1-32.可愛い妹

 ゲームの展開――本来の結末――を知っているあたしは、ライース兄様の説明を緊張しながら聞いていた。


「レーシア……」


 ライース兄様はひととおりの話を終えると、あたしを「ぎゅっ」と、力いっぱい抱きしめる。


 ……うん、わかってます。


 わかっていますよ。


 これは、家族想いの兄が、可愛い妹を抱いている構図です。


 当然のことながら、あたしはヒロインじゃないし、小学一年生レベルだし、色気もなければ、レンアイカンジョウなんてものも、これっぽっちもありません。


 と、わかっているのに、ライースのぬくもりを意識すると、ドキドキは激しくなる一方……。


 あと、ちょっとの刺激があれば、まちがいなく心臓が簡単に破裂してしまう。


「生きていてくれて、ありがとう……」


 耳元で囁かれたライース兄様の言葉。


「…………!」


 ライース兄様の静かな声が、すとん、とあたしの胸の中に落ちた。


「ライース兄様……」

「なんだい?」


 ライース兄様はあたしから離れると、今度はあたしの手をとり、そっと握りしめる。

 まるで壊れ物を扱うかのように、ライース兄様の大きな両手が、あたしを優しく包み込んだ。


 親密度が上がれば、どの攻略キャラも一様にベタベタしてくるが、初期のライースって、こんなにスキンシップが激しいキャラだっただろうか? と心の片隅で不思議に思いながらも、あたしは、ライースの黒曜石のような黒い瞳をのぞきこむ。


「ライース兄様が、あたしの……お兄様でよかった……」


 まあ、やましい心がこれっぽっちもなかった……とは言えないが、これは、本当に心から思ったことである。


 ライースの妹に転生できてよかった……と素直に思えた。


 そして、前世の記憶を思い出し、死亡イベントを回避できたからには、ライースの妹でよかったといえる生き方をしていきたい。


 あたしの言葉に、ライース兄様の顔が一気に真っ赤に染まった。


 顔を真っ赤にさせながら、嬉しそうな、はじけるような笑顔をライース兄様は浮かべていた。


(――――!)


 すごすぎる。


 破壊力がハンパない笑顔だ。


 これがゲームなら、まちがいなく、サウンドが切り替わって、キラキラエフェクト効果が発動するシーンである。


「おれもだ。レーシアが、おれの妹で、こうして、今もちゃんと、抱きしめることができて……ほんとうに、よかった……」


 ライース兄様の両手に力がこもる。


 タイミングを見計らったかのように、寝室の扉がノックされた。


 ライース兄様はゆっくりとあたしから離れ、ベッドの脇の椅子に座りなおす。


 最後にもう一度、あたしの頭をナデナデしてから入室の許可をだす。


 扉が開き、カルティが食事の載ったワゴンを押しながら、寝室へと入ってきた。


「お嬢様……お食事をお持ちいたしました」

「ご苦労。おれも手伝うよ」

「若様、ありがとうございます」


 年下の従者の登場に、ライース兄様はおもむろに席をたった。




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