第61話 女の子大好きクラリスさん
ルシテアさんのピンク色工房にクラリスさんの魔石を携えて私達は夜前の時間帯に戻ってきた。
主にルシテアさんに用があるのはクラリスさんのため、私達4人は後ろの方に控えている。
「ルシテアさ〜ん、戻りましたよ〜」
「なんなんですか。急に馴れ馴れしい……」
「まあまあまあ! これ、私の魔力がこもった魔石です! 材料になりますかね?」
クラリスさんが出してきたのはバスケットボール大の青い魔石だ。
多分このくらい大きければ問題ないと思うけど……。
「問題ないです。これで魔力武器の作成を始められますが、武器を作るための料金はありますよね?」
「……何万リーフです?」
「10万です。料金の支払いができなければ作りません」
「10万リーフでいいんですね? はいこれです」
「100万リーフじゃないですか……。分けてください」
「はい、これでどうです?」
「10万リーフ、たしかに受け取りました。魔石も受け取りますね」
ルシテアさんは重たそうに魔石を受け取る。
「……そうです。杖、返してもらえますか?」
「ええ、返しますが……、その前に兄上、魔力武器の適正を試しませんか?」
「……俺か?」
「兄上も魔力武器に切り替えたほうがいいと思うんですよね〜。実際どうなんです?」
「……切り替えられるのなら切り替えたほうがいいよ? 魔石をまた集める必要があるけどね」
「じゃあ切り替えましょう! 兄上も! 魔石はまた明日集めればいいですよね?」
「先に適正があるかはっきりさせてからそれはやってください。弱くなったら無意味ですから」
「……まずは適正か。武器職人、杖の魔力を人形に当てればいいんだな?」
「ええ、そうです。穴を開けられたら適正ありと判断しています」
「それじゃあ、やるだけやってみるか」
コルドリウスさんがクラリスさんから杖を受け取る。
即座に杖から風の魔力を放つ。
風の魔力は四角い人形の腹の部分に穴を開けた。
今回は貫通していない。
「……普通ですね。適性はまああります。切り替えます?」
「そうさせてもらおうか。俺達はしばらくここに滞在するからクラリスの分が終わった後、魔石を納品すればいいんだな?」
「そうなりますね。クラリスの魔力武器を渡す前でも魔石は受け取れます。特別な保存方法で魔力を逃さないようにはできますので。ただそうであっても、今日から最短で4日後に魔力武器を納品する形になりますが構わないですか?」
「それは構わん。俺はそこまで急いでいないからな」
「それでは杖の返却をお願いします」
「これでいいか?」
「確かに受け取りました。……次に、クラリスが今使っている武器、渡せますか? なるべく今使っているものと似ていたほうが使いやすいと思うので、軽く複製品は作りたいと思っていますが……」
「なら、いいですよ。どうぞ」
クラリスさんが剣のベルトを外し、ルシテアさんに渡す。
そういえばコルドリウスさんもヴィクトール様も使っている武器は剣だ。
この世界での前衛の人達って剣で戦うのが主流なのだろうか?
ロトスの町の騎士の人達も剣だったし……。
攻撃できる範囲が広いからなのかな?
……あれ?
私の杖やユーリちゃんの杖、ルプアの弓は小型化してるけど、コルドリウスさんやクラリスさんの剣って小型化していない。
……普通の武器って小型化できないのかな?
「急いで作ってきます。このままお待ちを」
「はーい、焦らずにお願いしますよ〜」
ルシテアさんが工房の奥に駆けて行く。
……複製品を作ると言うし、時間がかかるかもしれない。
ここは小型化できるかどうかを聞いてみよう。
「……あの、クラリスさんとコルドリウスさんが武器を小型化していないのはどうしてなの?」
「普通の武器は小型化できないの。魔力が大してないからってわけ。クラリスちゃんは今回の武器から小型化できるようになると思うから持ち運びはしやすくなると思うけど……」
「私は今の携帯方法に慣れているので別にいいですかね、小型化するとすぐに出せなくなってしまうので」
「俺も今の携帯方法でいい。。小型化には魔力を使うだろう。それに魔力を使うよりも攻撃に使える魔力は取っておいた方が良い」
「……小型化にも良い点悪い点があるんだ。なるほど……」
確かに小型化した武器は大きくするのに時間がかかる。
そういうデメリットがある以上、鞘があればすぐに出せる剣は小型化しなくてもいいのかも……?
