3-17.領主の息子
ライース兄様が応接室をでたところで、デイラル先生を部屋に送り届けた爺やとばったり出会う。
「ゲインズ、レーシアに夕食を用意してやってくれ」
「わかりました」
「ライース兄様、あたし、しょくよくはありません」
と、答えたそばから、あたしのお腹が「きゅるるうぅ」と音をたてる。
ライース兄様が微笑む。
いや、笑わないで! 本当に、食欲なんてないんだからね!
ライース兄様は片膝をつき、あたしの目を真正面から覗き込む。
「わかっているよ。お祖母様が心配で、食事どころではないだろう。だけど、パンだけでも、スープだけでもいい。軽めのものでいいから、とにかく、食べられるときに食べておかないと。レーシアが倒れたら、デイラル先生のお仕事が増えてしまうだろ?」
頭をなでなでされながら、ゆっくりとした口調で言い聞かされる。
確かに……ライース兄様のおっしゃるとおりです。
反論の余地もございません。
「おれも父上に知らせを送ったら、食事をするから、軽めのものを用意しておいてくれ。デイラル先生の食事もだが……。先生がお祖母様の部屋での食事を望まれたら、そのように取り計らうように」
ライース兄様の指示は的確だ。
「お祖母様のことが心配で落ち着かないだろうが、屋敷のみなにもしっかりと食事はとるように伝えておいてくれ」
「承りました」
爺やが深々とお辞儀をする。
「カルティ」
「はい」
「レーシアとの同席を許す。一緒に食事をとってやってくれ」
ライース兄様の指示に、みんな目をまんまるにして驚く。
カルティ本人もびっくりしているようだが、爺やなんか、露骨に嫌そうな顔をしている。
いや、わざと顔を顰めて、ライース兄様の指示に難色を示しているのだろう。
使用人と一緒に食事など、爺やにしてみれば許されることではないだろう。
「カルティ、レーシアをひとりにはしないでほしい」
「承知いたしました」
「…………わかりました」
ライース兄様の意図を悟ったふたりは、深々と頷く。
爺やなど、ライース兄様の采配に感動しているみたいだ。
使用人や、ちっこいあたしにまで気を配るとは、流石はライース兄様である。
ゲームではそんなシーンもそぶりも全くなかったのだが……。
もしかして、ライース兄様の性格、ちょっと変わってしまったのかもしれない?
ライース兄様は書斎へ。
爺やは調理場へ指示をだしに。
そしてあたしはカルティと一緒に食堂へと向かう……。
同じテーブルでカルティと一緒にディナー?
ライース兄様とは母親が違うとはいえ、兄妹関係なので当たり前だったのだが、これってもしかして……トキメキお食事イベントなのだろうか?
食事中になにか起こるのかも……ってドキドキ身構えてたんだけど、特に、普通の夕食だった。
ライース兄様の指示通り、喉越しのよいあっさりとしたメニューだった。
ここのシェフは優秀だね。
そのあっさりめの夕食をあたしとカルティは淡々と、会話もなく無言で食べる。
カルティは立派なテーブルと椅子に緊張したのか、お祖母様が心配なのか、食料を口の中に入れて嚥下するという動作をひたすら繰り返しているだけのようだった。
このような大変なときだというのに、食事の後には、デイラル先生の『超激まじゅおくちゅり』が忘れずにでてきたのには……びっくりしてしまった。
(まじゅい――! まじゅい――! 今日もあいかわらずやっぱりまじゅい――!)
生理的涙をだばだば流しながら、あたしはデイラル先生の『超激まじゅおくちゅり』をごっくんと飲み干し、食事を終える。
ライース兄様は……どうやら、本邸の方から親類縁者がかけつけたらしくて、その対応をしているらしい。
ゲームだったら各地を放浪していたはずのライース兄様が、ここでは領主の長子として、しっかりとお仕事をしていらっしゃる。
これがよいことなのか、悪いことなのか、全くあたしにはわからなかった。
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