2-5.デイラル先生の薬★
あたしは大きく息を吸い込むと、右手でコップをぐいとつかみとる。
そして、左手で鼻を強くつまむと……一気に、コップの中身を飲み干した。
(ママママ、マジューイっ!!!!)
覚悟はしていたが、六歳の少女にこの味は……厳しすぎる。
全身の毛穴から、嫌な汗が一気にどばーっと吹き出すような感覚だ。
この味をなんと表現したらいいのだろうか……。
言葉にならない不味さだ。
あたしは薬の不味さに身悶えながら、涙をだらだらと流した。
薬と一緒に、さっき食べたドロドロ朝ごはんまでが逆流してきそうだ。
「レーシア! 我慢しろ! 吐くな! 味わうな! 飲み込め! 飲み込め! がんばって飲み込むんだ!」
青い顔をして、ライース兄様があたしの背中を懸命にさする。
ライース兄様もデイラル先生の薬の不味さは……身をもって知っているようだ。
デイラル先生はアドルミデーラ家の主治医で、ライース兄様はアドルミデーラ家の長兄だもんね……。
あたしよりもお付き合いが長そうだ。
でも、残念なことにデイラル先生の調合したお薬はよく効くのだ。
不思議なくらいよく効く。
よく効く薬は前世でも今世でも、苦いという設定のようだ。
だから、こんなに苦しそうにしていても、容赦なく飲まされるのだ。
お父様も、お祖母様もデイラル先生の調合したお薬を飲んでいる。
どんな顔をして飲んでいるのか、全く想像できないけど……自分たちが飲めるからって、子どもたちも飲めるだろう、と考えるのはどうかと思う。
そして、恐ろしいことに、吐き出したりするなら『おかわり』もあるのだ……。
絶対に、吐き出すもんか!
目を白黒させながら苦労して薬を飲み込むと、あたしは口を大きくあける。
その中に、口直しの水飴が、ライース兄様の手によってつっこまれる。
口の中に水飴の甘い味がいっぱいに広がり、ようやく人心地がつく。
(あああああ……地獄のようだった)
あたしは、肩でゆっくりと呼吸を繰り返す。
地獄がどんなものかは知らないが、この薬よりもひどいところではないだろう。
生き延びたら生き延びたで、このような死ぬかと思うような苦しみを食後に味わうことになろうとは思いもしなかった。
「よくがんばったな」
ライース兄様があたまをナデナデしてくれる。
「はい。がんばりました」
あたしはコクコクと頷く。
うん。あたし、がんばった!
ものすごくがんばったよ。
六歳の子どもが、こんな不味い薬を飲むなんて……エライと思うよ。
ライース兄様、もっとしっかり気合を入れて褒めてほしい。
「昼食後も同じ薬を飲まないといけないから、がんばるんだぞ」
「…………」
ライース兄様の衝撃的な発言に、あたしの全身が凍りついたのは……いうまでもなかった。
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――物語の小物――
デイラル先生の薬
https://kakuyomu.jp/users/morikurenorikure/news/16818023211894743929
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