第59話 結局のところ

 ここは、言おう。

 私がもうすでに死んでいて異世界から来たこと。

 それでもなおクラリスさんが私の騎士になることを諦めないというのなら彼女を私の騎士にしよう。

 ……学生だという話も聞いたし、しっかり勉強はしてもらって学園を卒業してもらって、その後私の騎士を辞めたいってことになっても別の場所で働けるようにしておくことも忘れずに。

 この世界の学園がどういうものかははっきり知らないけれど……。


「……じゃあ、最後にこの話を聞いてから私の騎士になるかどうかを決めてください。貴女にはまだ将来がありますから、それを聞いてどうするか判断してください」

「話、ですか? それを聞けば貴女の騎士になれるのですね! 例えどんな話が来ようとも貴女の騎士になりますとも!」

「……それは俺達が聞いていい話なのか?」

「聞いてもらって構いません。それを聞いてどうするかも任せます」

「……なんの話をするわけ?」

「私が記憶喪失、という話が嘘の話で本当は別の世界ですでに死んでいて、気づいたらこの世界に生きていたという話です」

「そ、その話をするんですの!?」

「待ってください、今なにをおっしゃったのです? すでに死んでいる、というのですか? ここにおられるフユミヤ様が?」

「そう、死んだの。……死んだはずなの」


 どうして今この世界で生きている理由は今もなおわからない。

 本当なら終わっているべきなのに、地球では使えない力が使える知らない体で平然と生きている。

 果たしてそれは許されていいことなのだろうか?

 ただの夢というにはいろいろな事が起こりすぎている上に、いろいろな感覚がありすぎる。

 また死ななければこの人生も覚めないのだろうか?


「ですが、フユミヤ様は今こうして話せて、触れて、魔力も流れているではないですか。それのどこが死んでいるというのです?」

「……死んだのは別の世界、魔力の存在しない世界でのこと。この世界での私はどういうわけかいきなり現れて、人の勢いに流されるまま生きてるの」

「……いきなり現れたとはなんだ。まるで厄災の獣のような存在ではないか?」

「うん、そう。ルプアは言っていたよね。この国ができるずっと昔に光属性や闇属性の魔力を持っている人は絶滅したって」

「いや、言ったけど、さ……」


 なんてことを話しているんだと言いたげなルプアには悪いけど、話は続けないと。


「そんな絶滅したような魔力の属性を持った人間が、普通の親から産まれてくるはずがないの。私の知っている常識と合っていればね。……これまで、フェルグランディス王国からできてから光の魔力とか闇の魔力を持っているヒトっていたのかな?」

「……わたくしはフユミヤ様知らないです。……兄上は?」

「俺も同じだ」

「……普通には生まれてこない以上、生まれ方は多分厄災の獣と一緒。私はたまたまヒトの形をしているだけで魔力は別物。どうしてその魔力に光の魔力があるかは謎だけど」

「本来は闇の魔力だけある方が自然だったと言いたいわけ?」

「そう。私なんかが光の魔力を持っていることがおかしいし……」


 私が光の魔力を持っていること、これが本当に変だと思う。

 なんで私が持っているんだろう?

 もう性格が明るくて、人を元気づけられるような人が持っているべき魔力なのではないの?


「……いいえ、そんなことはありません。フユミヤ様は光属性の魔力を持つのに相応しい方です!」

「ク、クラリスさん?」

「現に見ず知らずのわたくしに治療魔術をかけてくださったのはフユミヤ様でしょう! わたくしの人生に光を残したのは貴女様でしょうに! あの時、あの治療魔術がなければ、わたくしは魔石すら残らずになくなっていたはずですから……」


 あれはただの偶然ケガ人がいたからそうしただけだし、なんの考えなしに放った治療魔術なのに、どうしてここまで私を信じるの?


