1-8.あたしは腐ってます

(でも、驚いた……)


 目が覚めたら、いきなり前世の記憶を思い出したんだから。


 しかも、どうも思い出し具合が中途半端……な気がする。


 なので、驚きの度合いも、とまどいも小さい。


 ショックを受けて、どうのこうの……というのもなかった。


 これもモブだからだろうか。


 いや、モブで十分だと思う。


 ものすごくハードな世界に転生して、毎日、生きるか死ぬか、食うか食われるかといったような、生命の心配をしたり、やりとりをする……というのは、性格的に遠慮したい。


 この部屋を見る限り、今のあたしは、日々の暮らしに困っているようには見えない。どちらかというと、贅沢な暮らしをさせていただいているようだ。


 となれば……異世界に転生して、せっかく、前世の記憶もおまけでついてきちゃったから、前世の知識をフル活用して、それなりに、まったりと、オトクな人生を歩みたいなって思うよね。思っていいよね?


 理不尽な死から、異世界に転生して、異世界で色々なことをやらかしました……という話は、前世でたくさんコミックや小説で読んだ。

 アニメでも見た。

 ゲームでもやった。


 どちらかというと、推しキャラに出会うまでは、好きなジャンルだったので、積極的に、それこそ飽きるほど、浴びるほどやった。


 なので、あたしはそれほど、今の自分の状況には狼狽えていなかった。


 避難訓練のように、妙に……耐性というか、異世界転生した場合の対応マニュアルが、あたしの心の中でできちゃっているようだ。


 どんな展開にも柔軟に対処でき……そうな気がするんだよね……。


 そんなかんじで、あれ? あたし、もしかして転生しちゃった? っていうようなノリで、感動すら、なんか、薄っぺらい……。


 商店街の福引で、温泉旅行を当てる感じかな?


 何億という宝くじが当たったという興奮とは少し違う。


 目覚めたときから感じていた身体の違和感、とか、記憶の違和感に淡々と納得し、ああ、やっぱりそうだったんだ……っていうところに行き着いたのかな。


 ドキドキ。

 ワクワク。


 なにそれ?


 それって、そんなに美味しいんですか?


 この枯れた感情は、花も恥じらう女子高生ではなく、かろうじて二十代にしがみついている腐女子OLだから?


 感性まで腐りはじめたとは、もう終末。


 救いようのない末期だ。


 仕事ができないくせに、あたしの仕事だけは作るのが上手い後輩と、自分の仕事を押しつけてきて、手柄だけはちゃっかり自分のモノにしている上司。

 そんなふたりに挟まれてもまれてたら、ピュアな心は枯れてなくなっちゃうんだろう。


 あたしはとことんまで腐りきっている。


 それこそ、前世の世界か、母親の胎内の中に、純真無垢を置き忘れてきたに違いない。



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