1-35.息ぴったり

 ふたりは無言だった。

 静止画のように固まってしまっている。


 カルティなど、不思議な生き物を観察するような目になっていた。


 あたしの謝罪に感激すると思ったのだが、なんだか、ものすごく気味悪がられているような気がする。


 頭を下げただけで、こんな反応をされるとは……ちょっと、いや、かなり傷ついた……。


「でもね、猫ちゃんを助けようとしたことについては、悪いことじゃないから! あたしは、あやまらないわよっ!」

「いや、ああいうときはだな、自分でなんとかするのではなく、大人を……使用人を呼んで、猫を助けてもらいなさい」


 ライース兄様の教え諭すような正論に、あたしはぷくっと頬を膨らます。


 前世の二十代後半までの人生があっても、ベースは、しょせん六歳児。仕草ややることが、年相応に幼い。


「木に登るのではなく、ハシゴを使うなど、色々な方法があるだろう?」

「そんなことしてたら、猫ちゃんが、池に落ちちゃうじゃない!」

「落ちるとは限らないだろ? 猫だぞ」

「猫は猫でも、子猫だよ!」

「猫ちゃんが落ちたら、あたし、池に飛び込んででも助けるよ!」

「泳げないのに?」

「木登りも、あの日が初めてだったんだから!」


 ライース兄様は「頭が痛くなる」とかいって、額に手をあて、大きなため息を吐き出していた。


 カルティはこのやりとりにかかわりたくない、と思ったのか、そろそろとワゴンの方へと移動し、息を潜めながら食事の準備をはじめている。


 八歳児とは思えない処世術だ。


「その件については……父上とお祖母様からの話を聞くといい」


 このまま言い争って食事が冷めてしまってもいけない……と、ライース兄様は、話を強引に打ち切る。


 あたしも別に言い争いを望んでいるわけじゃないので、おとなしくひきさがった。


 ライース兄様とカルティは、協力しあって、あたしの食事の準備をはじめる。


 枕をタテに二つ重ねて背もたれを整え、あたしをそこにもたれさせる。


 カルティがエプロンをとりだすと、ライース兄様がそれを素早く奪い取って、あたしにつけてくれた。


 ベッドトレイを準備したり、そこに食事の皿を並べたりと……ふたりの間に会話は少ないのだが、なんだか、奇妙な連携がとれている。


 ライース兄様が主導権を握り、カルティがそれを補助するように、細々としたものを準備していく。


 見事な連携だ。息ぴったり。


 このふたり、こんなに仲が良かっただろうか?


 ゲームでも、今世の記憶でも、こんなに仲良く並んでいるふたりの姿は見た記憶がない。


 仲良くというか、カルティがライース兄様になついているように見える。


 ライース兄様も、カルティを従えて、まんざらでもない様子だ。



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