「それにフユミヤ様が厄災の獣なはずがありません! 厄災の獣はただ無秩序にわたくし達の暮らす土地を荒らし、襲います。そんなケダモノとフユミヤ様が同じとは到底思えません!」

「でも生まれ方は同じ……」

「いいえ、そんなものは最早関係ありません! わたくしはどんな貴女でも仕えますし、支えます!」

「……私がどんなヒトであろうとクラリスさんは私の騎士になる、と?」

「はい! わたくしはフユミヤ様がいいのです。フユミヤ様がなんと言おうと、貴女の騎士になりたいという気持ちに変わりはありません」

「…………本当にいいの?」

「はい!」


 本当の本当に?

 とバカみたいに念押しをしても押し問答が始まるだけだ。

 止めよう。


「……わかった。クラリスさんは今日から私の騎士ということで。……いつでも私の騎士を辞めてもいいからね」

「そんな日は来ませんって! ……それではわたくしクラリス=クーデリア=ゴルディアン、今日からフユミヤ様、主様の近衛騎士として務めさせていただきます!」


 両手をグッと握られる。

 ……どうしよう、大して偉くもないのに近衛騎士ができてしまった。


「ところでクラリスちゃん、キミの戦い方って身体強化をかけるやり方だったよね?」

「はいそうですが、それがどうかしましたか?」

「せっかく魔力の真髄に辿り着いたんだからさ〜。ここは1つ、武器を魔力武器に新調するのはどう?」

「魔力武器ですか……? ですがあれは元魔術士が使うような武器では……?」

「単なる武器じゃ強大な厄災の獣には一切効かないわけ。強大な厄災の獣が持っている魔力壁膜を貫通させるには魔力の攻撃が一番効率がいいの。フユミヤちゃんの騎士になるんだし武器は変えとかない?」

「……ルプア、要するに今の武器ではダメ、ってことが言いたいの?」

「そ、フユミヤちゃんは封印されし大厄災の獣を何体も倒している以上はフユミヤちゃんの騎士であるクラリスちゃんにも強くなってもらわないとね。今の戦い方だと水の魔力の真髄も活かせないし」

「……主様、封印されし大厄災の獣を倒せるのですか!?」

「うん」


 ほとんど電気の魔力様々ではあるけど、倒せてはいる。

 電気の魔力が光の魔力の真髄なのはわかったけど、どうして電気の魔力は大厄災の獣を効率良く倒せるんだろう……?


「それはわたくしも精進しなくては! ……この町の武器職人は魔力武器を作れれば少しは早いんですが、まだ確かめていないですねー。……あるのでしょうか?」

「……この町を対して見て回っていないから知らないよ」

「まあそれは追々、ということでこれからどうします? 私の大事な大事な用事は済みましたし!」

「ではではではでは! お師匠様! 料理を作ってくださいまし! わたくしはお師匠様の作った料理をた〜くさん! 食べたいですわ!」


 ルプアの料理を相当食べたいのか、ユーリちゃんの勢いがすごい。


「……ユーリは私の料理が食べたいの? 食事がおいしい場所を探せばいいんじゃない?」

「確かにいくつかおいしいお店はありました! ですが! わたくしが1番食べたいのはお師匠様の料理ですわ!」

「と言われても、全員に出す量はないからね。諦めて」

「わたくしだけが食べれればいいのです! フユミーさんはともかくコルドリウス様やクラリス様は別にお師匠様の料理を食べたいわけではないですもの! ね、お二方!」

「……そ、そうですね」

「まあ気になりますが、料理って当たり外れありますからね〜。今回は遠慮します」

「……そうだね。ユーリちゃん、ルプアの料理を食べたがっているし負担じゃないなら作ってあげるのも……」

「……はぁ、作らないとか。いつかは作るからなにがいいか決めといてね」

「やりましたわ!!」


 ユーリちゃんが両腕を上げて喜びを示している。

 そのポーズはお嬢様らしくないかな……。


「それじゃあ、後は兄上ですかね。なにかあります?」

「……俺は特にない。アキュルロッテ様とフユミヤが動かない限りはな」

「……面倒臭いことになったな〜。コルドリウスくん、アタシが1人で逃げたら追うの? それともフユミヤちゃんの確保が優先?」

「……フユミヤの確保だ」

「…………エッ、なんで?」

「……ヴィクトール王弟殿下が今最も重要視されているのがフユミヤの確保だからです」

「なにかあるってこと……? 普通はアキュルロッテだったルプアじゃ……?」

「ヴィクトール王弟殿下の様子のおかしさはわたくしと再会してからもありましたが、アキュルロッテ様にフユミヤが連れてかれてから殿下の様子は更におかしくなってしまいました」

