第26話 到着、ランデヴェルグの町
「んっ…………?」
なにかがおかしいと感じながら目が覚める。
私、昨日どうやって寝たんだっけ?
温かいものに包まれているような感覚もするし、なにかがおかしい……?
…………セラ様がどうしてこんな至近距離で寝てるの?
その前にここ、だいぶ狭いような……!
「……フユミヤ? 起きたの〜? まだ夜よ、寝ましょう?」
「いや朝だが? 寝ぼけるなセラ。そしてフユミヤを離すんだ。まだ寝ているのはお前たちだけだぞ」
「え〜、もう少しいいじゃない。久々によく眠れたのに、離れ離れにならないといけないなんて〜、酷いと思わない? フユミヤ?」
「……全員が起きているなら起きたほうがいいと思います」
「
「さ、催眠!?」
なんてものを私は受けていたんだ?
もしかしてセラ様との距離がこんなに近いのもそのせいで?
「……催眠香が効いている間のことは忘れてしまっているようだな」
「わ、私はなにをしてしまったんだろう……」
「知能が退行してとにかくセラ様の言う事を全部肯定していましたわ。その後はセラ様が1つの寝袋で無理矢理
「1つの寝袋で一緒に寝た……?」
やけに狭いと思ったらそういうこと……。
じゃあ出ないとだ。
寝袋の外に出ようとしてグッと力で押さえつけられる。
「ダメよ〜、せめて私と一緒に出ましょう?」
「な、なんでですか……?」
「楽しいからに決まっているじゃない!」
「そんなぁ……」
理由が理解できないままままセラ様に抱きしめられながら寝袋を抜け出す。
ずるずるべったりしながら抜け出すことのなにが楽しいんだろう?
「これで終わってしまったのね〜……、私とフユミヤの共寝……」
「いかがわしいですわよ。出たからには寝袋を片付けてから臨時拠点を抜け出す準備をしてくださいまし!」
「はぁ〜い、もう、せっかちねぇ……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
靴を履いて寝袋を処分してセラ様と私も準備完了となった。
臨時拠点の中には私達以外なにもなくてすっきりとしている。
「さて、臨時拠点を解体するぞ。壁の一部を壊すからそこから出てくれ」
ヴィクトール様に言われるがまま全員外に出る。
……随分雑な造形だ。
直方体かと思ったら全然形が整っていなくてところどころに歪みが見える。
こんなところで私達は一泊したのか……。
「あとはこれの強度を下げて……、フユミヤ! デンキの魔力を当ててくれるか?」
「……わかりました?」
どういうわけか呼ばれたのでとりあえず自分の杖を大きくして電気の魔力を溜める。
「全体にかけられるか?」
「……えい」
やれるかどうかわからないけど、とりあえずやってみる。
わー、大きめの建造物が粉々になっちゃった……。
電気の魔力、やっぱり謎だな。
「よし、これでいいな。ユーリ、地図を広げてくれないか?」
「方角ですわね。ここでヌンエントプス森林まで戻ったら笑い者ですわ〜。……これですわね」
「…………地図が示している方向とは逆を行きたいからこっちか。助かった」
「全然構いませんわ。……ところでなぜあんなデカい地図にしましたの?」
「後でじっくり見返したほうが楽しいと思ったから、だな。今考えるともう少し小型の物を作らせたほうが良かったとは思っているが……」
「わたくしの地図、複製します?」
「そこまではいい。複製には時間がかかるからな。悪徳業者だったら無くされるぞ」
「それは嫌ですわね……」
悪徳業者、この世界にもいるんだ。
見分け方とかあるのかな……?
ユーリちゃんが地図をしまった。
そろそろ出発だろうか。
「俺達はこのままフォルトゥリア山道を通って、フォールデニス領に向かうぞ。全員準備は済んだか?」
臨時拠点を壊すのに杖を大きくしていた私以外も準備はできているようだ。
「問題ないな。それじゃあ行くぞ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
隊列は前からヴィクトール様、私、セラ様、ユーリちゃん、コルドリウスさんと昨日とほぼ一緒だ。
それにしても魔力の気配が私達の気配以外感じないのはなんでだろう?
