偽装婚約編
第81話 王城に滞在
「お父様、私のことを忘れていないかしら?」
「セラフィーナ! お前も生きていたんだな! お前の婚約者は……」
「いないわよ、お父様」
「いないのか……。で、ヴィクトール、そのフユミヤは結婚できる年齢なのか? ずいぶん小さく見えるが……」
「俺と同じ17歳です」
「なら結婚自体に関しては問題ないな! 問題はウォルスロムが許してくれるか、だけどな!」
「婚約は正式に認めていただけるのですか?」
「もちろんだ。お前が婚約すると決めたんだからな!」
…………ヴェルドリス様は私とヴィクトールの婚約を認めるつもりでいるらしい。
私、不審な異世界人のはずなんだけど、身分とかどうなっているんだろう?
そういうの関係なくこの世界って結婚できるのだろうか?
「ヴェルドリスくん、早く王城に戻るわよ。ヴィクトールとフユミヤちゃんの婚姻を認めるなら書類を書かないといけないの、わかっているわよね?」
「ウッ…………、あの書類、面倒なんだよな」
「ヴェルドリスくんが1番最初に認めた婚約なんだからヴェルドリスくんが書くこと!」
「ミルリーナ、助けてくれるよな……?」
「ウォルスロムの時は1人でできていたじゃない。15年前からなにか変わったかしら?」
「いや、特に変わっていない!」
「じゃあ1人で頑張れるわよね?」
「ミ、ミルリーナ……」
「街の中心でする話じゃないでしょう? 早く王城に行きましょう。ヴィクトールにセラにフユミヤちゃんだけではなく近衛騎士とユーリちゃんもいるんだから!」
「わかった。王城に向かおう。話は王城でもできるからな!」
そう言いながらヴェルドリス様はマントを翻して真っ直ぐ前へ進んで行った。
「行きましょう。ヴェルドリスくんについていけば王城に辿り着けるわ」
「そうですね。……フユミヤ、はぐれたら大変なことになるから手を握ってくれないか?」
「そんなに子どもに見える?」
「魔力の気配でわかると言っても探し出すまでに時間がかかってしまうからな。最初からはぐれないようにしておけば安心だろう」
「嫌なら私の手を握る?」
「セラ、横から割り込むな。フユミヤの婚約者は俺だからな」
「わかっているけど、私もたまにはフユミヤと触れ合いたいわ〜」
「それはいつかな。フユミヤ今は俺の手を握ってくれ」
「……わかった」
ヴィクトールから差し出された手にそっと右手を添えるとグッと握り込まれる。
そして指の間に指を入れられた。
「よし、これでいいな」
「貴方達、早くしないとヴェルドリスくんに置いてかれるわよ〜!」
「急ぐか」
「そうね〜」
急ぎ足でミルリーナさんの後を追った。
ユーリちゃん達も無事についていけているようだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王城、大きい。
上のところが赤く塗られているのが特徴で、下の部分は灰色の大きい複雑な建物だ。
……そういえば今日はここに宿泊することになるのかな?
ヴィクトールとセラ様は自分の部屋があるとして、私達って泊まれるのだろうか?
「王城そのものまではまだまだ遠いからな。もう少し走るぞ」
「まだ走るんだ……」
「疲れたなら抱えるが?」
「それはいい。走る」
「そうか……」
残念そうにしているヴィクトールに反応しないように全力でヴィクトールの走りについていく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王城のとても大きい扉の前に来た。
ここを通るのだろうか?
「門番! 私とミルリーナ、ヴィクトールとセラフィーナの客人達だ。入れてくれるよな?」
「はっ、承知いたしました。それでは開門いたします!」
閉ざされている扉は上に上がった。
開かないんだ……。
「よし、行くぞ。まずはメイドに客室の用意をさせないとだな!」
……これは私達、泊まれるという認識で合っているよね?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王城、とても縦に広い。
どんな身長の人でも堂々と歩けそうだ。
「父上、客室はどう用意させるのでしょうか?」
「フユミヤを含めた女性陣で1部屋、そこの男性で1部屋でいいのではないか?」
「……フユミヤは俺と同じ部屋ではないのですか?」
「まだ書類ができていないからな! お預けだ!」
「…………が、我慢します」
「お兄様、気が早すぎるわよ〜」
「ヴィクトール様、舞い上がっているのはよくわかりますが、私室で2人きりは節度がないですわ」
「ぐっ……」
「それはともかくまずはメイドに
「そうね。メイドは……」
「お呼びでしょうか?」
「客室を2部屋用意してくれるか? 1部屋は女性3人が泊まれる部屋、もう1部屋は男性1人が泊まれる部屋だ。他のメイドと協力して準備してくれ」
「かしこまりました。それでは失礼いたします」
「頼むぞ」
メイドさんは素早く現れて、素早く姿を消してしまった。
王城のメイドとなると固めの人が多いのだろうか?
