4-4.カシューネ・アドルミデーラ見参!
ちなみにカシューネをカンストすると、三属性の他に、カルティに暗殺されずに生き残るというストーリーが解放された。
生き残るのだが、病んだライース兄様が国を滅ぼすときに、そのお手伝いをする――という内容だった。
いや、それも死なないだけで、バッドエンドのエピーソード補完なんだけどね……。
『キミツバ』はバッドエンドまで手を抜かずに、丁寧に描写された乙女ゲーム――と評価されたが、本編よりも力を入れすぎだろうと、前世のあたしは呆れ返ったものだ。
カシューネがしっかりとアドルミデーラ領を健全に管理していたので、アドルミデーラ家は財力も軍事力も潤沢だった。
ライース兄様はそれを存分に使って、国をあっさりと滅ぼすことになるのだ。
アドルミデーラ領の経済的な発展においては、お父様よりも必要なキャラかもしれない。
お祖母様が倒れたときに、親類縁者枠で駆けつけていたかもしれない。大勢の人に紛れて目と目が合わなかったから気づかなかったのだろうか?
さらにカシューネに関する情報が追加される。
カシューネの声優は、幹本慎二だった。
ちょっと鼻にかかったような気怠げな声が特徴の声優さんだ。
幹本慎二は中堅声優で、女性の人気もそれなりに高い。
有名アニメ作品にも主役、準主役で出演している。
あたしがお気に入りのアニメは、近未来異世界を舞台とした『ダーク・アサシンズ』だった。
主人公ではなかったのだが、暗殺者チームのひとりで、すご腕のスナイパー。暴走しがちな主人公を、年長者としてなだめる役だった。
決め台詞が「さあ、お仕事の時間ですよ」だ。
映画化もされ、あたしは決め台詞を聞きたくて、腐女子仲間と観に行った。
くっ……。またどうでもいい情報を思い出してしまった。一体、どうなっているんだろう、あたしの記憶は。
いや、この世界の転生システムは!
ヘビに睨まれた蛙ではなく、アルティメットレアに睨まれた腐女子は、感動でプルプルと震えながら、カシューネを見上げた。
ライース兄様、カシューネ、お父様のキャラ絵を並べて、アドルミデーラ家三段活用ネタがSNSで話題になったが、本当にこの三人はよく似ている。
初のアルティメットということで、キャラクターデザインを手掛けたイラストレーターが描き起こしたキャラなので、そうなって当然だろう。
つまり、あたし好みのキャラなのだ。
意地になってカンストを目指し、震えあがるくらいの金額をつぎ込んだことも思い出し、あたしの胸が痛む。
隣にはライース兄様、目の前にはカシューネ。
これは……至福の時間というよりは、拷問に近い時間だ。
悶えそうになるのを必死に堪える。
ぴくりとも動かないあたしを、カシューネは不思議そうな目で見ている。いや、眉間に皺がよっている。
「この娘が?」
カシューネはあたしをひと睨みすると、ライース兄様に目線で問いかける。ちょっと不機嫌そうだ。
なぜだろう。愛想があまりよろしくない。
でもカッコいい。
そこがカッコいい。
イケオジ予備軍はなにをしてもカッコいいのだ。
ライース兄様と並ぶと、すごく絵になる。
できれば、もうちょっと下がって両者が見つめ合うアングルからじっくりと鑑賞したいのに、ライース兄様に手を握られているので動けない。
「はい。異母妹のフレーシアです」
「そうか。そうか。お前が兄上の……」
「レーシアは初めてお会いするかな? この方が、父上の異母弟――カシュー叔父上だ」
ライース兄様が紹介してくれたが、あたしは反射的にライース兄様の後ろに隠れてしまった。
後ろに隠れながら顔だけをだして、おっかなびっくりカシューネを見上げる。
こ、これは……ちょっと怖い大人に会ったときの反応だ。
警戒モード!
人見知り六歳児の本能が発動してしまった!
あたしの反応に、玄関ホールが微妙な空気に包まれる。
カシューネ様! 幼い子ども相手に凄んでどうするつもりですか! という空気だ。
「レーシア、カシュー叔父上にご挨拶はできるかな?」
場をなんとかとりもとうと、ライース兄様があたしの背中を優しく叩く。
その手に押されるようにして、あたしはカシューネの前に進みでた。
ライース兄様に教えてもらった、スカートを両手で軽く摘み、膝を折るという貴族女性の挨拶を行う。
「はじめまして。カシューおじ様。ジェルバ・アドルミデーラ侯爵のジジョ、フレーシア・アドルミデーラともうします」
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