第70話 解かれてはならない封印を追って【Side???】
◇Side【???】
僕はフセルック侯爵家の屋敷のややこしい通路を駆けながら現当主がいるであろう執務室を目指す。
道中メイドに白い目で見られたが、そんなものは関係ない。
アレの封印が解けてしまったのだ。
──レイヴァンでさえおかしくしたあの厄介な大樹の。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「当主、いるか!?」
当主の執務室の扉を無理やり開ける。
執務室にいる当主は記憶にあるものと大して変わっていない。
最後に眠ってからそんなに時間が経っていないだと……?
「大賢者様? どうしたのです?」
「どうしたもこうしたもない。解かれてはならない封印が解かれた! すぐに向かう!」
「なんと……! それではすぐに向かってください!」
「ああ、そうする」
当主に報告をしたのはこの異常事態を伝えるためだ。
この屋敷から僕がいなくなれば当然混乱するし、そういう事態が起こったら今のように報告をするということは伝わるようにしてある。
当主にも報告したことだし、早速あの封印の場所へ向かわなければ。
「当主、窓を借りるぞ」
「はっ、ご無事を祈っております」
窓から屋敷の屋根の上に登る。
封印の方向は……、あっちだ。
飛行魔術を使って目指そう。
翅を広げて屋敷から飛び立つ。
……なんてものに手を出してくれたんだ、厄災狩り!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「は? 消えた? あの大樹を倒したというのか?」
そんなことができるとしたら光の魔力を持ったヒトぐらいだろう。
……サクラはあの状態である以上、まさか、
「光の乙女が現れた……?」
今度こそ失うわけにはいかない。
なんとしてでも光の乙女を確保しなければ……!
「……大賢者様?」
「……僕を知っているということはフセルック家の人間だな?」
「お久しぶりです。お急ぎのようですが、なにかあったのですか?」
「解かれてはいけない封印が解かれたんだ。その場所に向かおうとしたらちょうどその大厄災の獣が倒された。……ところで、キミはそんなにヒトを連れて一体どこへ向かおうとしているんだ?」
フセルック家の血筋の子の1人はレイヴァンの血を引いていそうなやつら2人と騎士らしき女性を連れていた。
……なにをしようとしているんだ?
「僕達は光の乙女を追っています」
「……光の乙女、やはり現れていたか。場所に心当たりは?」
「ヴィクトール王弟殿下、地図を広げられますか?」
「……ああ、広げられるが、その、大賢者っていうのはモルフィードの呼び名で合っているのか? なんでその大賢者が今も生きているんだ?」
「ちょっとした秘術でね。で、その地図とやらは……、ほぼ白紙じゃないか! ……? この薄い赤の印と濃い赤の印は?」
「薄い赤がフユミヤ、光の乙女の場所で濃い赤の印は俺達の場所だ」
「……追跡魔術を地図に適用しているのか。なぜそんなことをしているかはわからないが、行こう。全員飛行魔術を使えるようにすればすぐだろう。ヴィクトール、地図を貸してくれるかい?」
「……後で返してくれるよな?」
「返す。これがないと僕が先導できないだろう?」
「わかってはいるが……」
「……あの〜、私達、飛行魔術が使えないのだけれど、どうやって飛ぶのかしら〜?」
「僕が全員に飛行魔術をかければすぐだろう?」
……もしかして、この魔力の気配の弱さといい、今の魔術って弱くなっているのか?
僕達の時よりもだいぶ魔力の質が悪くなっていっているような……。
「……他人に付与魔術をかけるのは危険なのではないか?」
「危険ではあるけど、今は緊急事態だろう? 王族とフセルック家ごなぜまた手を組んでいるかは知らないけど、のんきに歩いている場合ではないんじゃないかい?」
「それは、そうだが……」
「今はどうかは知らないけど、この様子だと昔の魔術士の方が質が良さそうだね。さっさと飛ぼう。光の乙女は確保しないといけないからね」
「……わかった。全員飛ぶ準備はいいかい?」
この4人のヒトを取りまとめているのはヴィクトールか。
魔力の気配や目付きこそ違うが、どことなく雰囲気がレイヴァンと似ている。
……それにしてもなぜ光の乙女に追跡魔術など付けているのだろうか?
