1-33.これからのあたし

 ワゴンに載っている食事の内容を確認しながら、ライース兄様はカルティに質問する。


「デイラル先生はもうお帰りになられたのか?」

「いえ。今晩は、念のためこちらにお泊りになるそうです。お食事の後は投薬となりますが、デイラル先生が同席されるとのことです」


 きびきびとしたカルティの返事に、ライース兄様は大仰なため息をついた。


「父上が、デイラル先生に留まるように命令したのだろう?」

「領地での医療事業と教育について、現時点での報告を受けたい……とか、なんとかおっしゃってましたが……まあが……そういうことになります?」

「まったく……あの強引さには困ったものだな」

「それだけ、お嬢様のことを心配なさっているのでしょう」

「……そうだな。娘の身体は、心配だよな……」


 ライース兄様の含みのある言葉に、カルティは難しい顔をして沈黙する。


 久しぶり――七日ぶり――に見るカルティは、なんだか雰囲気が変わって見えた。


 たった七日ほどで外見がどうこう変わっるはずがないのだが、背筋が伸び、ライース兄様の目を見て会話している。


 自信がなさそうな、怯えたような表情はあいかわらずだが、それだけでもずいぶんな進歩だ。


「カルティ……」

「はい。なにか御用でしょうか? お嬢様? 足りないものでもございましたか?」


 あたしは首を横に振ると、カルティを手招きする。


 カルティは一瞬だけ、ライース兄様に『おうかがい』をたてるような視線を送ったが、ライース兄様が頷いたので、そろそろとあたしの方へと近寄る。


「ライース兄様から聞いたけど……あたしが溺れたとき、カルティが色々と助けてくれた?」

「いえ……わたしはなにも……」

「そんなことない。助けてくれて、ありがとう」

「え……っ」

「えっっ?」


 あたしの感謝の言葉に、ライース兄様とカルティが驚きの声をもらす。


「レーシアが使用人に礼を言うだと……」

「ありえないことですね……」

「もしかして、打ちどころが悪かったのか……」


 小声でコソコソ話している。

 ばっちり聞こえてますよ。

 ふたりの驚いた顔が……見ていて辛い。


 察するに、前世を思い出す前のあたしは、そこそこワガママだったようだ。


 まあ、母親を早くに亡くして、使用人に囲まれて、病気がちな裕福層の女の子……ともなれば、どの世界でも甘やかされたり、病気のストレスでワガママに育つ可能性は高いだろう。


 でも、そこらあたりは軽くスルーする。


 みていないさい! これからのあたしは違うから!


 驚いた顔であたしの前にいるカルティに、言葉をつづける。


 こっちの方が本題だ。


「カルティ……お父様に怒られなかった?」


 あたしの質問にカルティの表情が微妙な動きをみせた。



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