ところどころ魔力中和が必要な場所があったから魔力中和はしたけど、……あの厄災の獣がすべて取り込んでしまった、とか?
だとしたらあの厄災の獣、相当強いはずなんじゃ?
「どうしたんだフユミヤ? 悩み事でもあるのか?」
「……私達以外の魔力の気配を感じないのはどうしてかと思いまして」
「そうなっているのはまず、昨日の妙な厄災の獣が他の魔力の気配を取り込んでいたからだと思われるな。普通の厄災の獣は他の厄災の獣の魔力を取り込まないが、特殊な例だと考えられる。」
「特殊な例ならどうして動きが鈍くなって、反撃もなく攻撃をただひたすら受けていたんだろう?」
「デンキの魔力じゃないか?」
「……もしかして麻痺効果があるんですか?」
「マヒというのがなにかはわからないが、反撃をしようとしても動きが鈍くて反撃される前に攻撃することもできたな」
……電気の魔力、当てた相手を痺れさせて思うように動かせなくする効果がありそうだ。
まだこの1例しかないけど、何度も試したら確実に痺れさせるコツとか掴めるのかもしれない。
でも電気の魔力、魔力シールドとも言える魔力壁膜を貫通する効果もあるというし、だいぶ強くないか……?
この魔力属性、この世界に存在していていいの?
バランスのようなものが壊れない?
「それがなければ昨日は結構傷を負っていたはずだぞ。あの厄災の獣自体の魔力の気配も強かったし、耐久性も中々だったしな。だからこそとっとと臨時拠点を作ったんだが……」
「催眠香……」
「アレは自分に振りかけて、厄災の獣に攻撃をしている際に嗅がせて動きを鈍らせるのが本来の使用用途だからな? ヒトに向けて使うような物ではないんだぞ」
「対策とかはないんですか……?」
「魔力壁膜が使える程度に魔力が扱えていれば多少匂いを嗅いでも問題ないんだがな……」
「……今の私では対策法はなさそうですね」
「まあ、その、頑張って魔力の扱い方を覚えるんだ」
……変に
とは言っても魔力の扱い方ってどうやって覚えるんだろう?
本でもあれば、と一瞬思ったけどこの世界に存在する文字が日本語の漢字・ひらがな・カタカナなわけがないので結果として読めないので詰み。
……魔力の扱い方を覚えるにはどうしたらいいの?
ただ厄災の獣と戦うだけでは得られないから戦わない日にいろいろ試してみるしかないのかな……?
「…………」
「焦るなよ。焦ったところで大したものは得られないからな」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後も魔力の気配を探りつつ、厄災の獣の気配がないことをいいことにひたすら関係のないことを考えながら歩いてしばらく経ったところでヴィクトール様が立ち止まる。
……分岐路?
「ユーリ、地図を見せてくれ。今俺達がどっち寄りに歩いているかによってどちらに進むかを決めたい」
「結構な分岐路を迷わず進んできたと言いますのにここで迷いますのね。……地図ですわ」
「助かる。……今俺たちが歩いているのは南西寄りだから、そろそろ南東寄りに切り替えないとな。フォールデニス領はテルヴィーン領と隣接しているがだいぶ南東側にある場所だ。南西に寄り過ぎると……」
「治安の良くないことで有名なモルコズム領に出てしまうのよね〜。ならず者の楽園とも呼ばれているから絶対に行きたくないわ〜」
「と言うわけで俺達が選ぶべき道はこっちだな」
ヴィクトール様が指し示した道は結構狭い。
結構直線というほど先が見える道ではなく、下り坂だったり上り坂だったりが
3時間くらいは歩いたけどさらに過酷な道を歩くのか……。
人生でこんなに道を歩かされたこと、あったっけ?
体は疲れてないけど、心がなんとなく疲れた。
でも今日も野宿になるよりかはいいのかな……?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
下り上りを繰り返したところで1つ、弱めの魔力の気配を感じた。
……厄災の獣にしては接近速度が人間と同じくらいあるような?
