4-2.ノーマルキャラを侮るな

 屋敷で出会ったノーマルキャラからは、目新しい情報はたいして得ることができなかった。

 そもそも協力者ガチャは、ライース・アドルミデーラを中心としたストーリーを補強するものだ。

 ライース兄様の情報はすでに思い出しているので、ノーマルキャラ程度では、補完される情報はない。


 とはいえ、あたしのような名も無いモブよりも、優秀なキャラであることには違いない。

 がんばって成長させれば、ハイノーマルやレアにだってなるのだ。


 家出の気配が全くみられないライース兄様には、この先に必要となる貴重な人材だ。

 ガチャキャラの皆様には、アドルミデーラ領の発展のためにも、ライース兄様たちの死亡フラグ回避のためにも、しっかり成長してもらいたい。


 いや、ゲームのシステム的な観点で考えると、キャラたちの成長を座して待つのではなく、こちら側から接触して、教育を施して成長させないといけないのか。


 なにしろ、ここはユーザーに厳しかった『キミツバ』の世界だ。

 オートモードの生ぬるい世界であるはずがない!

 

 『キミツバ』はストーリーの中盤からガチャシステムが追加で導入された。

 美麗なキャラのカードをただ揃えていくだけという穏やかなものではなく、キャラは五つの属性に分類されていた。


 なぜ、そのような属性が加えられたかというと、五種類あるタイルのうち、三つ以上のタイルを揃えて消していくパズルゲームもガチャと一緒に導入されたためだ。

 

 いわゆるカードキャラでチームを作って、カードの属性ボーナスと、消去した個数によって必殺技が炸裂してタイル消去が有利になるとかいうアレだ。


 カードを合成したり、パズルゲームをクリアすることでキャラが成長し、キャラ専用ストーリーやイベントストーリーが解放されるという仕組みが加わった。


 色々なゲームでみかけるパズルゲームそのままなので、斬新さは全くない。

 タイルの色は一般的な赤、青、緑、黄、紫なのだが、なぜかその属性が軍事力、統治力、外交力、生産力、開発力となっており、乙女な気配の乏しいパズルゲームだった。


 ちなみに、デイラル先生のお弟子さんたちは、紫の開発力。

 メイド、従僕は、緑の外交力か黄の生産力。

 屋敷の警備をしている兵士は、赤の軍事力。赤のメイドと従僕もいるが……それは戦えるメイドと従僕なのだろう。

 アドルミデーラ領主代理の侍従は青の統治力だ。


 パズルゲーム自体はおまけ的なものなので、さほど難しくはない。

 だが、とにかく、キャラクターを成長させないことには詳しいストーリーは解放されないし、無課金でクリアを目指すならひたすら同色のタイルを揃えて、黙々と消していかないといけない。

 簡単で単調な作業が延々と続き、さらに時間がかかる。

 まるで修行のようだった。

 多忙な社会人には辛い。


 手っ取り早くキャラを育てるには、ガチャで引いた不要なカードや素材カードを合成させるといい。

 つきつめると課金だ。


 この「ジャラララジャランランラ――ン」という音を、前世のあたしは何度聞いたことか。

 死んで転生した後も聞くことになるとは、思ってもいなかった。


(スーパーレアこい! スーパーレア!)


 カルティが屋敷の扉を開いた。

 重い木の扉が開く「キィィッ」という音と同時に……。


 テッテレテロテレェェ――ン――ン!


 人工的な音が脳裏に響く。


(え? ええええ?)


 ちょ、ちょっと待って!

 こ、この音は!

 アルティメットレアがでたときの音――!


(きた――!)


 飛び上がって喜びたいのを必死に我慢し、ライース兄様と手を繋いでいない方の拳をぐっと握りしめる。


(待ってて、アルティメットレア!)


 緊張と期待に胸を躍らせながら、あたしは屋敷の中へと入っていった。

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