「おかしくなったってどういう風に?」


 ……ヴィクトール様がおかしくなった原因が私であるかのような言い方だ。

 ……やけに物は貢がれたような気がしたけれど、それがおかしいというのならそうかもしれない。


「殿下は時間と広い場所さえあればずっとフユミヤの位置がわかる地図を見続けるのです。わたくしはフユミヤがアキュルロッテ様にさらわれたことで黙らされ続けていましたから殿下がなんの外聞も気にせず地図を見続けることを咎めることすらできませんでした」


 あれ、てっきりコルドリウスさん、ヴィクトール様のやることなすことなんでも肯定するかと思ってたけど、そんなことないんだ。

 意外……。

 それにやっぱり私の位置情報はヴィクトール様が把握できていたんだ。

 ……それにしては移動が早かったような?

 魔力を使った移動手段が他にもあるってこと?


「というわけで俺としてはフユミヤをこの場所に留めておきたいが……」

「じゃあ、アタシは出ていっていいね」

「お師匠様!? わたくしのごはんは!?」

「ヴィクトール王弟殿下様方はフユミヤちゃんの靴にくっついてる貴族の印で居場所をわかるようにしてる以上、そのうちここにくるでしょう。フセルック家の坊っちゃんでも連れてね」

「えっと、なにか問題があるの?」

「あのねフユミヤちゃん。これでもアタシ、追われてる。なので逃げる。これ当たり前。OK?」

「う、うん……」


 でも今の私達、ユーリちゃんやコルドリウスさん、クラリスさんに捕まっているような……。

 ルプアならこの状態からいつでも逃げられるってことなのかな?


「というわけでフユミヤちゃんの靴の飾りを壊したいけど、どうする?」

「こ、壊すの……?」


 そ、それをしたらヴィクトール様どうなっちゃうんだろう。

 ここは1回会ってみて、本当に変な様子か確認した方がいいのかも……?

 そもそもなんでルプアじゃなくて私を追うんだろう?

 光の魔力ってそんなに大事なものだったのかな?


「うん、フユミヤちゃんが望むなら靴も壊さずその飾り、壊せるけど」

「い、1回止めない?」

「いいんだね?」

「うん、とりあえず会ってみようかなって」

「じゃあ、アタシはユーリに料理を作った後、ここから出ていくから」

「エッ」

「なっ、なんでですの!? わたくしお師匠様の料理をたくさん食べたいと」

「ドカ盛り、作るけど」

「ドカ盛りですの!? ……そういうわけではなく! どうして出ていきますの!? まだ猶予はあるでしょうに!」

「……じゃあ4日。4日後の夜にごはん作るからそれまでは出ていかない。これでいい?」

「ゔ〜……、わ、わかりましたわ……」


 ルプア、4日後には出ていっちゃうんだ……。


「あれ、私の闇の魔力はどうするの……?」

「この期間でもらえるだけもらうつもり。もちろん魔石でね」

「そうなると、この辺りの厄災の獣を狩るの?」

「もちろん。弱くても魔石にはなるからね。クラリスちゃんの魔力武器にもいるでしょ?」

「必要ですが、まずは魔力武器を作れる武器職人を探さないとですよ?」

「まずは武器職人を見つけて話を通してから、魔石を手に入れればいいだろう。運が良ければ今日中に作成依頼ができるはずだ」

「兄上、……そうですね。そうしましょう」

「というわけで、この部屋を出ようか。とっとと武器職人を探そ探そ?」


 この部屋にいてもやることはないので出ることにした。

 ……魔力武器ってなんで魔力武器って言っているんだろう?

 杖も魔力で攻撃する武器ではあるよね?

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