「弱いが奇妙な魔力の気配だな……。近づいて確認してみるか」
異論は特にないので、その魔力の気配を追うことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
奇妙な魔力の気配の動きも奇妙で、こちらが近づけば近づくほど、逃げようとしているような、そんな動きをしている。
厄災の獣だったらまっすぐこっちに来ると思うんだけどな……?
「この気配、ヒトだと思うがどうする?」
「そうね〜、フォールデニス領までの道を聞けるのではないかしら、なるべく話を聞きたいわ〜」
「近づくべきだとわたくしは思いますね」
「どちらにせよ、前に進まねばフォールデニス領には行けないのでしょう? 厄災の獣ならとっとと潰してしまいますわよ!」
「引き下がるほどではないと思います」
私だけが黙っていても良くないので適当に意見を言った。
全員前進なのは一致している。
後は奇妙な魔力の気配が人であればいいけれど。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
止まった足が再度動き出し、奇妙な魔力の気配に近づいていく。
隠れていなければそろそろ見えてもいい頃合いだけど……。
気配の大元の姿が見えない。
「……おかしいな。そろそろ見えてもいい頃合いだが。フユミヤ、戦闘準備を」
「わかりました」
「わーっ、待て待て! オレはヒトだ! 殺さないでくれーっ!!」
「……人でしたね」
物陰から現れたのは深緑色が基調の軽装をした薄い緑色の短い髪をした男の人だった。
「フォールデニス領のヒトか? どうして1人でフォルトゥリア山道にいる?」
「オレはすぐそこのランデヴェルグの町にいる厄災狩りのロキサイドだ。フォールデニス領の住人じゃないからな!」
「それで、その厄災狩りがどうして1人でここにいるんだ?」
「五つ首の厄災の獣を探しに行けって言われてだな……」
「それなら倒したぞ」
「なっ、それは本当か!? その厄災の獣はなにか落とさなかったか? 魔石でもいい、なにか……」
肩でも掴みかかる勢いでロキサイドさんはヴィクトール様に迫る。
……でもあの
「なにも落とさなかったぞ」
「……そうか」
「なにかあったのか?」
「いや、結構な厄災狩りがそれに殺されたんだ。遺品の1つ2つ拾えやしないかと思っていたが……」
「……遺品のような物も当たりになかったな。結構広い範囲で魔力中和も済ませたが、そのような物はなかったぞ」
「いや、まだあんたたちが見ていない場所にあるかもしれない。あの厄災の獣を倒したとなれば、捜索隊を出したい。ランデヴェルグの町にある宿を紹介するから、その捜索隊にあんた達も参加してくれないか?」
「わかった。参加する」
「……あの、テルヴィーン領に向かうという話は」
そもそも私達ってテルヴィーン領に向かうために旅をしているのでは?
道草食べてていいのかな?
「そこまで急ぎじゃないからな。焦らなくてもテルヴィーン領は逃げないぞ」
「あんた達ほど強い厄災狩りがいればオレ達も安心できる。旅の途中で寄り道させて申し訳ないが、礼はできる範囲でするからな!」
「礼はいい。……仲間を亡くしたやつだっているんだろう? 特に困っていることはないが、ランデヴェルグの町に連れて行ってくれないか」
「わかった。ランデヴェルグの町はこの先だ。……ただ、道の途中で厄災の獣から逃げてきたからその対処は申し訳ないが頼めるか?」
「別に構わない。……今の話は聞いたか? 全員戦闘準備はしておけ! とっとと倒してランデヴェルグの町へ行くぞ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……厄災の獣は案外弱かった。
適当に杖に込めた魔力を当てるだけで倒れるくらいで拍子抜けだ。
なんでロキサイドさんは1人でフォルトゥリア山道にいたんだろう?
「あの青い色が特徴的な外壁があるのがランデヴェルグの町の入り口だ。結構目立つが、外壁だけがその色だからな」
「魔力の気配が結構するな。住民も結構いそうだな」
「そりゃあ町だからな。ヒトだってだいぶいるさ」
ヌンド村の拠点の海色の青とは違ってランデヴェルグの町の外壁の青はラピスラズリのように真っ青だ。
外壁に歪みもなくしっかりとして頼もしい印象を受ける。
土の魔力の扱いも極めればこのくらいしっかりした建築物を作ることができるのだろうか?
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