2-27.オコチャマの健全な成長

 『カルティ・アザ 晩夏の別離編』の内容を簡単に説明すると、あたしが死んだことに激怒したお父様が、カルティを領地から追放する……という事件だ。


 なぜ、カルティがお父様を暗殺しようとしたのか、アドルミデーラ家を破滅に追いやろうとしたのか、という理由が明らかにされたのだ。


 偶然なのか、それともこの時から決定していたのか、カルティが第二部の攻略キャラに昇格する布石ともなったエピソードだ。


 ジェルバ・アドルミデーラ侯爵の激しい仕置きに苦しむカルティの絵と声にファンは(色々な意味で)震え悶えたらしい。


 そして、オープニングのシークレットスチル画像は、サディリア・アドルミデーラの急死に号泣するカルティ・アザだ。

 ファンはそれを見て涙を流した……らしい。


 ファンの反応なんか思い出したって、なにがどうなるのよ!


 あたしは、ライース・アドルミデーラのシークレットスチル画像を開放するために、時間とその月の残金を全て注いだので、他のストーリーは概要しか知らない。


 運営はシークレットエピソードの映像公開はネタバレに該当すると発表し、実況等を禁止した。


 画像を入手するには仲間の協力が不可欠だったのだが……なんと、あたしの知り合い全員がライース・アドルミデーラ狙いだったのだ。


 まあ、ライースファンで繋がったヘビーユーザー同士だったら、そういう結果になるよね……。


 豆吉さんなら、全員コンプリートできるかと思っていたけど……そのときは運悪くリアルが忙しかったそうで、上位三人の開放が限界だったという。


 前途多難だ。


 お祖母様の死因がわかったらまだ対策のしようもあるのだが、とりあえず夏が終わるまで、警戒するしかない。


 あたしが生きていることで、色々な部分がおかしくなりはじめている。


 いや、あたし自身も、夏が終わるまでは要注意だろう。


 あたしはパラパラパラと、ノートを最後までめくり終えると、引き出しの中にしまった。


 鍵付きの引き出しなのだが、あたしは鍵を持っていない。爺やにたのんで、早急に鍵をもらおうと思う。


 マル秘ノートだからね。

 前世の言葉……日本語で書いたけど、日本語で書いているからこそ、見られるとちょっと困るノートだ。


 羽根ペンも元の場所に戻し、照明を消して、椅子から飛び降りる。

 その勢いで椅子が微妙に移動してしまったので、できるだけ、元の場所に戻しておいた。


 あたしが夜中にに起き出してゴソゴソしている痕跡は、できるだけ消し去らないといけない。


 そう、『穏やかな転生ライフを満喫するための三箇条』の『行動は慎重に』だ。


 あたしに前世の記憶があることも、この世界が、前世の世界でのゲームだったことも内緒だ。秘密。墓場まで持っていこうと思っている。


 なぜかというと、その方がなんか、カッコいいじゃない?


 というか、言っても信じてもらえないだろうし、幽閉コースはごめんだからだ。


 ライース兄様のバッドエンド回避、アドルミデーラ家が巻き込まれる陰謀を回避するにも、情報はできるだけ伏せておいた方がいいだろう。


 なので、あたしは夜更かしはするが、徹夜はしない。

 オコチャマの健全な成長には睡眠が必要だからね。

 ……というか、そろそろ眠くなってきた。

 あたしは閉じかけたまぶたを必死にこすりながら、寝室へと戻っていった。


 まずはこのちょびっとしかない体力を回復して、デイラル先生の激まじゅい薬から開放されなければならない。


 そしたら、木登りを教えてもらって、その流れで、乗馬、護身術と教えてもらえたら、いいかんじ……じゃないだろうか?

 護身といわず、積極的に相手を倒していく技能も教えて欲しい。


 数年もしたら、ライース兄様は凶器を持った暗殺者にガンガン狙われるようになるので、そいつらをひとり残さず返り討ちにしたい。

 できるようになっておきたい。


 ライース兄様の死亡発生イベントは大量にあるので、回避するだけじゃなく、叩き潰す必要もでてくるだろう。じゃないと、処理しきれない量だ。


 改めて、よくもまあ、運営はこれだけの死亡イベントを用意したものだ、とあたしは呆れ返ってしまった。


 ……水泳はもう水が冷たくなっているから来年だ。

 前世を思い出したら、泳ぎ方、クロールとか、平泳ぎとか泳げるんじゃない? と思ったのだが……それを確かめるのも、来年だ。

 夏も終わりに近づき、池の水はだんだんと冷たくなっているからね。



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