2-16.働けるのに働かざるもの

 あたしの言葉に、お父様、そして、ライース兄様が驚いた顔になる。


 この館の主人――お祖母様――は『働けるのに働かざるもの食うべからず』……という主義だ。

 子猫にだって倉庫番――ネズミ捕り――の役割を与えるくらいである。


 屋敷にやってきてお祖母様とはじめて対面したとき、お祖母様はあたしにもその話をした。特例はなく、あたしが元気になったら、なにか役割を与えると、言っていた。

 そして、あたしの当面の『仕事』とは、病気を治し、体力を回復して、元気になることだ、とお祖母様は言った。


 お祖母様の元にしばらく滞在したいと思うのなら、ライース兄様は働く――領主の長子としての義務――を果たさないといけない、というわけだ。


 拒否すれば、お祖母様に屋敷から追い出されるだろう。


 お父様はライース兄様からその言葉を引き出したくて、あたしに説教する風を装い、今の今まで粘りに粘ったということだろうか……。


 ライース兄様は屋敷によりつかなかったが、家族を大事に想っている。

 お祖母様やお父様には敬意を払い、異母であろうと、弟や妹には兄として優しく接していた。


 フレーシアは知らないことだが、ゲームの設定では、正妻とは仲が悪いライース兄様だったが、どういうわけか、彼女の息子、娘とは良好な関係を築けているのだ。


 妹思いのライース兄様なら、きっとあたしを助けに入ると、お父様はわかっていたのだろう。


「フレーシア……それは違うぞ。大事な我が娘をエサなどにするものか。父の言葉にも嘘偽りはないぞ?」


 お父様の大きな手が、あたしの頬をゆるりとなでる。

 剣を握り慣れているゴツゴツした手だが、暖かくて気持ちいい。


「たしかに……説教にしては長い時間だったな。疲れさせて悪かった……。だが、父の説教は本物だぞ」

「ほんもの……?」

「そうだ。全てがフレーシアに言いたかったことだ。それだけ父は心を痛め、心配したのだ。フレーシアはまだ幼い故、聞いているフリだけでも許そうと思ったが……理解できるのなら、父が言った言葉、しっかりと心に留めておきなさい」

「……わ、かりました……どりょくいたします」


 ばれてたのか……。

 今度は、素直に、心から反省する。


 正妻に頭が上がらず情けない男かと思っていたが、ジェルバ・アドルミデーラ侯爵は、私が思っていたほど悪い父親でも、愚かな男でもなかったようである。


 王家の外戚としての駆け引き、書記官の仕事、侯爵家の義務、広大な領地の采配……やることがたくさんありすぎて、家のことは妻に任せっきりになってしまったのだろう。


 仕事はめちゃくちゃできるけど、家事育児は妻に任せっきりで、一切、顧みない父親……。

 そういう家庭は前世でも、そして、『キミツバ』の上位貴族家庭でもあるあるだ。


 アドルミデーラ侯爵は、世の中にゴロゴロと転がっている、愛情表現が苦手な、ただの不器用な男のひとりだ。


 ゲーム中や、六歳のフレーシアでは気づくことができなかった設定だ。



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