2-6.お父様登場
食器を下げるためにワゴンを押して退出したカルティと入れ替わるようにして、お父様があたしの寝室へと入ってくる。
この絶妙なタイミング……外で待機していたとしか思えない。
「お父様?」
「フレーシア、具合はどうだ?」
と尋ねるお父様の服装は……昨日のものよりもさらに見た目は地味で動きやすさ重視なものとなっていた。
キラキラした貴族の正装も素敵だけど、こういう、無駄を削ぎ落としたシンプルなものをさらりと着こなせるのは、主要キャラであり、攻略キャラの父親だからだろう。
モブとの違いを見せつけられたような気分だ。
ゲームでは攻略キャラばかりに目がいっていたので、こうして改めて対面すると、あたしのお父様って、なかなかのイケオジだと思った。
ライース兄様の父親だもんね。当然といえば、当然のことだけどね。
お父様の着ている服は、仕立てとか、生地とかはしっかりしているけど、凝った装飾のたぐいは一切ない。
普段着よりも質素で、身分を隠してのお忍び外出着といったところだろう。
ぱっと見たところ、その辺りを旅している旅人にしか見えない格好だ。
外套をまとえば、どこから見ても完璧な旅人になる。
お父様の登場に、ライース兄様の顔がしょっぱいものになった。
「父上、まだ出立していなかったのですか? ぐずぐずしてないで、さっさと王都の屋敷に戻ったらどうです?」
仕事が溜まっているでしょうに……と眉をひそめ、責めたてるような口調で攻撃する。
さっさとでていけ、という邪魔者を排除したいという態度を隠そうともしない。
息子の手厳しい反応に、お父様の片眉がかすかにはねあがった。
「娘の容態を確認せずに出立するなどできるはずがないだろう。それに、フレーシアには言いたいことがある」
「しらじらしい」
「なんだと……?」
お父様の声が怒りで硬くなる。
それだけで、部屋の空気がかわった。
大声で怒鳴られたわけでも、力でねじふせられたわけでもないのに、あたしは恐ろしくなって震え上がった。
六歳のフレーシアは、お父様の怒りに怯えきっていた。魂に刷り込まれているんだろうね。布団の中に潜り込みたいのをあたしは必死にこらえる。
これが、アドルミデーラ家の頂点にたつ家長の威厳というものなのだろう。
あたしは息をひそめ、身を固くして、ふたりの様子をうかがう。
ライース兄様は家長の威厳もものとせず、にっこりと微笑んだ。お父様の視線からあたしを隠すような位置に移動すると、顎をくいと上げ、お父様の目を正面から睨みつける。
今はまだ、お父様の方が少しだけ背が高い。
「笑えますね。今更、父親ぶってどうされるのですか? それほどレーシアが大事というのなら、さっさと王都に戻って、あのヒトのご機嫌を損ねないよう、努力したらどうですか?」
「ライース……」
「わたくしがなにも知らないとお思いですか?」
「証拠もないのに、めったなことを口にするものではない」
「ええ。証拠などあるはずもないでしょう。それを言い訳に、なにもなさらぬおつもりなら、最後までそれを貫き通していただきたい。気まぐれでわたしたちに構うのは、はっきり言って、迷惑でしかありません」
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