1-9.亜麻色の髪の少女
大きな鏡の前で、あたしは、これからのことを色々と考えてみる。
そもそも、あたしに前世の記憶があるみたい? な状態はわかったけど、だからどうなの? ……っていうところが問題だ。
この部屋の内容、着ている服などを見る限り、世界……いや、舞台設定は、よくある都合のいい中世ヨーロッパ風。
ここに、魔法設定があるのかどうか……一般的なものなのか、特別なものなのかは、まだわからない。
この世界は人間だけなのか、エルフやモフモフなどの異種族が存在するのか、ドラゴンや魔物、魔王といった強敵がいるのか。
神様は……?
精霊は……?
わからないことだらけだ。
乙女ゲームの世界に転生して、断罪ストーリーをぶっ壊すの?
前世の知識を活かして、まったり異世界生活を楽しむの?
チートスキルに目覚めて、世界を救うイベントに巻き込まれる?
覚えている『異世界モノ』を思い出そうとしたけど、具体的な部分までは思い出せない。
例えるのなら、前世にスマホがあった、ということは覚えている。
だけど、そのスマホの中に、あたしはどんなアプリを入れて、どんなことをしていたか、ということまでは思い出せない感じかな……。
頭がぼんやりしていて、前世の自分も、現世の自分も、いまひとつ、はっきりしない。
それこそ、前世と今世、両方の名前を思い出せないでいた。
(モヤモヤするなあ……)
腕を組み、考えるポーズをとる。
鏡の中の少女も、顔をしかめて考えている。
ふと、額の包帯に目がいく。
やっぱり、頭の怪我の影響だろうか。
(うちどころが悪かったとか……)
嫌な予感がした。
前世の記憶を思い出したかわりに、今世の記憶を失ってしまったとかは、勘弁してほしい。
不安で、心臓がドキドキしてくる。
(だ、だいじょうぶ……よね)
ただ、記憶が混濁しているだけであって、数日もすれば、色々と思い出したり、情報整理できたりするよね?
前世では、顧客相手に競合他社の分析や、現状解析、問題提議は得意だったのよ?
(大丈夫……だよね?)
あたしは、目の前の大きな鏡をじっと見つめる。
技術が未発達だったら、鏡面がゆがんでいたり、映像がぼんやりしているのだけど、前世の記憶にある鏡のように、ありえないくらいくっきりと、今の自分の姿が映っている。
亜麻色の髪の少女と目があう。
若葉色の瞳が、とても不安そうに揺れていた。
「大丈夫だよ。前世でもうまくやってたんだから、今回もうまくやれるよ」
あたしは、声にだして幼い少女に語りかける。
声もこの姿にふさわしい、子どもの声だった。
その言葉に安心したのか、鏡の中の少女はニッコリと笑った。
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