1-31.ライースの告白
最初は乱暴だったライース……ライース兄様の手の動きがゆっくりとしたものになり、最後には、優しく、やさし――く髪を撫でられる。
頭をナデナデされているだけなのに、なんだか気持ちよくなってくる。
ああ……だめだ。
さすがは攻略キャラである。
女性をメロメロにする術は、若い頃から標準装備されているようだ。
「高熱でうなされていたときも、レーシアは、熱に負けずにがんばった」
深い光をたたえた黒い双眸が、あたしをじっと見つめている。
そ、そんなにじっと見られたら……鼻血いや、熱がでてきそうだ。
ライース兄様の話によると……。
あたしが池に落ちたあの日。
カルティ・アザが大きな声で騒いでいたのが風に流れて聞こえたから、ライースはなにごとかと思い、池の方へと足を向けたという。
「カルティの叫び声が聞こえなかったら……おれは、のんびりと保養地の様子を確認しながら……時間をかけて別荘に向かうつもりだった……」
ライースの告白に、あたしは内心の驚きを必死に隠す。
ゲームの結果との『ズレ』の原因がカルティの叫び声にあるとは思わなかった。
ウルサイと、頭ごなしに叱りつけたことに、ちょっぴり罪悪感が芽生えてくる。
それによってライースの進行方向が変更され、あたしが池に落ちる現場に居合わせることとなった。
池の中から救い出されたとき――あたしは頭を打って気絶していたのでよくわからなかったが――あたしは水を大量に飲んでおり、息をしていなかったという。
さらに、夏とはいえ、避暑地にある池の水は冷たく、身体も冷え切っていたらしい。
全身はぐっしょりと濡れており、ぴくりとも動かない。顔色は土気色、身体は氷のように冷たい……。
あたしのその様子に、まだ若いライース兄様とカルティは驚き慌てたことだろう。
ライース兄様が必死に蘇生の処置をしている間、カルティは屋敷に駆け込んで使用人たちに知らせて、助けを呼び寄せた。
お祖母様の診察を終えて帰宅途中だったデイラル先生を、カルティは早馬に飛び乗って呼び戻したり……と、色々と大変だったそうだ。
「デイラル先生がすぐに駆けつけて、レーシアを診てくださったから、最悪の事態にはならなかったんだ……」
あの日のことを思い出しているのだろう。
ライース兄様の声は少し震えていたが、安堵した響きがそこにはあった。
ライース兄様の蘇生術が的確だったことに加え、デイラル先生が駆けつけたのが早かったこともあり、あたしは、奇跡的に息を吹きかえした……のだ。
カルティが騒がなかったら、ライースが池に足を向けなかったら、デイラル先生が屋敷の近くにいなかったら、あたしはあのまま子猫もろとも溺れ死んでいた……ということだ。
いくつものゲームとは違う小さな偶然が重なり……奇跡が起こったとしかいいようがない。
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