第34話 帰還【Sideフユミヤ→ヴィクトール】不在のフユミヤ

 …………うーん。


「ユーリちゃん達来ないね……」


 それらしい集団の魔力の気配はしているけど、なにしているんだろう?

 進路の厄災の獣は私達で蹴散らしたけど、喧嘩でもしているのかな……?


 暇である。

 ヴィクトール様、セラ様は魔力中和を教えるのに忙しいだろうし……、ボケーっと立ち続けているのも飽きた。


 …………!

 今がお金を数えるチャンスなのでは!?

 ユーリちゃん達もまだ来ないし、数えていいかも。

 旅立ってから今まで1度もお金数えてないからどれだけ増えたんだろう?

 服のポケットから青い巾着を取り出す。

 振ってみるとジャリジャリ音がする。

 前より増えたかな……?


 ……地面に広げるより土の魔力でお金を乗せるなにかを作った方が汚れないか。


 適当に大きい半透明の板を作った。

 適当だからデコボコしているのは御愛嬌ごあいきょうとしか言いようがない。

 数えるぞ数えるぞ数えるぞ!


「1億、7593万6957リーフ……! これで借金返せる!」


 後はどう返すかだけど……。

 いきなり現ナマ渡されても困るよね……。

 私が一方的に借金って認識しているのかもしれないけど……。

 でも返したい物は返したいし……。

 誰かにお願いして代わりに渡してもらう?

 ……誰かって言ってもユーリちゃんやセラ様に渡すのはなんか違うし、……コルドリウスさん?

 コルドリウスさんなら町にいる間とかはユーリちゃんに口を封じられているし、お金渡してもいいのかも?

 嫌われてはいるけど、確実に渡してくれそう。


 ……問題は渡しても返される場合だよね。

 確実に受け取ってもらうには……、ヴィクトール様の集まりから抜け出すというのも1つの手かも。

 抜け出すタイミングとしては、まず旅の目的の達成されたら、この旅の目的は、私の光の魔力が封印されし大厄災の獣に効くかどうかの検証。

 これが目的なんだよね。


 ……でも、今のところ電気の魔力の方が厄災の獣に効いているような?

 電気の魔力が光の魔力の仲間なら厄災の獣で検証できているので有効といった結論にはなりそうだけど……。

 そもそも有効だとわかった場合、私はどうすればいいんだろう?

 封印されし大厄災の獣を片っ端から倒せばいいの?


「…………お金、しまうか」


 悩んでも仕方ないのでお金は片付けておく。

 返す分は青い巾着袋に入れ、100万リーフ硬貨だけ赤い巾着袋に入れておく。

 赤い巾着に入っていた魔石は鞄に入れておく。

 100万リーフあればなんとかなるでしょう。

 たぶんね。

 厄災の獣は1人でも狩れそうだし、それで稼いでいけば生きていけるんじゃないかなーって……。


「……フユミーさん? なにをしていますの?」

「遅かったね。ヴィクトール様とセラ様達なら魔力中和をランドヴェルグの町の厄災狩りに教えているところ。私は行っても役に立たないから暇を潰していたんだ」

「……魔力中和? 厄災狩りの基本中の基本ですわよね? なんで教えていますの?」

「魔力中和……? 貴女達知ってる?」

「知らない!」

「聞いたことない!」


 前衛の女性の人に聞かれて知らないと大きな声で言う杖を持った双子のように見える女の子2人。

 ……やっぱり、知らないんだ。


「そんなことありますの? お師匠様、これを知らないと厄災の獣がどんどん強くなるって言ってましたのよ? それを知らないということは倒した後処理をしていないということですわよね?」

「後処理なんて肉拾えば終わりじゃないのー?」

「終わりではないですわ! これは教えなければなりませんわね……。」

「……魔力中和をしていればわたし達、こうはならなかったの?」

「……わかりませんわ。遠い場所から自分達では敵わないような強い厄災の獣が現れてしまうこともありますもの。少なくとも魔力中和を行っていれば身近な場所には生まれませんのよ」

「……どうしてお母さんとお父さん達は教えてくれなかったのかしら? ……わたし達のことどうでもよかったの?」

「親というものは無条件で子を愛する生き物ではありませんのよ? 見た目がそれとなく自分と似ているだけの他人ですわ」

「モル姉に酷いこと言うな! 黄巻き髪!」

「黄巻き髪の親はどうしてるわけ!? 酷いことしてるの?」


 ユーリちゃんがランデヴェルグの町の前衛の人の地雷を踏んでいるような……?

