2-14.優秀すぎる教育係

 お父様の言葉が脳内で木霊して、くわんくわんと鳴り出す。だんだん頭がくらくらしてきた。


 ごめんなさい、お父様。そろそろあたしは……限界です。


「レーシア! 大丈夫か!」


 上体が左右にぐらんぐらんと揺れだしたあたしに気づいたライース兄様が、慌てて側に寄ってくる。


「父上、このあたりで許してやってください。レーシアはまだ完全に回復しておりません」


 あたしをきゅうっと胸の中に抱き寄せながら、ライース兄様は椅子に座っているお父様を睨みつける。


 ライース兄様……そんな……ぬいぐるみを抱きしめるような、ぎゅうぎゅうな抱き方をされると、息ができなくて苦しいです……。


 それに、どちらかというと、あたしは抱きしめられるよりも、他の攻略キャラをぎゅうぎゅう抱きしめているライース兄様を陰からコッソリ観察したい方なんですが……。


「でも……なあ……」


 酸欠になりながらも、困り果てたようなお父様の声が聞こえた。


「父上、でも……ではありません。そんなにレーシアの行動が心配で安心できないのなら、レーシアが回復するまで、わたくしが側について見張っておきます」

「いやしかし……それだけでは……」

「では、お祖母様と相談して、レーシアにふさわしい教育係を手配いたします。教育係が決定するまでは、わたくしがレーシアを教育します」

「ライースが教育だと?」


 ライース兄様の発言に、お父様は驚いたような声をあげる。

 あたしを抱きしめるライース兄様の手がゆるみ、その隙間からお父様の顔が見えた。


「はい。レーシアがどこにでても恥ずかしくないよう、貴族の子女としての常識、品格と教養を、わたくしがしっかりと叩き込みます」


 その言葉が終わるやいなや、お父様の目がすっと細まり、顔に満面の笑みが浮かんだ。


「言ったな! 聞いたぞ! 確かに聞いたぞ!」

「はぁ、はい?」


 小躍りしそうなくらい喜んでいるお父様の豹変ぶりに、ライース兄様だけでなく、あたしも呆然とする。


(ライース兄様があたしを教育?)


 なんで、こうなるの?


 ライース兄様は家出するんじゃなかったの?


 予想外の展開にオロオロする。

 こ、こういうときは……どうするんだろう?


 ゲームで行き詰まったら、ネットで公開されている『同士』たちの情報をかき集めたり、その過程で仲良くなったヘビーユーザーに直接相談したりするんだけど……ここにはスマホもパソコンもないので、アクセス手段がない。

 自力で解決しなければならない。


 『キミツバ』では、ライース兄様は二年後、王太子の八人目の教育係になるのだから、年少者の教育スキルに関しては、全く問題ない。

 というか、優秀すぎる教育係だった。

 ヒロインとの親密度にもよるのだが、ライース兄様は高スペックぶりを遺憾なく発揮して、王太子をみっちり教育してしまう。


 だけど……。


 だけど……。


 妹を教育したという設定はないよ?



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