3-26.八歳児の限界

「どこ! どこなの! カルティ、それはどこでみたの? さっさとその場所を教えなさいよ!」

「え……?」


 あたしの質問にカルティは困ったような顔をする。

 宝の地図っぽい地図を見ながら、う――んと唸り声をあげながら考え込んでいる。


 あたしの期待のこもった眼差しにとまどいながらも、カルティは地図を指さす。


「ここが、別荘地で、このあたりに両親の墓がありますので、おそらく迷ったのはここでしょうか?」


 と言いながら、ぐるりと指を動かす。


 なかなか大きくて思い切りのよい『このあたり』だった。

 うん。

 方角がわかった程度だね。

 まあ、カルティの年齢はあたしよりもふたつ上の八歳だ。

 八歳にしては優秀だが、八歳に色々と期待するのは間違っているだろう。


 夜の暗闇の中で方向感覚を失い、野営できる場所を求めて、途切れがちな獣道をぐるぐると彷徨った末に、ようやくたどり着いた場所だという。


 泉の景色は覚えているが、そこまでの道は覚えていない。また、次の朝には街道に戻ることができたのだが、その道のりも覚えていないという。


 八歳だもんね。

 よく遭難しなかったよね。


 ゲーム本編のライース兄様は、ヒロインをばっちりエスコートしたんだけど、八歳のカルティは大丈夫かな。


 いや、あやふやな記憶は、衝撃を与えたら鮮明に蘇るというのが、エンターテイナー向けの展開だろう。

 ここはあたしがやるしかない!


「カルティ! サイゴノシュダンです! こうなったら、げんばに行きましょう!」

「ゲンバとは?」

「もちろん、カルティが道にまよったバショです」

「ええええっ!」

「オハカに行く道はおぼえていますよね?」

「もちろんです」


 去年の話だから、道順は覚えているだろう。でないと、ひとりで墓参りに行こうなど思わないはずだ。


「まよった場所も、トウゼンおぼえていますよね?」


 忘れましたって言ったら、ぶん殴るから。


「はい。まあ、道の選択を間違った場所ならわかりますが」


 屋敷の中で悶々としているよりも、カルティが道に迷ったあたりをウロウロする方がいいにきまっている。


「だったら、いそぎましょう」

「なにを急ぐのですか?」

「もちろん、出発のジュンビです。早くでかけるジュンビをして」


 と言いながら、あたしは本を片付けはじめる。

 まあ、一応、宝の地図は拝借しておこう。


「お、お嬢様、でかける準備って……」


 カルティの顔色が真っ青だ。


「いろいろあるでしょう。マヨナカの山道、森のなかから泉をさがすのです。それなりのジュンビがヒツヨウでしょう?」

「それなり……って、いえ、お嬢様、まさか花を捜しにでかけるのですか!」

「とうぜんです。カルティはお祖母様のご病気をなおしたくないのですか?」

「治したいですよ!」


 そうだろう。カルティはお祖母様がとても大好きだもんね。

 おそらく、孫であるライース兄様やあたしよりも、お祖母様のことを慕っているんじゃないだろうか。


「だったら、でかけましょう。さっさとふたり分の外出ジュンビをするのです」

「ふたり分? 誰と誰ですか?」

「もちろん、あたしとカルティよ! ごリョウシンのオハカマイリにでかけたとき、カルティは手ぶらだったのですか? その服で向かったのですか?」

「いえ。食料とか水とか、旅装ですし、一応、野宿の準備や……」


 そこまで言いかけて、カルティはとても嫌そうな顔をする。


「青い『バーニラーヌ』の花はわたしが捜しに行きますので、お嬢様はお屋敷に」

「いやよ! あたしだって、お祖母様がシンパイなの! それに、サガシモノは人手が多いほうがみつかりやすいのよ」

「ですが……そのようなことをお嬢様がなさる必要はございません」

「うるさい! うるさい! うるさ――い!」



*******

いつもお読みいただきありがとうございます。

〈新連載のお知らせ?〉

怖がりな魔王様は異世界に召喚されて溺愛されまくる~イケメンたちに囲まれて元の世界に帰れません~

https://kakuyomu.jp/works/16818093080945671597


BLで公開しているお話しを、もしも、主人公の魔王様が女性だったらどうなっていたのかな――という素朴な疑問から書き始めたNLです。

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