3-7.宙に舞うじゃじゃ馬

 蹄の音とともに、柵がぐんぐん近づいてくる。


「えっ! レーシア! 止まれ! 危ない!」


 ライース兄様のうろたえた声が……いや、絶叫が聞こえた。


 うん。

 ライース兄様もびっくりするくらい、いい感じにスピードがでている。

 いける!

 止まるな! ミリガン!

 このまま突撃だ――っ!


「いくよ! ミリガン!」


(ライース兄様! よそ見なんかしないで、あたしの勇姿をしっかりと目に焼きつけてくださいね!)


「わ――――っっ! レーシアぁぁっ!」

「お、おじょうさまぁぁぁぁっ! なっ、なにをぉっ――」


 ふたりの静止の声を振り切って、あたしの合図とともに、ミリガンは軽やかにジャンプする。


 タイミングはばっちりだ!


 重力から開放され、風とともに、独特の浮遊感が加わった。

 この「ふわん」とした浮遊感……癖になりそうだ。


 ローマンに比べると若干、高さが足りないが、それでも馬場の柵を越えるには十分な高さがある。


 楽しい!

 めちゃくちゃ楽しい!

 乗馬って、こんなに楽しいものだったんだ!


 なにやら背後でライース兄様とカルティが意味不明な言葉を叫んでいるけど、よく聞こえないも――ん。


 ミリガンはあっさりと柵を飛び越えてしまった。

 ちっこい馬もなかなかやるじゃん。


「やった――! ミリガン! すごい!」


 あたしの言葉がわかるのか、ミリガンは嬉しそうに嘶くと、そのまま目の前の道をパカパカと走りつづける。


 道はよくわからないが、とりあえず、目の前の平坦な道を進んでいく。

 獣道ならやばいだろうけど、人が作った道なら大丈夫だろう。


 死亡イベントが発生しないように、念のために、少しだけスピードを緩める。


 落馬による死亡ケースを防ぐためにも、乗馬スキルは早々にカンストまで極めておいた方がいいだろう。


 となると、ひたすら実践あるのみだ。

 数をこなせばなんとかなる。


 楽しい。楽しい。とっても楽しい。

 このまま遠乗りコースに突入だ。


 ……と、背後から「ドドドドドっ」という、ものすごい地響きが聞こえてきた。


「え?」


 驚いて後ろを振り向いてみると、ものすごく怖い顔をしたライース兄様と、ものすごく青い顔になっているカルティが、ローマンとセンチュリーに乗ってあたしを追いかけてくる。


「やばい……」


 あたしの回復具合をお披露目するはずが、よくわからないけど、ふたりを怒らせてしまったようだ。


 どうして、ふたりはあたしの乗馬の上達を喜んでくれないのっ!


 ローマンとセンチュリーは、砂埃をまきあげながら、猛然とした勢いであたしを追いかけてくる。


「み、ミリガン! 逃げるよ!」


 ミリガンの腹を軽く蹴って合図をだす。

 あたしの合図に、ミリガンのスピードがぐいぐいあがる。


 すぐに追いつかれるかと思ったけど、なぜかローマンとセンチュリーのスピードが徐々に落ちてきて、あたしとライース兄様の距離がまた広がっていく。


(よし、このまま……)


 逃げ切れる……と思った瞬間、ライース兄様の厳しい声が周囲に響き渡った。


「止まれ! ミリガン!」


(こわっ!)


 迫力のあるライース兄様の怒声に、思わず止まりそうになってしまった……ってあれ?


 かぱっ……ぱか……かぱ……ぱか……。


「ぶるるるう……っ」


 急にミリガンのスピードが落ち、最後には一歩も動かなくなってしまった。


「ちょ、ちょっと! ミリガン!」


(どーしちゃったの?)


 腹を蹴ったり、手綱を操ってみたりしたけど、ミリガンはピクリとも動かない。


(な、なに? なぜ?)


 石のように……公園にあるスプリング遊具のように、ミリガンはその場から動かなくなってしまった。


 ちょっと、ライース兄様! あなたは動物にも命令できるというのですか! 特技ありすぎです!



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お読みいただきありがとうございます。

――物語の小物――

『スプリング遊具』

https://kakuyomu.jp/users/morikurenorikure/news/16818023213670879018


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