3-22.モブの抵抗
だめだ。
このままでは、氷結晶病の治療薬を完成させることができなくなる。
やっぱり、この時点では氷結晶病の治療薬は存在してはいけないものなの?
シナリオ通りに本編がはじまるまで、バなんとかは発見されない……ということなの?
違う。
違うよね。
だって、こうして、あたしが生きているんだもん。
外見六歳児のひ弱なあたしにできることは限られている。
だったら、限られていることを全部やってやろう!
モブにすらなれなかったモブのしぶとさを思い知れ!
まずは…………。
暴れる!
「いやです! 部屋にはもどりません!」
「コラ、レーシア! おとなしくするんだ。危ない!」
結果、ライース兄様の動きは止まったが、ぎゅうぎゅうと抱っこされる力が強くなり、動きを簡単に封じられる。
だったら…………。
叫ぶ!
「デイラル先生! デイラル先生! でてきてください! おはなしがあります!」
「ちょ、レーシア!」
ライース兄様がうろたえ、慌ててここから離れようとする。
負けてられない…………。
泣き叫ぶ!
「デイラル先生! デイラル先生! あたしのおはなしをきいてください!」
再び号泣しはじめたあたしに、ライース兄様がうろたえる。やった! ライース兄様の動きが止まった!
まだだ!
まだ、デイラル先生は、まだでてこない。お祖母様の部屋の中だ。
こうなったら…………。
最後の手段!
「キャ――! たすけてぇぇぇぇっ!」
あたしの金切り声が屋敷中に響き渡る。
これは使いたくなかったが、そうもいってられない。
「レーシア! いいかげんにしなさい!」
ついにブチ切れたライース兄様の怒声も屋敷中に響き渡る。
「キャ――! たすけてぇぇぇぇっ! いやぁぁぁぁぁ――っ! キャ――!」
子どもの叫び声は予想以上によく響く。
びっくりするくらい響いた。
あれ?
この独特な金切り声……どこかで聞いたような?
なにかのアニメで聞いたような気がする?
……って、今はそんなことを考えている場合じゃない。
もう、そろそろネタ切れだ。
とにかく、叫びまくって、暴れまくって、デイラル先生に気づいてもらう!
と、扉が開き、大人たちがわらわらと部屋からでてきた。
「坊ちゃま! いかがなされました!」
「今の声は!」
爺やや使用人たちに混じって、フサフサした白髪に、立派な白いひげを蓄え、モノクルをかけた皺だらけのお爺さん……デイラル先生もいた。
「デイラル先生!」
(今だわ!)
扉の方に気をとられているライース兄様の顎に、あたしは思いっきり頭突きをくらわす。
「ぐふぅっ……」
渾身の頭突きが見事に決まり、ライース兄様の拘束がゆるむ。
そのすきにあたしはライース兄様の腕の中からすべり降りると、そのままデイラル先生の方へと駆け寄っていった。
惚れ惚れするくらいの素早さだ。
前世を思い出した頃のガリガリなあたしではない。
この世の飲み物とは思えない、激マズおくちゅりを一日三回服用している今のあたしはそれなりに体力もついてきた。
体力がついてきたからわかる。
フレーシア……なかなかの運動神経の持ち主なのだ。
他の大人たちは、あたしの令嬢らしからぬ破天荒な行動を、唖然とした顔で見送るだけである。
「デイラル先生! デイラル先生!」
「フレーシアお嬢様、どうされたのですか?」
あたしは涙を浮かべながら、デイラル先生を見上げる。
「デイラル先生! この絵本を読んでください!」
そして、手に持っていた絵本をデイラル先生に見えるようにめいいっぱい掲げる。
デイラル先生の目が、驚いたようにまんまるになった。
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