「複製が終わりました。クラリス、これを返します」
「おっ、ありがとうございます。複製品は無事できたんですね?」
「ええ。それでは明後日の朝以降に渡せるようにします。……明後日ですからね。間違えないでください」
「もちろんです。間違えませんとも!」
「ではこれで。居座ってもなにも出しませんからね」
「はい、それではよろしくお願いします! それでは!」
クラリスさんが店を出るのに倣う。
これでクラリスさんの武器は作成できそうだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
いい匂いがする宿屋の前に来た。
クラリスさんの宣言通り、今日もここに泊まるらしい。
「レイアさん今日も私達ってこの宿に泊まれますかね!?」
「そうね、お部屋は空いているけど……」
ルプアが料理するのなら広い部屋を数日借りた方が良いだろう。
ここはクラリスさんに割り込んで……。
「あの、1番高い部屋は空いていますか?」
「……主様?」
「そうね。空いているけど、どうしたの?」
「なら5日宿泊します。何万リーフかかりますか?」
「500万リーフだけど……」
「あります。これでどうでしょうか?」
「いっ、1000万リーフ!? ほ、本物かしら?」
「本物です。100万リーフに分けますね。……これでどうです?」
8枚の花びらで構成されている花の柄が特徴の1000万リーフを100万リーフに分割した。
これで本物だとわかってくれるだろうか?
「……えぇ、大丈夫よ。ぜひ泊まってちょうだい! ……あなた達ってすごい厄災狩りなのね。びっくりしちゃったわ」
「すごいのは今日出会った主様とルプアさんですよ。私なんて全然ダメダメで……」
「でも戦う勇気があるのでしょう? わたしにはそういう勇気もなければ厄災狩りとして戦う力も全然ないからクラリスちゃんも立派よ」
「いや〜、そんなことを言ってくださるなんて〜」
「クラリス、もう話はいいんじゃないか?」
「えっ、邪魔しないでくださいよ兄上〜! 私はまだレイアさんと話したくてですね……」
「あの、鍵は……」
この隙に鍵をもらおう。
このままだと夜になってしまいそうだ。
「鍵ね。これよ」
「ありがとうございます。部屋の場所は……」
「わたくし、知っていますわ! 行きましょう、フユミーさん、お師匠様!」
「待て俺も行く」
「待ってください主様〜! わたくしを置いてかないでください〜!」
なんだかんだで全員移動するようだ。
てっきりクラリスさん、まだまだレイアさんと話しているのかと思っていたんだけどな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ここがこの宿の100万の部屋……」
100万部屋にはベッドが10個もある。
枕は1つの枕でも3人は寝れるくらい大きい。
仕切り布となる薄い青紫のカーテンはそれぞれの間に設置されている。
壁には小さな花が咲いているリースが飾られていて、多分レイアさんがこの部屋を整えたんだろうなと言うのがわかる。
レイアさんもリースにある小さい花を服につけていたし……、枯れる気配がないのは魔力でなにかをしているからだろう。
「じゃあ、兄上は1番右端で。私達は左側を使いましょうか!」
「……私はどこでもいいかな」
「わたくしはベッドを連結させたいですわ! 昨日はベッドから落ちましたもの!」
「そうなると自由に使えるベッドは6つだけど、後で宿の人が大変になるんじゃないの?」
「ですが、お師匠様! 私の寝相の悪さはご存知でしょう?」
「ここは、諦めて落ちようか。どうせベッドを連結させたところで下の方から転がってくるでしょ」
「たしかにそんなことありましたが……!」
……ユーリちゃん、とっても寝相が悪いね。
そこまでしても落ちるんだ……。
「それに、落ちても爆睡してるでしょ? 問題なくない?」
「問題ないかもしれませんがみっともないですわ! なんとかして直したいのですけども……」
「無理でしょ」
「諦めるしかないのでしょうか……」
「重たい抱き枕でも試してみれば?」
「……フユミーさん、わたくしの抱き枕になってくださいまし」
「……なるの?」
そこでルプアを指名するのではなく私なんだ……。
「人は重いでしょう? でしたら試すしかありませんわ。フユミーさんもわたくしを抱き枕にしてくださいまし。お互い抱き枕になれば私が落ちる確率が減るはずですわ!」
