3-40.侯爵令嬢の反省

「不治と云われていた病の治療薬が見つかったのです。それには感謝しますが、アドルミデーラ侯爵家の令嬢であるのなら、もう少し慎重になりなさい」

「お祖母様、もうしわけございません……」

「わたくしを心配しての行動だということは十分に理解しております。ですが、夜にこっそりぬけだして……泉に落ちたとは……肝が潰れるかと思いました」

「ごめんなさい」

「反省しているのならそれでよいのです」


 お祖母様はもう一度、あたしを抱き寄せる。


 はい。お祖母様。次があるのなら、あたしはちゃんと泳げるようになって、水に落ちても自力でなんとかできるようになっています。

 侯爵令嬢として、恥ずかしくない対応をしますので、心配しないでください。





 お祖母様との面会が終わった。

 お話している時間よりも、泣いている時間の方が長かったような気もするけど、お祖母様の順調な回復ぶりが確認できてほっとした。

 

 この世界の平均寿命はよくわからないけど、前世での感覚で言うのなら、お祖母様の年齢だと、そろそろ年金が支給されるかなぁというぐらいだろう。

 この先もっと生きることができる。老後はこれからだという歳だ。……たぶんその認識で間違っていないと思う。

 とにかく、まだまだお祖母様には元気でいてもらって、色々なことを教えてほしい。


 ライース兄様に促され、あたしはカルティを連れて、寝室からお祖母様の居室スペースに移動する。

 お祖母様の診察を終えたデイラル先生も一緒に退出していた。


 この後、老齢のデイラル先生は自宅に戻るらしいが、先生のお弟子さんたちが残って、交代でお祖母様の様子をみつづけてくれるそうだ。


 ちなみに、王都にいるお父様には「氷結晶病の回復薬を発見し、容態が悪化することなく、順調に回復している」とライース兄様は連絡したらしい。


 それを聞いたお父様はというと、領地に戻る日を繰り上げ、他領との交流や自領の視察を手短に済ませるというスケジュールで戻ってくるらしい。

 例年なら十月の中旬辺りに領地に到着しているのを、今年は九月の末辺りにするそうだ。

 

 王都を行ったり来たりするよりも、王都での用事を片付け、腰を据えて領地に滞在した方がよいと、お父様は判断したらしい。


 部屋の中を移動しながら、デイラル先生とライース兄様は会話を交わす。


 不治の病と云われていた氷結晶病からお祖母様は回復したのだ。

 お医者様としては、お祖母様の経過を観察したいだろうし、容態の急変に注意しなければならない。

 氷結晶病の症状はなくなったけど、デイラル先生のみたてでは、完全回復と判断するのはまだ早いそうだ。


 たぶんじゃなくて、絶対にデイラル先生は慎重派だ。


 油断大敵。

 慎重対応。


 具合が悪くなった場合に、すぐ対処してもらえるのはありがたい。

 弟子とはいえ、医師を常駐させるとは……さすが、お金持ちはやることが違う。

 

「青いバーニラーヌの薬効で、サディリア様は順調に回復しております。フレーシアお嬢様、お手柄でしたね」

「はい。あたし、がんばりました!」


 ふたりの会話に耳を傾けていたら、デイラル先生からお褒めの言葉をもらった。

 うん、うん。

 もっと褒めてほしいな。


「デイラル先生、あまりレーシアを甘やかさないでください」


 ライース兄様が渋い顔であたしを睨む。


「褒め過ぎたら図に乗って、またとんでもないことをしでかす子なんですから」

「ふぉっ、ふぉっ。元気があってよろしいではございませんか」

「ほどほどが一番です」


 と、突然。


 チャラタラリンタラタアアアン――ン。


 とかいう音楽が流れてきた。


(こ、この音楽はっ!)


 イベントが成功したときの効果音?


(ど、どうしていきなり?)


 びっくりした!

 もう少しで大声をあげるところだった。

 一体、この音はどこから聞こえてくるのだろうか……。


「レーシアどうした?」


 急にキョロキョロしだしたあたしに、ライース兄様は心配そうな眼差しを送ってくる。


「あ、あの。音楽が聞こえたのですが?」

「音楽?」

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