1-24.アドルミデーラ侯爵
お父様と目があった瞬間、再び前世の記憶が蘇る。
ただ、今回の対象は、攻略キャラではないので、公式から発表されている設定もそれほど多くはない。
脳に優しい、穏やかで淡々とした情報が、ライースとカルティの設定の穴を埋めるようにして、今のあたしの中に加わっていく。
(アドルミデーラ侯爵……ジェルバ・アドルミデーラ)
広大で豊かなアドルミデーラ領の領主にして、マグノーリア王国の書記官だ。
ゆくゆくは宰相になるといわれていたヒトである。
その前に死んじゃうんだけどね。
この時期、ジェルバは王都に滞在していたはずだ。
あたしが池で溺れて死にそうだ……という連絡を受けとると、ジェルバは馬車ではなく、馬を乗り継いで、昼夜問わず走り続けて保養地まで駆けつけたのだろう。
そうでもしないと、王都から七日ほどでは、この別荘にはたどり着けない。
アドルミデーラ家の者は、文官仕事に携わっている者が多いが、男女を問わず、武術、乗馬に優れた者が多いので有名だった。
メイン攻略キャラがいる家は容姿だけでなく、才能にも恵まれているというご都合ハイスペック設定だ。
連日連夜、馬を乗り継いで、領地と王都を行き来するなど、お父様にしてみれば、造作もないことなんだろう。
ジェルバはライース・アドルミデーラの父親で、三人の妻がいた。
一番目と三番目の妻はすでに亡くなっており、今は正妻しかいない。
その正妻がとても嫉妬深い女性で、ジェルバが側室を迎えることにいい顔をしなかった。
上位貴族にしては、妻の数が三人というのは少ない方だ。
周囲には愛妻家と見られていたようだが、本当は恐妻家であり、ジェルバはずっと正妻の暴挙を抑えきることができずに、アドルミデーラ家は、そのために様々な困難に巻き込まれるのだ。
また、ジェルバの同母妹は、マグノーリア国王の正妃だった。
つまるところ、現国王は、ジェルバの義理の弟になる。
妻には頭が上がらない情けない一面があったが、ジェルバの政治的手腕は優れていた。
曲者揃いの一族をうまくまとめあげ、適材適所で領地運営も順調。
書記官としてもとても優秀な働きぶりをみせていた。
なので、ジェルバは現国王の信頼も厚く、重用されていた。
そういうわけで、アドルミデーラ侯爵はガッツリ権力争いに巻き込まれ、このヒトもゲーム中で何度も何度も死んでいるお気の毒なキャラだ。
そして、どういうルートを選んでも、最終的にはカルティに暗殺されて、本当に死んでしまう。
脳には優しい記憶情報量だったが、心臓には悪い部類の記憶内容だ。
そして、このライースに似た壮年の男が、あたしの父親であるならば……あたしの推しキャラ――ライース・アドルミデーラ――とあたしは、母親の違う兄妹の関係になる!
普通であれば、推しキャラの異母妹なんて、なんて美味しい設定……と喜びたいところだけど、この『君に翼があるならば、この愛を捧げよう』は、普通の乙女ゲームとは毛色が少しばかりちがった。
いままでの乙女ゲームが物足りなくなった乙女たちへ贈る究極の乙女ゲーム――というふざけたキャッチコピーでリリースされたゲームだ。
「フレーシア、顔色が悪いぞ。まだ寝ていた方がよいのではないか?」
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