2-33.シスコン
あたしがライース兄様に乗馬レクチャーをお願いしてから三日がたった。
あの……年甲斐もなく……ではなく、六歳児らしくわんわん泣いてしまった日は、その後、泣きつかれてライース兄様の胸の中で眠ってしまったそうだ。
そして……そのまま夕食もとらずに、あたしは朝まで爆睡してしまった。
さすが六歳児である。
晩御飯と食後の激まじゅお薬をとりそこねたが、まあ、そういう日もあるだろう、ということで、怒られることはなかった。
号泣してから三日間……ライース兄様とついでにカルティを注意深く観察していたが、死亡イベに直結しそうな事件らしいことは起きていない。
ライース兄様はあいかわらずあたしの世話を焼きたがっている。
というか、さらに、あたしに干渉してくる度合いが増えてきた。
ステータスが確認できないのがもどかしいが、『親密度』『仲間密度』が爆上がりしているとしか思えない、とても不思議な現象が発生していた。
午前中の勉強。
最初は二時間だけという話が、今では午前中まるまるいっぱいが『ライース兄様との勉強のお時間』になった。
もちろん、ライース兄様がつきっきりで教えてくれる。
文字の練習のときは、書道の時間のように、背後から手を添えて、美しい形の文字を教えてくれる丁寧さだ。
午後は午後で、書庫であたしが読書をしていると、ライース兄様は自分の部屋ではなく、書庫に大量の書類を持ち込んできては、あたしの隣で仕事をしている。
そして、わからない部分をカルティに質問しようとすると、ライース兄様がさえぎって代わりに答えてくれる。
散歩にでたらでたで、カルティだけでなく、ライース兄様が同伴としておまけについてくる。
別荘の周辺をぶらぶら散策しながら、ライース兄様からアドルミデーラ領のことを詳しく教えてもらう。
前世では、こういうヒトのことを優しい言葉では『シスコン』厳しい言葉では『ストーカー』と言うだろう。
こちらの世界の知識を少しでも早く、多く仕入れたいあたしにしてみれば有り難い話なんだけど、あたしの勉強も見ながら、領主補佐としての仕事をはじめたライース兄様はタイヘンそうだ。
ライース兄様に届く書類が日増しに増えている。
まあ、増えた書類をその日のうちに問題なく片付けてしまうライース兄様も兄様だが……。
カルティは一歩引いたところから、あたしとライース兄様を観察している。
そしてなにやら不穏な空気を感じ取ると、いつの間にか姿を消している。
そんな感じで、この三日間、あたしはライース兄様に勉強を教えてもらったり、書庫で本を読んだり、天候がよければ散歩をしたりして過ごした。
もちろん、夜は夜で秘密の筋トレとストレッチ、ゲーム内容を思い出す作業を行っている。
ただ、日中も散歩をしたり、勉強をしたりしているので、三十路のあたしはやる気満々でも、六歳児平均以下の体力、耐久力しかないあたしの活動時間はちょびっとしかない。
すぐに眠たくなるのだ。
困った。
体力をつけようとがんばると夜はすぐに眠くなるし、夜に起きたくて体力を温存……するほどの体力がない。
ニワトリが先か、タマゴが先かだ。
体力が先か、記憶の整理が先か……。
記憶の整理を昼にすれば……とも思ったのだが、ライース兄様の監視下ではそれも不可能だ。できるわけがなかったので、すぐにあきらめた。
脳内で記憶の整理をしていたら、ぼんやりしているあたしをライース兄様はひどく心配したのである。
これでは……無理だ。
そのうち、トイレにまでついてきそうな勢いだ。
あたしの知っているライース・アドルミデーラは、こんなキャラではなかった。
いや、最終はヒロインとそういう関係になっちゃったりするけど、それはゲームの終盤のことで、ヒロイン限定の反応だ。反応だったはずである。
今からだと九年か、十年後の話だ。
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