第84話 夕ごはんを食べ終えて
「まず、今後のことなんだけれど、封印されし大厄災の獣の討伐許可の申請をフセルック侯爵家に送ったわ」
「もう出したのか?」
「えぇ。早いに越したことはないでしょう? 許可が出れば封印できるヒトとその護衛がやってくるからその日に封印されし大厄災の獣の討伐を行うわ」
「そうなると最短で2日でその2人がやってくるがいいのか?」
書類を通した上で2日後に封印されし大厄災の獣と戦える許可が出るというのは純粋にすごい。
あれ、でも書類のやりとりってどうしているんだろう?
転移陣みたいなのがあるのかな?
「明日で実力をしっかり見させてもらえればいいからそれでいいの。ヴェルドリスくんも同伴させる人員を2人選定してくれるかしら? こっちはエルを連れてくるからゴルドルフくんを選んでいいわよ」
「……あいつらなら問題ないか。しかし、数週間後に結婚式を行うというのに封印されし大厄災の獣の討伐に連れて行ってもいいのか?」
「フユミヤちゃんを信じているのと、エルとゴルドルフくんなら問題なく立ち回れるとわかっているもの。だから2人揃って連れていきたいわ」
「……わかった。そうしよう。残りの1人については明日決める」
「そうね。明日の訓練でどうなるかが重要よね。今回は貴方達にも入ってもらうからだいぶ変わってくると思うわ。特にフユミヤちゃん、貴女の魔力を調べるわ」
「私、ですか」
「フユミヤちゃんの魔力は未知だもの。その魔力がどのようなものか、
「わ、わかりました……」
腑抜けている人達のやる気の出させ方についてはわからないけれど、とりあえず魔力について調べたいというのならやれることはやろう。
でも私、訓練で使うハリボテゴーレムを作ったことがない。
大丈夫なのかな?
「そして今回申請を出した封印されし大厄災の獣の討伐場所だけれど、ドルケンルルズの丘を予定しているわ。あの場所なら普通の厄災の獣は弱いから横槍を入れられても大丈夫でしょう」
「といっても封印されし大厄災の獣は得体の知れないところがある。覚悟を決めて戦うように!」
「フユミヤちゃん以外のみんなも封印されし大厄災の獣討伐の場所に行ってもらうからね」
……得体の知れないところがあると言われても私はすでに何体か倒しているけれど、それも報告書に載っているのだろうか?
いや、花粉で倒れたことを忘れてはいけない。
異常を起こすものに弱い体質もなんとかしないといけないけれど、どうしたらいいんだろう?
今のところ、いろいろな体質に対する有効策はほとんどない。
夜がわかりにくい体質については人と共に動くことでなんとかできるけど、近いうちに時計を買えば問題ないし。
それ以外の穢れの臭いがわからない体質や異常を起こすものに弱い体質はどうにもなっていない。
穢れの臭いは魔力中和とにかく魔力中和をしていればなんとかなるけど、そのせいでその後に湧いてくる厄災の獣が弱いというのは少し問題だ。
魔石を求めて厄災の獣を狩りたい時とかピンポイントでその問題を起こしてしまったし。
「ということで話は以上よ。後はごはんを食べてよく寝なさい! 以上!」
話が終わったので食事を食べるペースを早くする。
このすき焼き風パスタもどき、卵があればもっとおいしくなりそうだけど高望みだよね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
パスタもどきを食べ終えてしまった。
ユーリちゃん以外のみんなは食事を進めている。
…………暇になってしまった。
大人しく待っていよう。
「フユミヤは食べ終わったのか。待ってくれ、俺もすぐ食べ終わる」
とのことなのでヴィクトールを待つ。
そこまで急がなくてもいいと思うけどな。
「……食べ終わったぞ。父上が食べ終わるまでに時間がかかるから明日のごはんの予定でも見に行かないか?」
「そういうの、あるんだ。行こうかな」
「父上、俺達は明日の献立を見てきます」
「ああ、構わないぞ」
「待ってくださいまし! わたくしも確認したいですわ!」
ユーリちゃんが立ち上がった。
食べ終わって暇そうにしていたし、ユーリちゃんそういうの気にしそうだから納得だ。
「ヴィクトール、食べ終わった食器は片付けなくていいの?」
「食堂のメイドが巡回して回収するさ。それじゃあ行くか」
そこはレストランみたいな形式なんだ……。
ヴィクトールに促されて私とユーリちゃんは献立が載っている場所に向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……石板だ。
