2-15.ライース兄様のエサ
ライース兄様が全霊をかけて教育するのは、王太子と王太子の一番近くに仕えることとなる小姓たちだけだ。
まあ、そもそも、ゲームでは妹は死んでしまっているのだから、死人相手に教えることもできないよね……。
妹が生きていたら、たしかに、ライース兄様が教育にかかわっていてもおかしくはない。
ゲームではプレイヤーがアクション選択に迷っている間は進行が止まって長考も可能だけど、『ここ』はそうではない。
あたしがあたふたしている間も、時間は容赦なくどんどん流れていく。
リセットボタンなるものはもともとないし、『巻き戻しの砂時計』もないので、やり直しはきかない。
お父様は勢いをつけて椅子からたつと、ライース兄様の両肩をがしっと掴む。
「ライース……ここに留まり、責任をもってフレーシアの看病と養育をいたすのだな? その理解で間違いないな?」
「は、はい……」
「その言葉に、嘘偽りはないだろうな?」
してやったり。
とでも言いたげに、にんまりと笑うお父様。
これはもしかして……お父様の策略?
ライース兄様は、お父様の誘導にひっかかってしまった?
正妻と表立って対立しようとはしなかったお父様が、唯一といっていいほど、己の意志を貫き通したのが『ライース兄様を後継者にして、家督を譲る』だった。
その想いはずっと以前からあり、お父様は正妻に悟られぬよう、密かに準備をしていた。
これはその一環なのだろう。
お父様にしてみれば、またとない好機とでも思っていそうだ。
「…………」
お父様の意図を悟り、ライース兄様は諦めにも似た苦々しい表情を浮かべる。
「レーシアが回復し、教育係が手配されるまでですよ? 暫定的処置ですからね?」
「わかっている。わかっている。だが、その間、少――し、領内の執政を手伝ってもらってもかまわないよな? それくらいならできるだろう? ライースならできて当然だよな?」
「…………そういうことですか。はめられましたね」
ライース兄様の口からため息がこぼれる。
「仕方がありません。レーシアが回復し、教育係が手配されるまでですからね……」
と、強く念を押しながらも、お父様の言葉には素直に承諾するライース兄様。
一度、自分の負けを認めると、ライース兄様は潔い。
そして、勝負を挑まれると、真正面から受け止める。
そういう一直線というか、純真なところが、あたしは気に入っている。
「ふっふっふっ。出立時間を遅らせて、二時間、いや、三時間、ねばったかいがあった!」
嬉しそうに笑うお父様。
「お父様。ひどい。あたしは、ライース兄様のエサにされたの?」
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