全員が頷いたのを見て飛行魔術を僕を含めた全員に適用する。
「う、動かせませんけど、どうなっているんです〜!?」
「この翅の動きは全て僕の翅の動きと合うようになっている。よって君達はその翅を動かす必要はない。精々口は閉じてくれ。噛んだら痛いからね」
「…………」
「それじゃあ向かおうか! 光の乙女の居所へ!」
猛スピードだとさすがの僕でも魔力が尽きるため、少し遅めのスピードで空を飛ぶ。
飛行魔術はいい。
なににも邪魔されずにまっすぐ進めば目的地にたどり着けるのだから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
光の乙女は人里にいるらしい。
……さすがに人里で飛行魔術の解除はマズいか。
「あの森で一旦降りて町へ行こう。あの町に光の乙女はいる!」
「あの町に本当にいるんだな!」
「降りた時に地図を見せるから確認してくれ! 降りるよ!」
急降下しながらちょうどいいところで速度を緩め、そのまま地面に降り立つ。
そしてヴィクトールに地図を見せつける。
「今僕たちがいるのはここ! 光の乙女がいるのはここ! あの町で魔力の気配で探ればすぐに見つかるんじゃないか?」
「……そうか。モルフィード、地図は返してもらえるか?」
「構わない。……それじゃあ行こう!」
ヴィクトールに地図を返し、僕達は町へ駆け出した。
人混みを避けながら魔力の気配を探る。
知らない魔力の気配が多いのは仕方ないが、光の魔力の違いくらいはわかるだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……これ、か?
確証を得られないが、光の魔力の気配らしい物を感じ取ることができた。
「……あの宿か!」
「……ヴィクトールはわかったのかい?」
「あの宿に違いない! フユミヤはあの場所に泊まっている!」
「無理やり入るわけにもいかないわ〜。ここはこの宿に泊まって夕食時に降りてくるのを待った方が良いのではないかしら?」
「……テルヴィーン領の時のようにはできませんからね。大賢者様、ヴィクトール様、ここは泊まりましょう」
「……僕はお金、持ってないけど?」
「そのくらい俺が出す。ここは泊まろう」
「さすがにこの状態で宿屋に入らないでくださいよ〜。今の私達、強盗みたいです」
「……強盗」
そんなに雰囲気が物騒なものになっていたのだろうか?
……いや、主にヴィクトールのせいだ。
僕は決してそんな雰囲気は出していない。
「……入るか、この宿に」
僕達は宿に足を踏み入れた。
……この宿、花の匂いがするな。
なんの花だ?
……それはいいとして、宿を取り仕切っているのはあの女か。
僕が話しかけるよりも先にヴィクトールが前に出た。
こいつの髪がモサモサしているのはシルフェリア譲りだろうか。
やけにモサモサしているのと背がバカ高いせいで前がよく見えないのがムカつく。
王家の人間の身長、少しは僕に寄越してくれてもいいんじゃないか?
「あら? お客さんかしら?」
「そうだ。1泊、5人で」
「ヴィクトールで、……様にセラ様ではないですか! こちらに来られたんですね」
「……コルドリウスか。フユミヤはどうしている?」
「それは……、その、亭主、わたくし達が宿泊している部屋にこの方達を入れてもよろしいでしょうか? 込み入った話なのですが……」
「……そうね。あの部屋は10人までなら泊まれるから構わないわ」
「では、ヴィクトール様方、ご案内いたします」
突然現れたコルドリウスと言うやつに案内される。
……光の乙女は一体どうなっているんだ?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
宿の中で1番豪華であろう部屋に案内される。
よくそんな資金あるな……。
部屋の中には黄巻き髪のチビとコルドリウスと呼ばれたやつの妹らしき女がいた。
黄巻き髪のチビとヴィクトールが知り合いなのかチビがヴィクトールの方に近づいてきた。
「……ヴィクトール様にセラ様、来られましたのね」
「ユーリ、フユミヤはどうした? 寝ているのか?」
「大厄災の獣の粉を吸ってから昏睡状態ですわ。……こんな状態になっていますの」
「……光りながら眠っているだと? これは一体どういうことだ?」
「魔力を放出しながら眠っていますの。外側から声をかけても起きませんので内側から起こしてみようとフユミーさんの夢の中へ行きましたが、魔力が使えない状態でしたわ。このままだと、フユミーさんは死にますわ」
は?
光の乙女が死ぬ?
あの大厄災の獣の粉の効果はそんなものだったか?