石板に5日区切りのカレンダーのような物が描かれており、文字のような物が記されているけれど、読めない。
絵もないからなにがなんだかよくわからない。
「デカ盛り、デカ盛りは……」
「ユーリちゃん、文字が読めるの?」
「アキュルロッテに一通り叩き込まれましたわ。フユミーさんは文字、読めませんの?」
「魔力インクで書かれていないと読めないみたい」
「なら、俺が読むぞ。ユーリは大盛りごはんを見ていてくれ」
「えぇ、そのつもりですもの」
「というわけで俺が読むが、明日の献立から読んだ方が良さそうか?」
「うん、お願い」
「まずは明日の青い提供場所で出されるものは……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ヴィクトールの読み上げからある程度の法則は掴めた。
青が肉と麺のメニュー、緑が肉とガチャ芋を使ったメニュー、今回読み上げていない赤のメニューがデカ盛りごはんだろう。
バリエーションが少ないのは仕方ないけれど、今後食堂にはお世話になるだろうからしっかり覚えておこう。
「といった感じだが、フユミヤは想像ついたか?」
「実際に見た目を見せてもらわないと厳しいかな……」
「だな。ユーリはもう良さそうか?」
「わたくしも構いませんわ! ところでフユミーさんが食べた麺、どうでしたの?」
「結構脆かったよ。パスタのように見えるけど、パスタではないかな」
「……あのラーメン屋の麺に歯ごたえはありましたけれど、まだ改善の余地がありますわね。こうなったら毎日全食食べてみたいところですが貯蓄がまずいですわ」
「1食1万リーフだからね。大厄災の獣を狩るついでに普通の厄災の獣も狩った方が良さそう」
「早く自由に動きたいですわ……」
なら、ユーリちゃんにお金を渡したほうが良いのかな?
提案するだけしてみよう。
「お金、渡そうか? 100万リーフくらいなら軽く出せるけど」
「あの借金抱えて頭も抱えてたフユミーさんがお金を渡せるようになるとは……、今は遠慮しますわ。お金を稼ぐ隙がなかったらその時はお願いしますわね」
「わかった」
「……俺はフユミヤに借金を抱えさせたつもりはないからな」
「でも負担させたのは事実だし……、もうお金に関しては自分で時計を買えそうなくらいにはなったから心配しなくていいからね」
「そんなに増えたのか?」
「大厄災の獣でだいぶ稼げたの。もうお金で困ることは奪われることしかないくらい」
「俺にできることはもうないのか? 困りごととかはあるだろう?」
「今のところは石板の文字を誰かに読んでもらわないと読めないけれど、ユーリちゃんにも頼めることがわかったから」
「俺を、頼ってくれ。婚約者だろ?」
「……うん」
そうではあるけれど、無理してヴィクトールに頼る必要性もないような気もする。
読めない文字があったら近くの人に頼ろう。
後は誰かに習うのもありなのかもしれない。
部屋に戻ったら聞いてみようかな?
「さて、用は済んだし席に戻ろう。ユーリ、いいな?」
「えぇ、問題ございませんわ。行きましょう」
私達は食事をした席に戻って行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
食事の席に戻ったら全員食事を食べ終わっていたし、私とヴィクトールとユーリちゃんが食べていた場所は片付けられている。
更には5人とも席から立っている。
待たせちゃったのかな……。
「おっ、3人共帰ってきたな! それじゃあ後は解散だな!ヴィクトールとセラは部屋の場所、覚えているとして4人は部屋の場所をまだ覚えていないだろう。出口に執事とメイドが控えているから案内に従ってくれ」
「わかりました。ありがとうございます」
賑やかになってきた食堂の出口には確かに執事の人とメイドさんがいる。
そこに向かえば良さそうだ。
「それじゃあゆっくり休んでね。明日は貴方達の実力、確かめさせてもらうから」
軽く手を振るミルリーナ様に同じように返し、私は食堂の出口に向かおうとした。
「フユミヤ、また明日な」
「うん、また明日」
ヴィクトールが挨拶をしてきたのでとりあえずそれを返して出口に向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
出口にいたのはあの青い花飾りを身に着けたオリーブグリーンの髪のメイドさん、レイニーアさんだった。
私とユーリちゃんとクラリスさんは彼女の案内に従えばいいのかな?
