1-27.サディリア・アドルミデーラ

 デイラル先生は再びあの「ふぉっ、ふぉっ」笑いを披露する。


「けっこう、けっこう。よい兆候です。フレーシアお嬢様、粥を用意さておりますから、あとでそれを召し上がってくださいませ」

「はぃ……」

「お食事をなさった後は、お薬をしっかり飲んで、眠ってください。眠くなくても、身体の回復を早めるために、かならず寝てください」


 あたしよりも、爺ややメイド長が必死にデイラル先生の言葉を聞いている。


 爺やなど、懐からメモ帳を取り出して、一生懸命にメモっている。


「食事は少しずつ、回数を多くして、ゆっくりと慣らしてください。お腹が空いたとしても、一気に食べてはだめですぞ」


 あたしと爺やが同時に頷く。


 食事の詳細や薬の処方は、使用人に指示をだすということで、デイラル先生は診察の終わりを告げた。


「ジェルバ様、お話したいことも山ほどおありかと思いますが、フレーシアお嬢様は消耗なさっておいでです」

「う……うむぅ」

「世話は使用人に任せ、詳しい話は明日になさいませ」

「………………わかった」


 デイラル先生の指示に、お父様はしぶしぶ頷く。お父様の説教タイム突入とならなかったことに、あたしは心のなかで安堵する。

 お父様の隣では、息子のライース・アドルミデーラが黙ってデイラル先生のお話を聞いている。


 お祖母様、お父様がいるので、ライースはとても静かでおりこうさんだ。


 まあ、どちらかというと、寡黙なキャラなのだが、それを考慮しても、発言が少ないように思える。


 カルティもこの部屋にいたのだが、使用人なので、若いメイドといっしょに、部屋のすみっコの方で、静かに直立不動の姿勢を保っていた。


 気配を消して、というか、呼吸すらしていないんじゃないか、っていうほど、ぴくりとも動かず、背景として溶け込んでいる。


「フレーシア」

「はいっっっっ!」


 凜としたお祖母様の声に、あたしの背筋が勝手に伸びる。


 このお祖母様を前にして、だらけている者などいないだろうけどね。


(サディリア・アドルミデーラ)


 ジェルバ・アドルミデーラ侯爵の実母にして、美姫として有名なマグノーリア王国正妃の実母でもある。

 ライースやあたしのお祖母様となる女性だ。


 もちろん、攻略キャラではないので、ジェルバ・アドルミデーラと同じように、脳に優しい情報が追加で加わっていく。


 前世での設定と、今世のあたしが知っているお祖母様情報が明瞭化してくる。


 お祖母様は、容姿こそ年老いてはいたが、凛としたたたずまいに、気品に溢れた所作がとても美しい……礼儀正しく自分にも他人にも厳しい厳格な女性であった。


 体調を崩す前までは、貴族の子女にマナーを教えていたというので、礼儀作法にはうるさいヒトだった。


 若い頃はさぞかし美しかっただろう、ということは容易に想像できる。


 しかし、その見た目の美しさよりも、気性の激しさ、若くして夫を亡くし、息子が成人するまで領地を守り、発展させた才覚と男勝りな武勇伝にことかかない女傑であった。


 アドルミデーラ家の女帝だ。



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