 だ、大丈夫なの?


「わたくし、自分の親の顔知りませんの。捨て子ですから」

「捨て子ならどうやって生きてきたわけー? 育て親はー?」

「お師匠様ですわ。そのお師匠様も数週間前わたくしとはぐれてからそれっきり会っていませんが」

「また捨てられてるー」


 この双子の女の子達もユーリちゃんの地雷になりそうな部分をどかどか踏んでいる。

 これじゃあ移動も遅くなるわけだ。

 ……と思っているうちにヴィクトール様とセラ様達の魔力の気配がこちらに向かってきている。

 この人達の魔力中和はランドヴェルグの町の人達から教わるのかな?

 魔力中和、広まるよね?


「……ユーリ、遅いじゃないか。もう魔力中和は終わらせたぞ」

「あら、終わってしまいましたのね……。ところで、探し物は見つかりましたの? わたくし達探しましたけど見つかりませんでしたわ」

「探し物は厄災の獣が落としたんだ」

「……そんなことありますの?」

「話は帰りながらするさ。もうすぐ夕方になる。夜になる前にランドヴェルグの町へ帰るぞ」

「……わかりましたわ」

「えー、もう帰るのー?」

「わたし達なんにも見つけてなーい!」


 双子は無邪気な性格をしているのか、危ない目に遭っていないからのんきなのか、危機感のないことを言っている。

 ……厄災狩りとして生きていけるのだろうか?


「フゥ、ルゥ、探し物ならアタシ達が見つけたから帰るの。アルゴス、持っているでしょう?」

「はい。これ、わかりますか?」

「キルクスの腕輪だー!」

「テスリカのはー?」

「……わかるんですね。じゃあこれです」

「テスリカのだー!」

「わかるのね……」


 レーシアさんやアルゴスさんが区別をつけられなかった腕輪の区別が付くようだ。

 ……同じように見えるけどどうやって見分けがつくんだろう?


「裏に文字があるからその違いー!」

「……読めたのね?」

「「読んだー!」」

「いい、口には出さないのよ? この刻まれた言葉は2人にとって大事な言葉なんだから言わないの。約束できる?」

「……なんで言っちゃいけないのー?」

「婚姻を申し込んだ時の言葉なんて言い触らされたくないでしょう?」

「よくわかんない!」

「まだわたし達7歳だもん!」


 ……またずいぶん幼い年齢が口から飛び出てきた。

 地球換算はすぐ出ないけど、まだ小学生くらいだろうか?

 情緒が育っていない、ということなのだろう。


 ……それなのに厄災狩りなんてやらせて、この子達の親はどうしているんだろう?

 普通に厄災狩りをして放置、なのかな……?


 あまり地球の常識を押し付けるのは良くないよね……。


 歩く速度をさらに遅くして1番後ろに行く。

 危ない魔力の気配はないとはいえ警戒はしておこう。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 特に問題なくランドヴェルグの町に到着した。

 14人でぞろぞろと宿を目指すのを見てくる人の視線は痛いけど、今は集団で動いているので仕方ない。


 ぞろぞろ歩いて宿に着いた。

 そういえば、私達の部屋はどうするんだろう?

 また100万リーフの部屋?


 個室を取れそうなら取ってみたいけど……。

 1番後ろだし、こっそり取れないかな?