「まずは適当な会議室を使うか。そこでフユミヤ含めた客人の方々について教えてもらおう。ミルリーナと共に行動しているのなら問題ないと思っているが……」
「フユミヤちゃんの出自についても知りたいしね。空いている会議室、あるかしら?」
「ミルリーナ総長、お戻りになられたのですね。会議室でお困りでしたら私達が使っていた会議室をご利用ください」
「あら、エルじゃない。じゃあありがたく使わせてもらうわ。どの会議室かしら?」
「大会議室1です。ご案内いたしますね」
エル、と呼ばれたミルリーナ様の部下の人らしき濃いピンク色の髪をポニーテールにした女性が会議室へ案内してくれるとのことなので、それについていく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
エル様に案内されて大会議室に着いた。
全体に赤くて会議室というより豪華な部屋、といった印象だ。
椅子の装飾もなんだか細かいし、こんな会場で会議に集中できるのだろうか?
「それでは私はここで失礼します」
「ありがとう、エル。また明日もよろしくね」
「もちろんです。それでは」
エル様が去った。
ミルリーナ様に相当頼りにされている方なのだろうか?
「さあ、適当に座って。とりあえず話せればいいから」
……本来は
よくわからないまま過ごしてきたけど……。
とりあえずユーリちゃんの方に寄ろうかな?
「フユミヤは俺の隣だ」
ユーリちゃんの方に体を向けた途端、ヴィクトールに体を引き寄せられる。
……婚約しているからってこと?
ヴィクトールのご両親と釣り合う身分ではないのに?
つ、疲れそう……。
結局上座方面にミルリーナ様とヴェルドリス様、その向かいに私達が座る形になった。
ミルリーナ様の向かいには私、ヴェルドリス様の向かいにはヴィクトールという状態だ。
「さて、話すべきことは色々あるけれど、なにから話そうかしら。ヴェルドリスくん、なにかある?」
「そうだな、まず……、ヴィクトールにセラ。よく生きて戻ってきてくれた。お前達がいなくてもウォルスロムのやつはいつも通りだが、無事でよかったよ」
「そうね。まずは無事であることは良かったけれど、あの書き置きはなにかしら? “セラと旅に出る。探すな”なんてふざけたものは。……最初は駆け落ちでもしたのかと驚いたけれど、違うのよね?」
「違います。そもそも俺達は学園を卒業してもなにもなければ旅に出るつもりでした」
「そのことを私やヴェルドリスくんに話してくれた?」
「いえ、最初は帰るつもりはなかったのでそうしようとは考えませんでした。秘密にするつもりでいたので」
「セラ、それは本当なの?」
「ええ、そうよお母様。私達は旅に出てそのまま帰らないつもりだったの。封印されし大厄災の獣と戦うための旅だったから」
……現にテルヴィーン伯爵領、ロトスの町では戦ったよね。
私の電気の魔力で倒せたけど……。
「封印されし大厄災の獣に手を出すつもりだったの? それは禁じられているとは言ったわよ?」
「でも、お母様、封印されし大厄災の獣の数はアキュルロッテが狩るのを止めたら増えていく一方だったのでしょう? 誰かが戦わないとこの国が封印されし大厄災の獣で埋まってしまうわ」
「そうだけど……」
「が、お前達はテルヴィーン領、ロトスの町で封印されし大厄災の獣の討伐に成功した。……と言ってもそこのフユミヤの力でだがな」
「駐屯騎士団からの報告書、ですか」
「ずいぶん熱量の高い報告書でな、とくにロトスの聖女、見た目はほぼフユミヤと一致しているから彼女で間違いないと思うが彼女が多くのケガ人を治し、大厄災の獣を倒したと記載がある」
……ロ、ロトスの聖女ってなに?
私、大したことしてなかったよね?
「で、その後のことも俺はある程度把握しているわけだが……、セルクシア公爵令嬢が全てを台無しにしていたな。よく、フユミヤの身柄を取り戻すことができ、婚約を取り付けられたと褒めたいところだが……」
「…………」
「旅に出る前に、ヴィクトールやセラフィーナを俺達の部下にしてから、だったな。そうして旅に出たいということを相談してくれれば定期的に報告書を送ってもらっていればムダな心配をしないで済んだんだ」
「……といっても騎士団や魔術士団でそんなことをしていいのか?」
「あくまで名目上は厄災の獣と戦い慣れてもらうための訓練として旅に出しているの。報告書も随時受け取っているわ」
「そんなものが……、と言われましても、どの道俺達は内密で旅に出ていました。封印されし大厄災の獣に手を出すことは許されていませんから」
「……だが、今は違う。フユミヤの力があれば各地の大厄災の獣や、封印の地となった領地さえもなんとかできるのかもしれん。よくフユミヤを見つけてくれた。彼女がいればこの国がより
……な、なんか私の魔力にずいぶん期待されているような?
各地の大厄災の獣はなんとかできるのかもしれないけど、封印の地ってなんだろう?
聞いた覚えがないけれど、ろくでもなさそうだよね。
「よって無断で王城を出た件は許そう。で、ヴィクトールとフユミヤの婚約についてだが、俺が正式に認めて結婚についてもなんとかしてウォルスロムに認めさせる」
「それは本当ですか、父上!?」
……ま、まだ独身でいるつもりだったのに、どんどん結婚が整えられていっている。
あの場でなんとしてでも断っておくべき……、いや、どの道別の人との結婚が待っているんだっけ。
……もしかして、ヴィクトールに拾われた時点で私の独身人生、詰んでた?
