鞄のお店から出てきた私達。
空を見上げるとやや明るい。時間で言うなら13時に近そう。
「まさかフユミヤの鞄だけではなく、寝袋もまとめて手に入ると思わなかったわ〜」
「そうだな。ちょうどいい。時計屋も探してみようか」
「と、時計はいいんじゃないかな……?」
これ以上、借金が増えるのは勘弁してほしい。
ただでさえ今1億1017万円も借金をしているのに、時計なんて買ってしまったら2、3倍はいってしまいそうだ。
「あったほうが便利だぞ? とりあえず店を探すだけ探してみないか?」
「4人でぞろぞろと歩くのもよろしくないですし、ここは二手に分かれて探しませんこと?」
「そうだな、そうするか。……ならフユミヤは俺と行こう」
「あら、ずるいわ〜。私もフユミヤと町を歩きたいわ〜」
「わたくしもフユミーさんと行きたいですわ〜」
「どうする、フユミヤ、誰と行きたい?」
「……ユーリちゃんで」
もうこれ以上借金は増やしたくない……!
ユーリちゃんなら私になにかを奢る、みたいなことはなさそうだから……。
「……ユーリ、か。……お前達、はぐれるなよ」
「腕を掴んでいればはぐれませんわ〜!」
ずいぶん強い力が左腕にかかる。
……これで町を歩くの?
「さ、行きましょう、フユミーさん、わたくし達そちらから回りますので、ヴィクトール様とセラ様はあちらを回ってくださいまし〜」
「うわわっ…、」
引きずられるようにしてヴィクトールさん達から離れる。
なにもそこまでしなくてもいいと思うんだけど……。
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