3-6.馬で駆ける少女

 というわけで、あたしはライース兄様とカルティと一緒に馬場にいた。


「いいですか? ライース兄様! しっかりと、見ててくださいね!」


 あたしはミリガンの背に……よいこらしょと跨り、馬場の中をとっとこと駆け回る。


 さあ、ライース兄様! わたしの回復具合をしっかりその目で見て、実感してください。


 あたしは元気になりましたよ!


 ミリガンは賢いので、特別になにもせずとも、馬場の中を走ってくれる。


 だが、油断は禁物だ。


 うっかり落馬なんかしたら、大騒ぎになってしまう。

 死にはしないだろうけど……二度と乗馬禁止とかになったらやだ。


 領内の馬の中から選びぬかれただけあって、ミリガンはとても穏やかで、びっくりするくらい優秀だった。


(がんばれ! ミリガン!)


 あたしは速歩、駈歩、襲歩……さらには、反転など、人馬一体の技をなめらかに披露していく。


 ライース兄様とカルティの驚いた顔が目に入った。


 いや、あたしもびっくりしたよ。


 フレーシア・アドルミデーラという女の子は、体力はちっともないんだけど、学習能力はものすごく高かった。


 ちょっと手先が不器用なのが気になるが……六歳児だから、そこは仕方がない。


 あたしは文字通りスポンジが水を吸収するように、あっという間に乗馬技術を習得したのだ。

 あたしの訓練を見守っていた厩番の驚いた顔が、なんとも印象的だった。


 夜の秘密特訓も大いに影響しているのだろうね。体幹を鍛えておいてよかったよ。


 乗馬だけでなく、勉強の方も……精神年齢が高いということもあり、あたしは驚異的なスピードで理解していく。


 これは……転生特典か、アドルミデーラ家の一員補正が入っているとしか思えない。

 外見はモブっぽいけど、なんということでしょう。あたしも高スペックキャラのようである。


 どうやら、能力値が低いとか、役立たずとかいわれて、侯爵家から追放されるパターンではないようだ。


 体力はないが、運動神経はすごくいい。


「おお――っ」

「お嬢様、すごいです」


 ライース兄様とカルティの称賛の眼差しに、あたしはとても嬉しくなる。


 ミリガンはとてもちっこいけど、あたしの思ったとおりに走ってくれる。


 ちょっと、ずんぐりむっくりしているけど、それはそれで可愛くて、愛嬌がある。


 あたしもライース兄様がローマンにやるようにブラッシングをしてみたかったのだが、それは全員から止められてしまった。


 なので、おやつをあげたりしてミリガンとは仲良くなった。


 仲良くなったので、こんなこともできちゃったりする。


「ミリガン! いくよ!」


 そう言うと、あたしは軽くミリガンの腹を蹴った。


 あたしの合図にミリガンは「ぶるん」と首を振ると、徐々にスピードを上げていく。


 風がすごく気持ちいい。

 とってもワクワクしてきた。


「なにぃ! レーシア! なにをやっている! 止まれ!」

「えっ! お、おじょうさまあっっ!」


 あたしがなにをやろうとしているのか察知したようである。

 背後からライース兄様とカルティの叫び声と悲鳴が聞こえたが、当然、無視だ!


 止めてくれるな! お兄様!


「あ――――! おじょうさまあっ!」

「レーシア! やめなさい! 止まりなさい!」

 

 ミリガンは加速したまま、馬場の柵にめがけて迷うことなく突っ込んでいく。




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