「お待ちしておりました。それではお部屋にご案内させていただきます」
レイニーアさん、無表情で話しかけられるような隙があまりなさそうだ。
ルプアの、アキュルロッテのことを聞いてもレイニーアさんが今どこまでアキュルロッテとの繋がりがあるのかがわからない以上、不用意に聞くべきではないのかもしれない。
ミルリーナ様からなにか聞けないかな?
でも、ミルリーナ様は本来はとても忙しい立場の人だし、迷惑をかけるのは良くないのかもしれない。
ここは我慢しよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私達はなにを話すわけでもなく客室に戻った。
「食堂、思ったよりは食事の種類、ありましたわね!」
「そうですね! ですが学園の食堂と比べるとだいぶ高いです……。わたくし、王城にあのような食堂があるだなんて知りませんでした。騎士団や魔術士団専用の食堂があるとは聞いていましたが……」
「他の食堂に寄ってみれば違いがわかるのかもしれませんわね! もしかすると今回の食堂は貴族の方用の食堂、ということもありえますわね」
「……だからあの値段、なんですかね?」
「単なる推測ですけれど……」
「戦わない貴族は一体どこからお金を確保しているんだろう?」
「税金から、ですね」
「…………そうなんだ」
貴族がしっかりしていればいいけれど、指定ない場所もあるとは聞いてはいるからな……。
ならず者の楽園で領主一族が殺し合っているモルコズム領の人達ってどうしているんだろう?
気になるけど今気にすることではないか。
「さて、洗浄魔術をかけてもう就寝の準備をしてしまいましょうか」
「そうですわね」
「主様、洗浄魔術は少しお待ち下さいね。先にわたくしの分を済ませます」
「わかった」
洗浄魔術をかけている最中の人を見ているのも良くないので部屋の適当な場所を見る。
絵とか、ないな。
こういう場所、絵が飾られていてもおかしくないけど……。
「さあ、主様の番です。準備はよろしいでしょうか?」
「うん」
「わたくしは先程のベッドを洗浄してきますわね!」
「ありがとうございます! では、主様、行きますよ! それ!」
洗浄魔術の水の中に浸される。
そのまま数分待てば完了するだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
洗浄魔術の施術が終わった。
今度は先程とは違う花のような香りがする。
なんだか安らぎを得られそうな匂いだ。
ラベンダーに似ている。
「さあ、洗浄魔術も終わりましたし、就寝ですわ!」
「部屋の明かり、点いているけど大丈夫なの?」
「こういう場所は点いている時間と消えている時間が決まっているんです」
「自動、ですの?」
「いえ、人の手で管理されていますよ。なのでそのうち消えます。メイドか執事が当番制で遠くから魔力の操作を行いますので」
「管理されていますのね〜。では消えるのを待つには話しながら時間を潰していれば良さそうですわね」
「えぇ、そうです。先程のようにしましょうか。今度はそのまま寝れるように靴は脱ぎましょう!」
「そうですわね!」
同じベッドで寝るのはどうやら確定のようだ。
また私はユーリちゃんに抱き枕にされるのかな?
私はその気になれば闇の魔力を使って無理やり眠ることができるからいいけど、ユーリちゃんは抱き枕を買わせた方が良いのかもしれない。
でもあの抱きしめ方だと抱き枕がすぐにぺちゃんこになってしまいそうだから、潰れにくい人間を抱き枕にした方がいいのかな?
どうなんだろう?
靴を脱いでベッドに上がる。
体の沈み込みがちょうどいい。
相当高度な技術がマットレスに使われていることがわかる。
「さてとフユミーさん、またわたくしの抱き枕になってくださいますわよね?」
「いいけど……」
「ふっふっふっ……、この部屋に滞在している間はヴィクトール様とフユミーさんは一緒に眠れませんのでわたくしがフユミーさんを抱き枕にできますわ。王城に感謝、ですわね」
「ではわたくしは主様とユーリちゃんをまとめて抱きしめて眠ります。構いませんよね?」
「……別に、いいけど」
……もう諦めるしかない。
今の季節が夏みたいにとても暑かったら絶対断っていたけど、ちょうどいい気温だし、許そう。
「それでは明かりが消えるまでお話しますわよ!」
普通に寝ればいいのでは……?
冷たいことを言うのは良くないし、ここは乗れるだけ乗っておこう。
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