2-10.家族一致団結

 ジェルバ・アドルミデーラ侯爵が陰謀に巻き込まれて殺害されてしまうのは、ストーリー上、回避不可な死亡イベントだったとはいえ、原因は味方が少なかった――敵が多すぎた――からだとあたしは考えている。


 ならば、味方を増やせばいい。

 まずは、手頃なところから、家族一致団結……だろう。


 お父様が回避不可死となったとき、ライース兄様は「なぜ、あのときもっと話しておかなかったのか」と、哀れなくらいに後悔しまくるのだ。


 まあ、ライース兄様の後悔はあながち間違っておらず、もっと、家族間で意思の疎通ができていたら、回避も可能な陰謀だけに悔やまれてならなかったのだろう。


 うん、「報・連・相」は、どこの世界でも大事だね。


 父親を亡くして涙するライース兄様は見たくないので、まずは、父と息子の歩み寄りからだ。


「お父様……ライース兄様」


 あたしの声に、言い争っていたふたりは「しまった」とばかりに、同時に口をぴたりと閉じる。

 まさか、あたしの存在をわすれてた……ってことはないでしょうね?


「フレーシア、気分でも悪いのかい?」

「レーシア……つまらないものを見せてしまったね。疲れただろう? 横になるといいよ」

「…………」


 ちょっぴり慌てながら、気持ち悪いくらい優しい声でふたりから同時に話しかけられる。

 やはり親子だ。こういう誤魔化し方はよく似ている。


 あたしの存在、忘れてたみたいですね。

 はい。わかりますよ。わかってますよ。どうせ、あたしはモブになれなかったモブですから……。


「けんかするお父様……キライ」

「え……っ! フレーシア!」


 あたしの突然の宣告に、ジェルバ・アドルミデーラ侯爵の顔が固まる。

 固まったのは顔だけでなく、動きも止まってしまったようである。もしかしたら、息をするのを忘れているかもしれない。


 ライース兄様を相手にしていたときは、こめかみがひくひくしていたくらいだったけど、あれよあれよという間に、悲壮な涙目になっていく。


 娘の「パパ嫌い!」発言は、こちらの世界でも有効で、クリティカルヒットするみたいだ。

 中身は三十路だけど。


 それを確かめてから、あたしは、キッと目に力を込めて、ライース兄様を睨みつける。


「お父様をいじめるライース兄様もキライ!」

「ええええっっ!」


 背後に「ガーン」という効果音がでてきそうなくらい、ライース・アドルミデーラも衝撃を受けたようである。ものすごく驚いている。


「どうして……なかよくできないの?」


 あたしのうるっとした目……が、だんだんうるうるしてくる。

 ああ、これは、六歳の少女の願いなんだ、とあたしは思う。

 フレーシア・アドルミデーラは、ふたりの言い争う様子を見て悲しんでいるんだ。


「フレーシア、別にわたしたちは喧嘩などしていないよ」

「そうそう。単なる見解の相違を指摘しあっているだけだよ。父上をいじめてなどいないから」

「ウソ。なかよしには見えないです……ウソはだめだってお祖母様がおっしゃっていました」



***********

お読みいただきありがとうございます。

フォローや励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけますと幸いです。

***********

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る