3-18.要注意人物

 薬を運んできた爺やから、食事の後は自分の部屋に戻って、大人しくしているようにと言われてしまった。

 そして、カルティには、あたしの側にずっといるようにと命じている。


 あたしって、そんなに要注意人物なのかな。心外だ……。


 爺やはライース兄様の命令で、あたしがちゃんと薬を飲み終えるか見届けにきたようだ。

 こんなときでもあたしの薬を忘れないなんて……ライース兄様はしっかしりしすぎている。少しくらいうっかり忘れてくれてもいいのに。


 その爺やも色々と忙しそうだ。

 あたしが泣きながら薬を飲み終えると、空になったコップと一緒に爺やは慌ただしく食堂をでていった。


 耳をすませば、静かではあるけど、屋敷の中は大勢の人の気配がして、なんとなく空気がざわついている。

 ますます『お祖母様ご危篤!』っぽい雰囲気だ。


 あたしは口直しのバニラアイスクリームを味わいながら食べる。


(オイシイ!)


 がんばって、がんばって、改良させて、ついに、前世の記憶と同じくらいの味になってきた。


 そう、この深みのある甘くて濃いバニラの味!

 もちろん、この世界にバニラはなかったので、それに似た香料を探してもらって……。


 ん?


 バニラ?


 最後の一口を食べ終わると、あたしはスプーンを口の中にくわえたまま、首を傾ける。


 バニラ……?


 そういえば、氷結晶病に効く薬草はバ……なんとかといって、響きがなんとなくバニラに似ていたような?

 そして、薬草の花も、バニラの花そのまんまっぽい……とか、SNSや攻略サイトの掲示板で話題になっていたような?


「お嬢様?」


 動きを止めてしまったあたしに、カルティが遠慮がちに声をかける。


「そうだ!」


 あたしは叫ぶと、次の瞬間には椅子から飛び降りていた。


「お、お嬢様!」


 カルティが驚いたような声をだす。


「絵本だ! 絵本! ……『凍える森の眠り姫』だ!」

「はい? 絵本? ……ち、ちょっと! お嬢様! どこへいかれるのですか!」


 走り始めたあたしをカルティが慌てて追いかけてくる。

 それにかまわず、あたしは猛ダッシュで、1階にある書庫へと向かった。


 扉を開けて書庫の中に……入ろうとするのだが、扉が重くて動かない。

 なんて非力なんだ!

 デイラル先生の超激まじゅおくちゅりでは、筋力はアップしないのか!


「お嬢様、どうされたのですか?」


 書庫のドアノブをガチャガチャいわせて、うんうん扉を押しているあたしにカルティが声をかける。


「中に入りたいの! カルティ開けてちょうだい!」

「わかりました」


 不思議そうにしながらも、カルティはドアノブを握り、扉を自分の方へと引き寄せる……。


 あ、押すのではなく、引くのか……。


 いつも開けてもらってばかりいたから、失念していた。


 あたしは書庫の中へと転がり込むと、一番手前にある本棚の下段を必死になって探し始めた。

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