2-7.高位貴族の親子関係
ライース兄様の厳しい拒絶に、お父様は長々と大きなため息を吐きだした。
お父様が今、どういう顔をしているのかは、ライース兄様の背中が邪魔をしてよくわからない。
でも、六歳のフレーシアが震え怯えるほど、お父様はそれほど怒っていないような気がした。
いまの段階でいうと、ライース兄様とお父様の関係は、『とても微妙』という評価がつきそうな具合だった。
険悪ではないのだけど、少しばかりふたりの間には距離がある。
埋まることのない溝というべきなのか……。
ふたりとも教養のあるヒトだから、いきなり殴り合いの喧嘩とかにはならない。
だが、ライース兄様の静かだけど、強い拒絶をあたしは感じ取っていた。
ふたりの間には父と子の親しさがなかった。よそよそしい空気と緊張が常にただよっている。
高位貴族の親子関係とは、もとからこういう他人行儀に近いものなのかもしれない。
これは前世の記憶を思い出したあたしだから感じる違和感であって、もともとこの『キミツバ』の中で生きている上流階級のひとたちには珍しくもないことだろう。
上流層になると、父親は王都の屋敷、子どもたちは領地の屋敷で幼年期を過ごしたり、妻ごとに別邸を与えられたりしている。母親ではなく乳母に育てられ、しばらくすると教育係がつくのが一般的だ。
庶子のフレーシアなど、年に数回しかお父様とは会っていないし、親しく会話をした回数となるともっと少ない。
お父様はアドルミデーラ家の家長として、長兄のライース兄様には毅然とした態度を崩さない。
ライース兄様もライース兄様で、貴族の子息として礼儀正しく父親に接し、アドルミデーラ家の後継として、お父様をたしなめたりはしている。
このような反抗的な態度をとっても無事でいられるのは、ライース兄様が優秀な長兄であるからだ。
ライース兄様がお父様に対して攻撃的な態度をとる原因は――ゲームの公式設定を信じるのなら――ジェルバ・アドルミデーラ侯爵の正妻にあった。
ジェルバ・アドルミデーラ侯爵は、正妻の言いなりで、ライース兄様の母親を表立ってかばうことをしなかった。
ライース兄様の母親もそして、あたし……フレーシアの母親も、正妻の嫉妬によって殺されたようなものである。
正妻と側室との争い。
それはアドルミデーラ家に限ったことではなく、『キミツバ』の上流貴族の家ではよくあるもめごとだ。
ライースだけが背負っている悲劇ではない。
ライース以外の攻略キャラも、正妻と側室との争いやら、後継問題、一族内のゴタゴタに巻き込まれて、心になにかしら傷を負っている。
自分だけが特別な生い立ちではない……ということをライースも自覚している。
夫のとりあい。
正妻の地位のとりあい。
後継者の椅子のとりあい。
財産をめぐっての争い。
それは、いじめとか、いやがらせとか、かわいらしいレベルではなかった。
女と女の生きるか死ぬかのガチな争いだった。
妻たちの間では、夫の目が届かないところで、生命のやりとりがおこなわれていたのだ。
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