2-28.虚弱体質すぎるキャラ

 さらに一週間がすぎた。


 死亡イベントへのカウントダウンはまだ確認できない。


 保養地の夏は短い。

 昼間はまだ暑さを感じるが、朝夕はそれなりに冷え込みだした。


 頭の包帯もとれ、自分でスプーンだけでなくナイフとフォークも問題なく握ることができて、ご飯もみんなと同じものを食べることができるようになった。


 それにしても、回復に二週間もかかるって……フレーシアの体力がなさすぎて困る。信じられないくらい虚弱体質すぎるキャラだ。


 デイラル先生には、「もう、ベッドで寝ていなくても大丈夫」と言われて普通の生活をしているけど、ちょっと別荘の周辺をウロウロするだけで、息切れしてしまう。


 毎晩欠かさずストレッチと筋トレをやっているけど、まだこれといった効果は感じられない。


 まじゅい!


 これは、非常にまじゅい事態だ!


 体力が回復しないせいか、デイラル先生の薬がさらにまじゅくなっているのだ!


 これ以上、まじゅくなったら、もう、毒とかわらないだろう……と思うのだが、それを軽くうわまわるまじゅい薬が処方されていく。


 デイラル先生! 限界に挑戦しなくてもいいのに!

 あたしの味覚が破壊されそうだ。


 これは死ぬほどのまじゅさだ……と毎回思うのだが、奇跡的にあたしは生きている。不思議なことに死んでないのだ!


 次こそはデイラル先生の薬を飲んであたしは死ぬんだ、と思うのだが、なぜか――いや、飲んでいるのは間違いなく薬だから――あたしは死ぬことなく生きている。


 口直しが水飴から蜂蜜に変わったが、はっきりいって、それではおいつかない。


 なので、ゲームにでていた行動力回復アイテムのスイーツや、攻略キャラが好きな特別アイテムのスイーツを根性で思い出し、手当たり次第にリクエストした。


 やっぱ、根性だせば、なんとかなるもんだ。


 とはいっても『攻略キャラが好きな特別アイテムのスイーツ』は、誰がどれを好きなのかまでは思い出せないという、苦労して思い出したわりには、報われないような結果になっている。


 あくまでも、攻略キャラに出会わないことには、どうしようもないのだろう。


 しかし、ゲーム本編開始後のライース兄様もカルティも、好きな食べ物は辛いもの――酒とツマミ――なので、スイーツの話をしても全く通じない。


 だから、それがどんなものなのか、どんな味がするとか、ざっくりしたレシピや材料をいちから教えることになる。


 あたしの前世の趣味はお菓子作り……ではなく、好きなキャラの誕生日が近づくと、お菓子作りが得意な腐女子仲間とキャラの好きなスイーツを作っていたので、お菓子レシピは覚えてた。根性で思い出した。


 あたしが担当したクライアントに製菓店も何社かあったので、取材やら世間話やらで得た知識もついでに披露しておいた。


 口直しのために、必死に前世の記憶を掘り起こしたのだ。


 結局、なんだかんだいって、最後は根性だ! 気合だ!


 ゲームの本筋にかかわるようなことは思い出せないのに、どうでもいいこと――いや、口直しは必要なことだけど――だったらなんとか思い出せる。


 カルティはというと、鬼気迫る表情でスイーツを語るあたしにドン引きした。極力かかわりたくないという態度であたしに接している。薄情なやつだ!


 だが、デイラル先生の薬の破壊力を知っているライース兄様は、真剣にあたしの話を聞いてくれて、リクエストしたスイーツを数日後には用意してくれる。


 ただ、分量はうろ覚えだったので、微妙に美味しくないのだが、そこは色々と注文をつけているうちに、美味しくなった。


 口直しのバラエティが増えて、万々歳といいたいところだけど、口直しの種類が増えるのと同じく、薬もまじゅくなるって、どういうことなのよ!


「まじゅい! まじゅい! おくちゅりまじゅい!」


 を連発するあたしに、デイラル先生はいつもの「ふぉっ、ふぉっ」笑いをしながら


「それだけ元気であるのなら、大変よろしい」


 と言うだけで、薬の味が良い方向に改善することはなかった。



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