1-6.よくあるアレ?
あたしはインテリアの歴史には、それほど詳しくない……。
特別に勉強したような記憶もない……。
開け放たれた大きなガラス窓を見る。
現実世界にタイムスリップした……というのではなさそうだ。
目覚めたときも感じたが、よくある、中世ヨーロッパ風……というよりは、ゲームやアニメ、漫画などで嫌になるくらい見た、ファンタジー世界のなんちゃってな部屋だった。
さらに情報をつけ加えるなら、かなり裕福な暮らしをしている者の部屋だ。
(どういうことなの……?)
これはベッドから降りて、部屋の探検をした方がよいのだろうか。
いや、その前に鏡で自分の姿を確認するのが先だよね?
さっき見た小さな手がすごく気になる。
(これって、まさか、よくあるアレ?)
とある単語が脳裏に浮かぶ。
が、まだ、決めつけるのは早い。
(あせっちゃだめ!)
もしも、予想が違っていたらちょっと恥ずかしい。
あと数年で三十になる独身OLが、イタイ思いをしてしまう。これ以上、黒歴史を充実させたくはない。
ここは慎重に、冷静に、客観的視点で、状況確認が必要だ。
そう、仕事でトラブっても、まずは、状況確認をして、現状を把握することからはじめなければならない。
朝イチで使う資料の印刷は、状況確認が終わってからだ。
あたしはもぞもぞと身体を動かし、大きなベッドからゆっくりと床の上に降りる。
身長が低いせいで、ベッドから降りるのにも苦労した。そして、床の上に降り立った足も子どもサイズだった。
素足に毛足の長い絨毯はくすぐったい。
ペタペタと足音をたてながら、あたしは寝台をぐるりと回り、古めかしい大きな姿見を発見した。
そこに映ったのは、亜麻色の髪に若葉色の瞳の小柄な少女。
額……頭のところにぐるぐると巻かれた包帯が痛々しい。
頭でもぶつけたのだろう。
だが、どこからどう見ても、そろそろ三十歳になるよね……という、疲れたOLの姿ではなかった。
少女はふんわりとした、かわいらしいデザインのネグリジェを着ている。
生地はとても艶があって、サラリとしたなめらかな触り心地がする。
この世界にシルク……というものがあるのなら、これは、シルクのネグリジェだろう。ヒラヒラ、フリフリとした過剰な装飾はなかったが、洗練されたデザインのかなり仕立てのよいものだ。
亜麻色の髪は、肩のところあたりで切りそろえられており、寝癖ではねまくっている。顔色は青白く、手足はヒョロリと長い。
鏡の中の少女は、健康優良児というよりも、病弱で、生命の輝きとは無縁の位置にいるようだった。
しょっちゅう病気をして寝込んでそうだ。
ベッドが友だち。
走りでもしたら、すぐに息切れしそうな虚弱さだ。
透き通った肌というよりは、病的な色白……青白さが残っている。
しかし、『前世』では、喘息持ちの妹がいた。
妹は身体が弱く、しょっちゅう入退院していた。その妹の病的な肌の色と、少し違うような気がする……。
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