「……主様を抱き枕に? わたくしもぜひ混ざりたいですがさすがに狭いですね……」
「……騎士は主を抱き枕にしないと思いますわよ?」
「ぅぐっ……」
「……クラリスちゃんは女の子が好きなのかな? やけに宿の女性や工房の女の子に馴れ馴れしかった気がするけど」
「えぇ、大好きです! 町中で女性が働いているところをみるとつい心が舞い上がってしまって馴れ馴れしくなってしまうことに自覚はありますが……」
「だから主になる人を女の子にしたってこと?」
「………………それもまあありますが、そんな不純な理由だけで主を決めたわけではないですからね!」
……クラリスさんが程度がどこまでかはわからないけれど女性が好き、と。
だから、レイアさんやルシテアさんに遠慮なく話しかけていたんだ。
「……クラリスさんは私が男性だったら主にしなかった?」
「…………それは、その」
「ああは言っているが愚妹の女好きは重症だからな。確か前に」
「わ〜〜〜!! それは言わないでくださいって兄上! 今はそれはおかしいってわかってますから」
「平民を主にしたということはその可能性もなくはないからじゃないのか?」
「確かにそうですけど〜! 兄上、私のその言葉だけは主様に聞かせないでくださいよ! 今は多少そうは思わなくはないですが諦めはついてますって!」
クラリスさんが私を主と仰ぐのにはなにか不純な動機というものがありそうだ。
……そういうのであれば、まあ構わないけど。
……良かった。
神聖ななにかとして見られているわけではないようだ。
少なくとも自分の性別が多少なりとも関わっていそうだというのは理解した。
「フユミーさん、今のを聞いて思うところはありますの?」
「クラリスさん、主にしたい素敵な女の子を見かけたらその子に乗り換えてもいいからね」
「違うんです〜!!! 主様もそんなこと言わないでください! わたくしは一途ですから!! そんな浮気者じゃないです!」
「……事実として主を乗り換える騎士は存在するからな」
「やっぱりいるんだ……」
「わたくしはそんな薄情な騎士にはなりませんからね!? 主様信じてくださいよぉ〜!」
「ぅぷっ」
クラリスさんが体をぶつけて、そんなことはしないと訴えてきている。
そんなに揺さぶらないで……。
「主様も素敵な女の子ですから〜……」
「フユミヤちゃん、こう見えて17歳だからね。学生のクラリスちゃんより年上だよ?」
「えっ!! 17歳なんです!? こんなに小さくて可愛いのに!?」
「……小さくないし、可愛くはない」
「……フユミーさん、この国の女性は身長が高いですわ。諦めてくださいまし」
「どのくらいの身長で普通なの……?」
「わたくしくらいが普通ですよ、主様」
「嘘でしょ……」
170センチくらいありそうなのが女性の平均身長!?
大きすぎないかそれは……。
「フユミーさん、あまり人を観察していませんの? 今まで行った町でも身長の高い女性はたくさんいましたわ。なのでフユミーさんが相対的に幼く見えている、という部分がありますわね」
「……私ってこの世界だと何歳くらいに見えるんだろう?」
「わたくしは9歳くらいに見えてましたね!」
「9歳となるとフユミーさんの世界換算で約12歳ですわね」
「小学校6年生??? 私その2倍は生きてるよ?」
小6ってそこまでに見えるのか私って……。
女子って身長その辺りで止まったりするけど、この世界では何歳で身長が止まるのだろうか?
小6、小6か……。
この年齢でその詐称するのはキツすぎるし、ランドセルは背負いたくない。
「……となると主様の世界での年齢の数字ってこちらの世界と違うのですか?」
「うん、1年が約365日だからそれだと24歳」
「……ぜんっぜん見えません。やっぱり身長が低いのが若く見えてしまう原因だと思いますが、もう伸ばせませんからね……」
「踵の高い靴を履けば……」
「フユミヤちゃん、そういうの履き慣れてないでしょ。足痛くなるだけだから止めとこうね」
「背伸びすれば届くから……!」
「……それは子どもがすることではなくって?」
「…………」
背伸びするのを止める。
私がしたのは無駄なあがきだったようだ……。
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