「……そのためにはまずウォルスロムとフユミヤを会わせる必要があるわけだが、アイツはアキュルロッテを探しに行っているからな」
「……国王である兄上が不在、というのはよろしくないのでは?」
「公務の合間を縫ったり、俺に仕事を任せたりして探しに行っているぞ。これもヴィクトールとセラフィーナが旅に出たせいだな! だが、フユミヤの治療魔術で治せるのかもしれん」
「私の治療魔術ですか……」
ヴィクトールにもヴェルドリス様にもあった違和感のようなものがウォルスロム陛下にも存在するのだろうか……。
「アレのせいで少しくらいは仕事のことを省みようとは思ってしまったんだ。俺の全てはミルリーナにあるというのにな」
「それは言い訳にならないでしょうが……」
「今日だって落ち着かない俺に行ってこいと言ってくれたんだぞ? 我ながら良い部下を持ったと思っていたが、よくよく考えてみると、そんな場合ではないと危機感を持ってだな……」
「ヴェルドリスくんもようやく持ったのねその危機感。今、大事にするべきことはなに?」
「この国の大厄災の獣を一掃し、ミルリーナと2人で過ごせる国を作ること、だな」
「後半、いらないわね……」
「いいや、重要なことだ。それがないと俺は働くつもりはない。……もうそろそろ王国騎士団総長の職も後任に任せてミルリーナとゆっくり余生を過ごしたいと思っているんだがな」
「早すぎるわよ。まだ5年は働けるでしょう?」
「その分2人で過ごす時間は減るじゃないか!」
……熱い、ですね。
もう話聞き流していいかな……。
「そんなことより! 私としてはまずフユミヤちゃんに大厄災の獣を倒す力があるかの確認を行いたいのよね。どのくらいの時間、どのくらいの強さなのかを知りたいの。いいかしら?」
「構いません」
「まずはフセルック侯爵家に許可をもらわないとね……。多少の時間はかかるから、許可が出るまでしばらく王城に滞在してもらいましょうか。フユミヤちゃん以外の3人もね」
「……母上、その間、俺はフユミヤに会えますよね」
「会ってもいいけど、基本的に私が連れ回すわよ? 王国魔術士団で色々試させたいこともあるから」
「……なら、俺も王国魔術士団に寄ればいいんですね」
「その前にヴィクトール、お前は俺と手合わせをしろ。旅に出たんだ。実力の確認くらいさせてくれてもいいだろう?」
「……わかりました」
「近衛騎士の子達は王国騎士団で訓練に参加してもらおうかしら」
「あ、主様の側にいれないのですか?」
「
「…………うっ」
クラリスさんが呻いた。
自信がないのだろうか?
少し、聞いてみよう。
「クラリス様、自信がないのですか?」
「わたくしは戦闘を専門とするには弱いんですよ……。あの主様、気になっていたんですけどクラリス様というのはなんでしょうか? わたくしはあなたの近衛騎士ですよ?」
「でもクラリス様、貴族と……」
「主様が主様であることには変わりありません! いつも通りの口調でお願いします! じゃないとここで暴れます」
「わ、わかったから暴れないでクラリスさん……!」
抜刀しようとしたクラリスさんを止める。
王城の物を壊したらまずい……。
「それで、ユーリちゃんは見学ね。魔力過多で微妙に大きく見えるだけで魔力の土台が4歳くらいよ」
「なっ、なっ〜! わたくしも訓練に参加したいですわ! 数々の魔術士をなぎ倒させてくださいまし!」
「それは騎士団の訓練かな……。魔術士同士は争ったら大怪我じゃすまないからハリボテゴーレムに戦わせているの」
「ならそのハリボテゴーレムをなぎ倒しますわ!」
「血の気が多いわね……。とてもアキュルロッテに似ていない。あの子はサラッと砂塵に返していたわよ」
「お母様、私がユーリをなだめるから私も魔術士団に寄っていいかしら?」
「そうね。そうしてもらおうかしら。それじゃあしばらく全員にやってもらうことが決まったから1度解散ね。ヴィクトール、セラ、貴方達の部屋はわかっているわよね?」
「当然です。……フユミヤの客室、俺達と近いでしょうか?」
「当然遠いに決まっているでしょう?」
……客が暗殺者だったらマズいもんね。
それは王族の部屋と引き離すでしょう。
「フユミヤちゃん達は私とヴェルドリスくんが案内するとして、行きましょうか。客室に」
「お、俺達はついていっても……」
「ダメ。明日にしなさい」
「…………わかりました。朝一番にフユミヤを尋ねます」
「朝5時を過ぎてからにしなさいね。それじゃあ行きましょう。ついてきて」
「ヴィクトール、また後で」
「…………ゆっくり休んでくれ」
ヴィクトールが項垂れているのを気にせず、私はミルリーナ様とヴェルドリス様の後についていった。
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