3-39.お祖母様のごビョウキ

「お祖母様!」


 あたしは叫ぶと、ベッドで上体を起こしていたお祖母様へと駆け寄った。


「もう、おからだは、ダイジョウブなのですか?」

「ええ。心配をかけましたね」


 お祖母様は「侯爵家の令嬢が取り乱してはしたない」といったようなお小言は一切いわずに、枕元で涙を流すあたしをぎゅっと抱きしめてくれた。


 こうして抱きしめられるのは初めてかもしれない。

 お祖母様が助かったというのは聞いていたけど、こうして実際に会って、温もりを感じて初めて実感できることもある。


 やはり、ここはゲームではなく、フレーシア・アドルミデーラにとってはリアルな世界なんだと思った。


 今まで我慢していたものが一気に溢れだし、あたしは声をあげて泣き始めた。

 お祖母様は黙ってあたしの頭を撫でつづける。


 部屋にはライース兄様やデイラル先生の他にも数人の大人たちがいたが、あたしが泣き止むのを辛抱強く待ってくれていた。


 青いバーニラーヌの花をみつけてから一週間後、あたしはようやくお祖母様との面会が許された。


 ライース兄様やカルティは、もっと前からお祖母様と顔をあわせていた。

 お祖母様の回復具合と体力の負担を考えて、オコチャマなあたしは面会を後回しにされたのだ。


 ……と言いたいところだが、なんと、青いバーニラーヌの花を見つけて泉に落ちたあたしは、屋敷に戻ったあと、風邪をひいて三日ほど寝込んでしまったのだ。そんな状態で面会などできるわけがない。


「フレーシアの病気は治りましたか?」

「はい。このとおり、ピンピンしております! もう、ヘイキです」


 あたしは涙を拭いながら、めいっぱいの笑顔を浮かべる。


 夜の秘密のトレーニング効果か、それともデイラル先生プロデュースのマジュイオクチュリの効能か、体調を崩しても回復するまでの時間がずいぶんと短くなってきた。


 喜ばしいことだ。

 この調子ですくすくと成長したら、あたしもアドルミデーラ家の一員らしいハイスペックなキャラになるのだろうか。


 乗馬はマスターしたが、現状に満足せず、さらに馬乗りを極めたい。

 馬に乗りながら矢を射るようになれたら、ものすごくカッコいいに違いない。


 木登りもしたいし、水泳は絶対にマスターした方がいいだろう。二度あることは三度あるというから、また溺れたりでもしたら大変だ。

 走りこみもぼちぼちはじめたい。


 護身術ではなく、本格的な武術も身につけておきたい。

 やりたいことがいっぱいある。

 そのためにも、秘密のトレーニングとデイラル先生のマジュイオクチュリはしばらく続けた方がよいのかもしれない。


「ライースから話を聞きましたが、フレーシアが薬草を見つけだしてくれたのですね」

「はい。お祖母様のごビョウキがよくなるおくちゅりをさがしました。まじゅくなかったですか?」

「……まぁ、お薬ですので、それなりの苦みと酸味と痺れ具合ではありましたが」


 部屋にいたデイラル先生が「ふぉっ、ふぉっ」と笑い声をあげる。


 痺れ具合って……。

 デイラル先生のお話によると、氷結晶病には、青いバーニラーヌの花びらを乾燥させ、煮だしたものが効いたらしい。

 ゲームでは花の蜜だったんだけど、この違いにはなにか理由でもあるのだろうか。


 小さな違いはあるが、お祖母様の氷結晶病は『青いバーニラーヌの花』で回復した。


 この数年先に、ライース兄様の異母妹が氷結晶病にかかった場合はどうなるのか。

 すでに『青いバーニラーヌの花』が発見されているので、シナリオがずいぶんと変わってくるだろう。

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