 食事場所へ向かっていく流れに逆らって、入口のカウンター前に立つ。


「ん? どうした? 食事場所に行かないのか?」

「先に宿泊場所の予約をしたくてですね……。個室ってありますか?」

「あるぞ。10万、5万、1万の部屋があるが、どうする?」

「それじゃあ10万の個室でお願いします。代金は……」


 赤い巾着を取り出す。

 青い巾着は借金返済用なので手はつけない。

 100万リーフ硬貨を取り出し、魔力を込めて10万リーフ硬貨に崩してポルクトさんに渡す。


「……確かに10万リーフ硬貨だな。場所はどこにする? 端か?」

「端でお願いします」

「わかった。すぐに案内できるが……、食事場所に行かないのか?」

「疲れてすぐに眠りたい状態でして……」

「……そうか。じゃあ案内する」

「お願いします。」


 食事場所に行かなくて済みそうだ。

 なんだか賑やかな状態だし、この空気に馴染めそうにない。

 ポルクトさんの案内に従って、階段を上る。


 1番上は例の100万リーフ部屋なので、その1階層下あたりの場所に出て廊下を歩かされる。

 結構100万リーフの部屋と近いんだな……。


 廊下を進んだ先には壁、から左を向いて鍵のある扉。

 これは本物なんだよね……?


「この部屋の鍵だ。空けられるか確認してみてくれ」

「わかりました」


 鍵を鍵穴に刺して回す。

 解錠された音がなったので扉を引いて開ける。

 普通に開いた。


「よし、開いたな。鍵に関しては内側からも閉められるから寝る時は閉めてくれ」

「わかりました」


 ……わりと地球のものと一緒だな。

 オートロックとかはなさそうだけど、すぐ閉めればいいから問題ないか。


「これでこの部屋の説明に関しては以上だ。まあ、ゆっくり休んでくれ」

「はい、ありがとうございます」


 ポルクトさんが去るのを見送って部屋に入って即鍵を閉める。


「つ、疲れた〜〜……」


 やっと鍵の閉まる扉があって、密室に近い空間で落ち着くことができる。

 拠点のあの部屋は広くはあるけど、扉がないのであまり落ち着くことができなかったのだ。


 この世界に来て10日も経っていないけど、色々疲れた。

 慣れない集団生活をすることになるし、魔力なんて今まで扱ったことのない力は操るし、中々1人になれないし……。

 だいぶ人には出してはいけない不満が溜まっている。

 今1人になれてよかった。


 会話への参加もできないし、会話といってもひたすら質問するだけだったり相槌だけしか打たなかったり、そもそも人と過ごすための技能が、ない!

 やっぱり私は1人じゃないと気楽に生きていけない人間だとつくづく実感させられる。


 集団で生きていくための社交スキルのようなものが地球の頃からないという自覚は昔からあった。

 それを磨くための時間はもうとっくに過ぎているから手遅れなのももうわかってる。

 手遅れだから死んだのに、今も生きていることは謎だけど、もうすぐなれるのだ。

 ──1人に!


 借金だって稼ぎ切ったし、後は渡すだけ。

 封印されし大厄災の獣への道は近いし、倒せば出ていけばいいんだよね。


 出ていけば始められるんだ。

 いつ死んでもいい、1人旅!








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ◇Side【ヴィクトール】


 おかしい。フユミヤが食事場所に現れない。

 フユミヤ以外の全員はもう食事を始めているというのに。


「……宿にはいるのはわかるが、フユミヤはなにをしているんだ?」

「黒髪のお嬢さんなら、個室を取ってもう寝ているんじゃないか?」

「……は? どういうことだ?」

「疲れてすぐに寝たいからといってポルクトに部屋取り頼んでいたぞ。個室の」

「そんなの聞いてないぞ。しかも個室なんて危ないんじゃないのか?」

「10万の部屋を取っていたから大丈夫だと思うぞ。あの部屋、鍵が閉められていれば、魔力がほとんど同じ人間じゃない限り開けられないからな」

「扉は壊されたりしないのか?」

「さすがにポルクトが殴り込んでくるさ。それ以前にそんなことをするならず者はこの町にはいないからな」

「だが……」


 俺達になにも言わずに個室に籠もるなんて一体どうしたんだ?

 疲れていたことに気づいていれば俺が先に部屋を取って寝かせていれば問題はなかっただろうに、どうしてだ?


「そんなに心配した顔をしているなら今日聞くのは無理にしろ、明日聞けばいいんじゃないか?」

「……そう、だな」

「まっ、今は食事を楽しんでくれ。巻き髪の嬢ちゃんみたいな量を食えとは言わん。それなりに食べてくれ」


 ……ユーリ、あんな量を食べて大丈夫なのか?

 昨日より増えているのは確かだ。

 気絶するなよ……。

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