「……アキュルロッテはどうした? アキュルロッテならなんとかできるんじゃないのか?」
「アキュルロッテは治療の専門家ではないのですぐに
「……そうか。アキュルロッテでもダメか。……1度フユミヤの夢の中とやらに行けないのか?」
「…………男女が同じベッドに寝るのは良くないと思いますけれど」
「今は緊急事態だろう?」
「……まあ、1度は魔力が使えない環境というものを味わってくださいまし。魔力が使うことができないとこうも無力になってしまうということが思い知らされますから」
「……あの大厄災の獣の粉は人を凶暴化させるものではないのか?」
「ヴィクトール様、そちらの方は? フセルック侯爵家の方のように見えますが……」
「こいつは大賢者モルフィードだ。どういう理由かわからないがフユミヤを探している」
「大賢者モルフィードですの? 確か100年前の……、本物ですの?」
「本物だ。と言っても僕の力は封印が本質だからその証明はすぐにはできないけどね。秘術で命を延ばしているから生きているってこと。理解できるかい?」
……あの黄巻き髪のチビ、僕と同じように魔力過多で極端に成長しているけど、魔力の土台が成っていないことから実年齢は相当低いだろう。
なんでこんなチビがここにいるのかは知らないが、一応挑発はしておこう。
「そんなことはいいですわ! 今はそれよりフユミーさんですわ! 大賢者というくらいでしたらなにかこの状態のフユミーさんを治せませんの!?」
「…………僕は治療魔術の類は得意ではないが、例の大厄災の獣の粉を受けたとなると、記憶の封印をすればなんとかなるのかもしれないけれど昏睡しているとなると、厳しいかもね」
「ダメではありませんか! ならフユミーさんの夢の中で魔力を使える状態になることが現実的ですわ!」
「……と言ってもどうするつもりなんだい? 魔力が使えないのだろう?」
「色々試せばいいですわ! まだなにも思い浮かんでいませんけど!」
……この考えなし。
まあとりあえず色々試せばいいというのはわかる。
問題はなにを試すのかだが……。
「……フユミヤの体を俺の魔力で満たした上で夢の中に入るというのはどうなんだ?」
……それは光の乙女が哀れではないのだろうか。
自分の体を勝手に他人の魔力で満たされることは不快なもののはず、よりにもよって異性となると……。
「お、お兄様!?」
「ヴィクトール王弟殿下、わたくしの主様にそのようなことは……」
「そうか、フユミヤは騎士を得たのか。……魔力を満たすと言ってもお前達が考えているようなものではない。フユミヤを寝かせる入れ物を用意してその中に俺の水の魔力を入れていく遠回りな方法だ。」
「そんなことをしてもわたくしの主様が穢されることに変わりはないのではありませんか!」
「フユミヤが生きること、なにもせずに死なせること、近衛騎士としてどちらが重要だと考える?」
「……それは主様が生きることですよ! だったらわたくしの魔力でやらせてください! わたくしも水の魔力の扱いが得意です!」
「……クラリス、やめるんだ。ヴィクトール王弟殿下はフユミヤと生涯を共にするつもりがある。未熟なお前よりもヴィクトール王弟殿下がやるべきことだ」
「は? そんな関係だったのか?」
よりにもよってレイヴァンの血を引くやつが光の乙女と結ばれようなんて皮肉なものだ。
……まさかレイヴァンの封印した記憶でも残っているのか?
「お兄様が勝手にそう思っているだけだわ。フユミヤにこれっぽっちも言っていないし、フユミヤ側からはなんの想いもないわ」
「……事実を述べるのはやめてもらおうか」
……レイヴァンの記憶を封印すべきではなかったのか?
だが、あの時はそうするしかなかった。
サクラも失ってレイヴァンもこの国から失うことなどあってはならないから僕はレイヴァンの記憶を封印したというのに、こうも子孫が光の乙女に執着するとは……。
「……今はフユミーさんが助かる道を探しませんこと? 魔力を満たすということがどういけないのかわかりませんが、とりあえずやるだけやってみませんこと? ……後」
「後?」
「フユミーさんの夢の世界には沢山の茶色い目をしたフユミーさんがいますが、黄色い目と、紫色の目をしたフユミーさん以外には話が通じないと思ってくださいまし。茶色い目をしたフユミーさんは異世界の言語で話していますわ」
「……異世界の言語、だと?」
「普段、わたくし達が話す言葉は魔力が混ざっていることによってどんな言語で喋っても通じるようにはなっていますわ。魔力が使えないとなると、普段通じている言葉も通じなくなってしまいますの」
「……どうしてそんなことがわかったんだ?」
「だって、わたくし、フユミーさんと同じ世界で生きて死んでこの世界に生まれ変わった転生者、ですもの」
「は?」
テンセイって、なんだ……?
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